2023年1月22日 新宿ピカデリー「かがみの孤城」原監督&音楽の富貴晴美さんによるティーチインの内容を、自分が手書きしたメモから起こしました。
ご興味あります方はふせったーの方で見て下さい。
#かがみの孤城を語ろう
★注意:ネタバレあり★
2023年1月22日 新宿ピカデリー かがみの孤城 ティーチイン付き上映
登壇:原恵一監督、富貴晴美さん(音楽)
MC:永江智大さん(松竹宣伝部)
<トークパート>
MC:監督へ、富貴さんとは4度目のタッグになりますが、富貴さんとの出会いや音楽の魅力について教えて下さい。
原監督:「はじまりのみち」で初めてご一緒させて頂いた。当時のプロデューサーが富貴さんを推薦してくれた。若いのにバッハみたいな曲を書く人だと思った。
「はじまりのみち」は木下恵介監督の半生を追う作品だが、このメインテーマが大好きで毎晩聴いていた。以来、私の作品はすべて富貴さんにお願いしようと思っている。
富貴さん:嬉しいです。
MC:富貴さんへ、今作「かがみの孤城」の音楽へのこだわりポイントなどがあれば教えて下さい。
■メインテーマ「かがみの孤城」(願いの部屋やラストシーンでかかる曲)について
富貴さん:一番苦戦しました。この曲だけで10回以上リテイクをもらいました。12回目でOKもらったかな?
監督から「このメインテーマは7人の魂を救う曲だが、あなたの曲は7人の魂を救えていない」と。
原監督とは仲は良いけど仕事には厳しい方です。
途中で「監督が私の魂を救ってよー!」と思いました(笑)。
原監督:その分いい曲になったよね。「願いの部屋」でかかる曲だけど、城南海(きづきみなみ)さんという方のボーカルと、こころが走り出す絵も相まってカタルシスを感じられる良いシーンになったと思います。
富貴さん:最初は「魂を救う曲」なので優しい曲調で作っていましたが、リテイクを重ねて最終的に力強い曲調の今のものが採用されました。
原監督:曲はそうだけど、ボーカルは優しい声と力強い声と2通り歌ってもらって、優しい声の方を採用しました。
原監督:(アフレコ台本を取り出し)私は通常、絵コンテで音楽のINとOUTを指定し、絵コンテに基づきアフレコ台本を用意するんです。
このメインテーマの「かがみの孤城」は、絵コンテと台本では願いの部屋ではこころのアップになってすぐINする予定だった。ただそれだと観客の感情より先に音楽が来てしまうので、こころが「アキちゃんを…」と言ったところでINするように変えた。これにより、こころの感情→音楽→観客の感情という自然な流れになったと思う。
原監督:劇伴は普通の曲と違い、映像に合わせる作業が必要になる。
トラックダウン後の曲ではうまく合わないと思ったら、ストリングスを引いたり、ボーカルを前に出したりと、繊細な調整作業が必要になる。今回も細かくそういった調整に付き合ってもらった。
この業界の人はみんな真面目ですね(笑)。
■「全員の真実」(歯車の部屋でこころが6人の回想を見るシーンでかかる曲)について
原監督:一番長い曲。これ、6人分全員で1曲で、とお願いした。
「音楽メニュー表」という劇伴の発注表があり、これを元にデモを作ってもらい、上がってきたデモを元に打ち合わせをする。
「全員の真実」の発注は9分29秒17コマ。こんなに長い曲は劇伴では世界初じゃないの?と思う。
(監督が好きな「2001年宇宙の旅」に長さを測ったら13分くらいの曲があったが、こちらは既存曲なので、映像に合わせて作った劇伴では今回の曲が一番長いんじゃない? とのこと。)
まずコーラスが入って、リズムが入って、コーラスが抜けてストリングスのみになったりと、シーンに合わせて曲調が変わる、劇伴ならではの曲。
リオンの回想になるところ、病室で実生(=リオンの姉)と会話するシーンでは、実生役の美山さんには実生の声を死を感じさせるような儚い声で演技してもらった。そこは会話を聞いてもらいたいので、音楽のトーンを抑えてもらった。
その後、実生が亡くなり仏壇の前のシーンに変わると、ピアノの音が入るが「富貴さん、なんてニクイ演出なんだ」と思った。
アキ義父登場シーンのエレキギターは私(原監督)のオーダー。これもうまくハマった。
<お客さんからの質問パート>
Q1. 終盤、アキ(喜多嶋先生)が心の教室でこころに会うシーンでは、アキはこころと会った孤城の記憶を持っているのか?
A1:そこは曖昧にしておきたい。原作の「ついにこの日が来た」というセリフに着想を得た。全部の記憶が戻った訳ではなく、運命みたいなものを感じた、といったニュアンス。観客の想像に任せたい。
(質問者)大林監督の「時をかける少女」のラストのオマージュのような感じ?
→(原監督)そうですね、あれはいいラストでしたね。そう受け取ってもらっても構いません。私は観客に想像の余地を残す作品がいい作品だと思います。
Q2.アキの義父登場シーンのエレキギターの意図は?
A2.劇伴はストリングスものが多いが、エレキギターが入ると違和感が生まれる。違和感を出す意図で使った。
富貴さんの所の社長(注:インスパイア・ホールディングスの藤田雅章社長?)にも「原さんといえばエレキギターだよね」と言われた(笑)。
Q3.原作では「たとえば、夢見る時がある」で始まり、「たとえば、夢見る時がある」で終わっているが、映画ではラストでこのセリフは使われずにリオンがこころに声をかけるだけである。原作を変える時はどのような思いを持って変えている?
A3.リオンもアキ同様に、記憶が明確に残ったものとしては描いていない。観客の想像させる余地を残している。オオカミさまは「善処する」と言ったが、善処って確約ではないからね。
自分(原監督)としては、ラストシーンの朝のリオンは「俺、なんでここで待っているんだっけ」と思っていて、そこで学校に行く足が止まる子を見つけて「俺が声をかけなきゃ」と思って声をかけた、というニュアンスである。
ラストシーン、普通は歩く足のアップなんかで終わりにはしないが、冒頭の足取りの重いこころとの対比で、軽やかに歩いていくラストにしようと思いついたので、この形にした。
ラストシーンの劇伴の話をすると、上がってきた劇伴が歩きの絵よりも5〜6秒長くかかって終わるけど、そのおかげで歩きの絵がなくなって真っ白な画面に曲の余韻が流れて終わるというのがとても良いラストになったなと思った。これが富貴さんとやる醍醐味でもある。
Q4.姉の仏壇の前で母がリオンに「あなたは本当に元気でいいわよね」と言うがどのような心境だった?
A4.原作を読むと分かるが、なんの罪もない実生が若くして死んでしまい、姉と対象的に元気なリオンを見るのが辛くて、リオンを遠ざけようとしてハワイに留学させようとした。
MC:最後に一言ずつお願いします。
富貴さん:音楽も映画も最高傑作だと思っています。1人でも多くの人に観てもらえたら嬉しいです。
自分も実は小さい頃いじめられて不登校でしたが、家で映画を8本くらい観ていて、今の仕事にも繋がっていると思う。辛い時は逃げていいよ。(原監督:本当にその通り!辛い時は逃げてください。)
原監督:富貴さんは映画音楽のことは何でも知っているから信頼しています。
「はじまりのみち」もぜひ観て、富貴さんの映画音楽を聴いて下さい。
映画音楽は面白い。「ダンケルク」という映画で、ハンス・ジマーという音楽家が「ダダダダ…」だけの劇伴を作った。(注:Supermarineという曲のことと思われる)本当はメロディーの素晴らしい曲も作れるのに、音楽ってメロディだけじゃないんだなと。
「素晴らしき映画音楽たち」というドキュメンタリー映画も面白いので観てみてください。
以上