【小話 8】
いったい誰が流れ星に願いをかけることを初めたのだろう。
"私の空"で星が流れることは誰かの意志が消えたという証左でしかなかった。そして、毎日星は降る。
どうやらこの世界には死があるらしい、というとおそらく誤解を招くので言い換える。
この世界には蘇生がない。戦闘において不能に陥ったものを復帰させるものがないらしい。
まあ自分がそれを疑問に思ったことも疑問であったが、それは現状、気にしないでおく。
しかしだからこそ暗殺という職業がなりたっているのでもあるのよな、と傍らで新しい相方と戯れる友人を眺めていた。
彼女は――イズベルガは、暗殺者という職名でギルドに登録してあるのだ。
狩人や剣士や…大多数の職業が相手をする有象無象のエネミーと違い、暗殺者は明確に消すべき相手がいる職業。
今はそれがエネミーとなっているわけだがいずれは、というわけだ。
「ひとつしかないものはシェアしちゃダメだよ」
私が「経験値」を渡そうとしたとき、彼女は固辞してそれを受け取らなかった。
パーティとはそういうものではという発想からの行動だったのだが。
私のかばんの中身は所有という概念が薄いものばかりで、点数だってそうだった。
だからこそ気軽にそうしたのだが。
考えてみれば職業故に人から受け取ることをあまりしないようにしているのかもしれない。
人の一部を受けるようなことを。
寂しい気はしたが、それが意志なら私は干渉できない。
「ひとつしかないもの」
***
記憶の中。
全てから分離された空と星ばかりのあの森では。
私は「あの子」にいろいろなものを渡したようだ。
いくつかは交換し、いくつかのことはわすれた。
やがて押し付けるだけになって、とうとう。
「あの子」がいなくなった。
***
与えすぎることの、副作用だろうか。
それとも、自分を切り身して売っているように、イズベルガにも見えたのか。
戦闘による死があるということは、生は強く意志によるということだ。
なんらかの。"星"の、意志による。それが消えたときあるいは星そのものによって、生命は閉じる。
意志はひとつしかない。
それはわけられない。
だからなくなればしぬ。
すべてが指示語に置き換えられた身内の会話のようなあいまいさで、私はちょっぴりシン大陸を理解した。
まだセセラの村が見えるラッカー峡谷の入り口で、私はぼんやりとこの世界を"見て"いた。