山川さんの新刊『Solarfault/空は晴れて』の感想です。
山川さんの新刊『solarfault / 空は晴れて』を読了したので、まとまった感想を書けるかどうか試行錯誤してみます。
特に目新しいことは書けませんが(Twitterで言っていたファーストインプレッションがわりとすべて)、よろしければおつきあいください。
まず装丁が目を引きますよね。あれは嘘一色でもあり……。
ページを触ったときにインクの凹凸がわかるのを楽しんでいました。
はじめのページが、スイマーズのときのカバーそのままで嬉しかったです。自分の中で森澤さんシリーズといえばあの紙だったので。
最初の三部作は8,9年ほど前に初めて読み、それからも何度かpdf版で読んでいたので懐かしい友人に挨拶するように読んでいました。ちなみにこの、それなりに長い期間があとで水星に牙を剥きます。
自分が気づいただけでもかなりの箇所加筆修正があり、そのおかげで風景はより明瞭に、そして彼女の目の光はより追求の色を増すように感じました。
常日頃から山川さんの作品には感じていた点なのですが、特に本作で顕著だなと思ったのが、色に対する描写でした。
自分も一応話を書くのですが、自分の中の色による形容、描写は概念的なものに寄る傾向にあり、一方山川さんの描写は写実的に感じます。山川さんが普段から色と接していて、色に詳しいからかな。
余談ですが材料専攻なのにフタロシアニンブルーのことを初めて知りました。
特に『水底の街について』でよく思い出したのですが、自分は山川さんの書くお話、文体に憧れて、話を書いています。
以前に山川さんが「声に出して読んだときのリズム感を大事にしている」と仰っていたことがあり自分もそれを心がけている、つもりです。
『水底の街について』の光と月くんの会話、すべてが好きです。
n回言っているのでn+1回言いますが「此方の役割はただ光を照らすことだ。でもそんなことは生き物が義務にしていいことではない。生き物が別の存在の為に身を尽くすなんてあってはいけない。自分のために生きるんだ。他人の為にあんたを消費するのは絶対に駄目だ。誰かを導こうなんて思うな」という台詞が他作品との関連もあって本当に好きです。
『fragments』の途中、彼女が「ハルキ」呼びするシーンがありますよね。まあ違和感はあるけど、時間経過で呼称が変わることなんてよくあるし、と思っていた時期がありました。
P.111
パズルのピースは随所にありましたが、私は彼の罪を物理的な征服とそこからの単純な逃避だと思いこんでいたんです。
そして私も彼女のことを、完璧で、偶像的なひとだと、この長い間、ずっとそう思っていた。
あのページをめくった瞬間、私自身の罪も明らかになったんです。
何度も読んでいたのになにもわかっていなかった。私はわからずとも、経緯を得なくとも話を読めるような人間だったようです。そして登場人物をキャラクターとして自分の知っている枠にあてはめ、そのレンズを通してずっと彼女のことを見ていた。
山川さんが彼女のイラストを書くたびに、私が作ったそのレンズは更新されていきました。
その時点で一度本を閉じて、表紙を見ました。今までとは明らかに違う見え方だった。
そこには作為的でない弛緩、気心の知れた相手に会うときの安堵をたたえた、キャラクターではないただの人の彼女がいました。
しかし気は逸り、次のページをめくります。
あとがきも以前、山川さんのご厚意で拝読させていただいたのですが、ここも『fragments』ラストを読む前後で大きく印象が変わりました。この時点で名字出てるじゃん! というかもはやここで全部出ているじゃん。
白状すると、初読時はシグナルレッズのファンの日本さんの話というところにばかり焦点を当てていて、肝心のところをまた理解せず読み飛ばしていたんだと思う。
カオスな会話から自分の部活時代のことも思い出したのですが、サークルの先輩ってひとつふたつみっつ違うだけでそれなりに偉そうで面白いよね。
前はローカルに保存してたのに、月先輩今度はニコ動に上げてて草(重箱の隅)。
『fault』で私達を迎える、えりさんのごく普通でありのままの感情に脳が焼き切れそうだった。
悲しいことが本当に嘘っぽくて現実に思えない事態におぼえがあった。
つづきがあって本当に良かった。
『空』の会話に、親愛が滲んでいてたまらなかった。今まで一方の罪しか示されていなくて、必ず審判を下す人とそれを黙って受け入れる人の間に走る緊張感を感じていたから。
「ずっと」という言葉に、私の好きな曲を思い出す。「どうか僕のそばで このループをずっとみてくれるかい 出口を見つけるそのときまで」
山川さん史上もっともわかりやすい話なんだけど、私の理解度はせいぜい70%ぐらいだと思います。これから読み込んで100%にしたい。でも90ぐらいでもいいのかもしれないねとも思った。
本を初めて読むときはかなり先を急いで読む傾向にあるのですが、ページをめくる手が急くのを感じながら、Cipherのことも思い返していました。
あれは、俺がめくらなければ出来事は再生されなかった。悲しい出来事を開かれなかった。
でも今回は、暴いた先にあるエンドがとても大事で、絶対に見ておかなければならなかった。
本の佇まいから内容まで一切手を抜かない山川さんのことを尊敬しています。
これからも応援させてください。