戯曲王バレなのでよだかさんとつみさんが見れない
妖精さんのSSあれこれ
「ごめんなさい」
願いを叶えたヒトは、そう言っていた。
つくづく、ヒトというのは不思議なモノだと実感する。
私が生まれて早1年。
喰らったヒトはどれくらいだったかしら?
覚えても意味はないわ。『居た』という証拠すら喰らってしまうんですもの。
私こそは嫌悪のインフィニティコード。
通称は鎖。嫌悪を繋いで繋いで連鎖を生み出し願いを叶える。
しかしいまは未完成品。器がない、レネゲイドに意志が宿っただけの幽霊のような儚い幻影。
器が足りない、レネゲイドが足りない、全てが足りない私。
創り出したヒトは私をうんと愛してくれた。
どれくらい? そうね、地球一つ分? ……冗談よ。
FHの研究の果てに生み出された私は、命じられたままに延々と作業を繰り返す。
ある時は恋人の破局を『無かったことに』。
ある時は仕事の失敗を『無かったことに』。
ある時は親からの暴力を『無かったことに』。
結果。
『恋人である事実も無かったことに』。
『仕事自体が無かったことに』。
『そもそも生まれ無かったことに』。
うん、これで完璧だったはずなのにね?
私を使ったヒトは皆、私を嫌悪して憎んでいた気がするわ。酷い話よ、私は願いを叶えたのに。
そのうち、正気じゃなくなったから、喰らった。うん、美味しかったり不味かったり、まちまちだったわ。
その分、私は完成に近づいていったわ。もちろん、創造主の歓声にも近づいた。
でもまだまだ足りないのよ。だからまだまだこの作業は続く。
あるときだったかしら。
面白い用途で私を使ったヒトが居たわ。
『小さな友達の風船を取り戻したい』
何でも、面白おかしいピエロさんに貰った風船が、風に煽られてトモダチの手から空に消えてしまったそうで。
そう難しいことじゃあない。すぐ叶えてあげたわ。
『小さな友達の手から風が風船を奪わなかったことに』。
願いはすぐ叶って、願った彼の傍に居た小さなトモダチの手には真っ赤な風船。
私の力をもってすれば当然のこと。トモダチも彼も喜んでいたわ。
「じゃあボク、おかーさんに見せてくるね!」
そういって、小さなトモダチは嬉しそうにお家に帰ろうとしたの。
でも、お家には帰れなかったわ。
どうしてって?
だって、車に轢かれちゃったんですもの。
風船で喜んでいて、ちゃんと確認しなかったのでしょうね。
小さなトモダチの風船と笑顔を取り戻した彼は、思いっきり泣き崩れたわ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……ッ」
どうして謝ってるのか私には理解できなかったわ。
だってあなたの所為でも何でもないじゃない。小さなトモダチがちゃんと確認しなかったのが悪いんだもの。
そうしたら何て言ったと思う?
「お前のせいだ」って言ったの。
……とっても心外だったし、不満だったわ。
その頃は願いを叶える度に、よく、不満というのかしら。
黒々とした感情が私の心に溜まっていたのよ。
だからなのかしら。正気だった彼を喰らったのは。
もちろん、美味しくなかったわ。
むしろ不味くて不味くて、泣いたんですよ。
「………えぇと、妖精さん……大丈夫ですの?」
「ええ、大丈夫ですよ」
久しぶりに感情的になってしまいましたね。少し自重するわ。
目の前できょとんとしている砂の子は、私がそういうとほっと胸をなでおろしていた。
彼女はとある人物が、私を使った願いのせいで『死が無かったことになった子』。
それを知らない彼女に、今日は昔話をせがまれて聞かせていたわ。
「それで……その、妖精さんは結局何が不満だったんですの?」
「…………ありがとう、ですかね」
「ありがとう? え、えと……??」
そう、ありがとうという感謝の言葉。もしくは声。
それが圧倒的に足りなくて、渇望したのよ。
だっていつも私を使ったヒトは、ごめんなさいばっかりだったんですもの。
しかも私に向けてじゃなくて。私に対しては嫌悪を向けていたわ。……何ていう皮肉でしょうね。
「だから、貴女も感謝するときはちゃんと『ありがとう』、と言葉に出して言うんですよ」
「はいですの!」
私はティアベル・ペネツェイトハート。
とあるオーヴァードに寄生するレネゲイドビーイング。
そして喫茶店アンゼリカに住み着く妖精さん。
この居場所は、美味しいご飯におやつ、料理人の気が向けば夜食も出る。
そして何より、ありがとうの言葉がある居心地のいい場所。