病床杉と弊刀の話
いつも通りの茫洋とした顔のまま、心配のしの字も浮かべないくせに見舞いには足繁く通ってくる刀。忙しくしてるだろうし、自分の目的も他にあるのに、ときには怪我しててもやってくる。
はじめはうれしいし、待ってたと言って喜ぶ高。でも、だんだん病状も悪化してきて、起き上がれもしない日がやってくる。他の同志は、駆けずり回り、血を流して斃れていく。自分が健在ならこの手でなんとかできたことも、どんどんすり抜け消えていく。昨日は、奇兵隊の某が死んだ。大きな戦が近いのに、その情報すら手元に来ない。
明らかな動乱に屋敷の中が騒然としていても、刀は凪いだ顔でやってきて、何でもないように一刻は高の側で座っている。面会出来ない日にも、障子の向こうの廊下でしばらくは控えているらしい。近ごろは介助の手捌きもよくなった。それが、たまらなく焦るし、嫌で嫌でたまらない。
こんなところにいるより、余程この男にふさわしい場所がある。手を借りるのが情けなくて、動かない身体が呪わしい。こんな死に体ひとりに構って、時間を浪費しているお人好しに怒りが湧く。
あるとき、背中を支える手も差し出された薬もなにもかも払いのけて、癇癪が爆発する。手当たり次第に投げつけて、それはもう嵐のような暴言の数々。投げたものはいくらも飛ばないし、言いたいことは掠れ声のせいでふたつにひとつも届かない。情けなくて情けなくて、出て行け、と叫ぶと、刀は怒るでもなく静かに出ていって──
みたいな!!!