【小話6】―鍵付きの日記
花をもらうことなんてこれまでの人生にあっただろうか。
多分なかったし、前の記憶にもない。だから恥ずかしながら浮足立ってしまったし、それがちょっといいなぁと思ってる冒険者だったら愛おしくも思うだろう。
その錬金術師の人に最初に出会ったのは、たしか商品を値切っているところだったと思う。
通りがかりに盛り上がっていて、赤いマントが目に眩しかったので、なにか面白いことかしらと近寄ったのがきっかけだ。
あまりに一生懸命値切っているので、もうひとこえとサクラになってみたけれど、タンバリンがあったら叩いていただろう。
値切りが逆ギレになっていくのがおかしくて、落ち込んだ時に再生する画像リストに脳内で入れた。
その後、めでたく戦利品を手に入れた彼は、パーティの仲間なのだろう、
嬉しそうに相方の方へ駆け寄っていって、ふたりで楽しそうにしていた。
同じ空の下にいてくれる相手は、大事なものだ。
きっとあの二人はずっと同じ空の下にいて、どつきあいながらずっと生きていけるんだ。
おそらく私にはないであろう青春の輝きみたいなものを見せつけられた気がして、ひどく眩しかったし、顔が好みだった。
……なんか変なこと書いたな? まあ、日記なので素直に書くとしよう。
二度目に見かけたのは誰かの戦闘を助けているところで、つい癖で観察していたらバレかけたので逃げた。
……奇行だ。だんだん苦しくなってきた。ここは後で消す。
というか彼らは単純に目立つのである。とても強いとか、とても名声があるとかではないのだけれど、楽しそうだから。
楽しそうに冒険している冒険者というのは、きっと目立って映るものなのだろう。
やんわりその旨を告げたときは、なんで、という顔をしていたが、本人たちにとってはそんなもんなのであろう。
それで先日。何かの助けをしたときに、ちょうどエネルギーが余っていたので星読みをかけた。
星読みなんて、明日が平和ではないかどうかにかかっているのだから、大した成果じゃない。
のに、彼はお花をくれた。
多分試料用に育てていたものだろう。
びっくりしたし、すごく嬉しかった。
なんというか、ぎこちなくて、でも優しさがあって、相方さんとふざけあっているのとはまた違う眩しさがあった。
きっと彼は、誰かにこういうことをさらりとできるのだろう。
その暖かさがこの世界にあることが、夜に見る夢をいいものにしてくれる、そんな気がして、大事にとっておくことにした。
私の立っているこの世界の空のどこかに、彼がいる証になるような気がしたから。
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「…なんかストーカーぽいな…絶対見られないようにしよう」
念の為、日記の両端に糊をつけてこの日記のページだけベッタリと貼り付けた。
ゴワゴワしていて違和感があるけど、まあいいやと思った。
花びらを一枚、押し花にした。
明日は王都。
カペルは、イズベルガに聞いた花を保存しておく方法を試すために、油を売っているところを探すつもりだ。