ヒプノシスマイクコミカライズ、私的に何が「解釈違い」なのかについて。本誌のモロネタバレ含みます。一番わかりやすいところで言うと二郎がセンセンフコクで「でかい背中だけ見て育った」って歌ってたのが嘘になっちゃったよね。以下、クソ長い。
何度も言うけど私は「今まで設定がわからなかった部分に対して自分が勝手に膨らませていた「解釈」と言う名の妄想」と公式からの新しい情報が食い違ったことに発狂してるんじゃなく、「今まで公式が明文化して出してきた数少ない設定」と公式が新しく出してきた設定とが食い違ったことに頭を抱えてる。
その大きな食い違いの二つのうち一つが、生きるために仕方なしとはいえ、一郎が一番嫌っているはずのある種の「弱いものいじめ」に加担してたこと。もう一つが過去の話とはいえほんの二年前に弟たちが一郎に向かって軽蔑の目を向け、あまつさえ侮辱の言葉を吐いていたこと。
「弱いものいじめ」に加担していたことについては、まあ親が居ない三人兄弟の長男(16歳)がなんとかして下二人を生かしていかなきゃならない状況だし多分養護施設も裏は黒そう(まだここは完全な妄想だけど)だから頼ってらんないんだろうし、なんたってそこは物語だからスパイスとして必要な部分だっていう納得はできる。
今までの公式の設定との矛盾についても、歌詞にあった「弱者いじめはガラじゃねえ」「曲がったことが大嫌い 筋通すため歌うからgive me da MIC」は過去に弱者いじめに加担し曲がったことを黙認せざるをえなかった時期があったからこそ、自分の足で立って自分の両腕で弟たちを支える力を得た今こそは弱きを助け強きを挫く、筋を通す男であろうっていう「決意表明」なんだなって読めるから、この点に関しては私の中では納得がいった。
ただ、弟たちの態度はどうしても今までの設定と矛盾すると思う。特に二郎。
二郎がセンセンフコクででかい背中「だけ」見て「育った」って言ってるんだから、普通に、個々の解釈とかいうレベルじゃなくて本当に普通に考えて、昔から尊敬してきた兄ちゃんである一郎の背中だけをずっと見てここまで生きてきたって意味だと思ってた。公式HPの二郎のキャラクター説明文でも「皆に慕われる兄・一郎の背中を見て育ったため、兄のことを神格化し、自身も不良になった。」って書いてある。この文を読んで、「兄のことを神格化」するほどに「背中を見て育った」のがたったの二年間だったなんて誰が思う?
話が前後してしまうけど、そもそもこの一文と今回の漫画との矛盾を言うなら前半で納得できてるって言った一郎の行動もちょっと矛盾してくる。しつこいようだけど私には「見て育った」って言い回しがここ二年間だけの話だとはとても読めなくて、そうするとあの漫画の時間よりずっと前から一郎は二郎から見て「皆に慕われる兄」でなければいけない。でも漫画ではとても皆に慕われているようには見えないし、神格化されるような行動を取っているとはとても言えない。
ただ正直三郎については、今までの設定のここでこう言ってるのにほんの二年前にあんな発言をしてたっていうのは矛盾している!って明確に言える部分が無いのと、12歳というまだ幼いと言っていい年齢からの二年間で他者(一郎)に対する感情がどうしようもないマイナスから過剰なまでのプラスに転じたとしてもそこに今後しっかりとした理由づけがあればまあまあ納得できるとは思う。それを言ったら二郎だって15歳っていう年齢を考えればたったの二年間でも大きな二年間だからその二年だけを切り取って「育った」って言ってても無くは無いかな……と……思……いや思えないな……。
ここからは感情というか感覚的な話になってしまうけど、ブクロが好きな人の中には、今までの設定や曲やドラマパートから「全員未成年の三兄弟が、いつからかはわからないが両親が居ない状況で頼れる長男を筆頭に三人で必死に支え合って生きてきたからこそ生まれた、他のチームとは違う種類の絆」を感じ取っていたからこそ、山田三兄弟を応援しよう、こいつらを勝たせよう、って思いを持っていた人が少なからず居ると思ってる。主語が大きくてごめんだけど、でも少なくとも私はそうだった。
その支え合って生きてきた過程が「施設とかではなく、長男である山田一郎が血反吐吐いて働きながらボロアパートで下二人を育て上げた」わけではなく「三人同じ養護施設に預かってもらって育てられていた」ってだけならただ単に今までの自分達の妄想が覆されただけで、人によってショックは受けたとしても、解釈違い!こんなのおかしい!ってなる人はそんなに多くなかったはず。
けど、今回のあの弟たちの一郎に対する発言は、その「ずっと支え合って生きてきたからこそ築かれた絶対的な絆」というものを否定してしまった。
この点に関しては「オタクが身勝手な妄想を押し付けた結果解釈違いなどと騒いでいる勘違いの上から目線」と言われかねないなとは思う。でも、本当に勝手な解釈だったんだろうか。約一年かけて公式が紡いできた、私たちに見せてくれた山田家は、たったの二年間で作り上げた絆で結ばれていた兄弟だったんだろうか。
ほんの二年前まであんな関係性だったのにそこから今の深い絆で結ばれるまでに至ったからこそ尊い、って意見もわかるし、その考えにケチをつけるなんて野暮なことをするつもりはもちろんない。それこそ個人の自由な解釈だから。
でも、私にとっては、それはこの一年で公式から語られてきた彼らとはあまりにも違うものだと感じられる。
今回の弟たちの発言と、今まで開示されていた二郎の設定との矛盾・今までの曲やストーリーから素直に受け取れる印象との矛盾をなんとか無理やり解消できる説明をつけるなら、あの漫画の少し前までは一郎は皆から慕われていたし、皆の頼れる兄貴分で、弟たちもそんな兄を好いていた。けれど一郎が何らかのやむを得ない理由で「悪」ととれる行動をした。そのやむを得ない理由を知らない弟たちが、「悪事」を働いた一郎に対しそれまでの信頼も相まって大きく失望し軽蔑するまでに至ってしまっているのがあの漫画の状態。そして今後二人が一郎の行動の理由(弟たちのためだったとか)を知り和解、さらに信頼を深めるって感じかなあ。
そこから現在の崇拝といっていい状態にまで転じたってのもそれはそれで弟ズ……あまりにも手のひら返しが……と思わないではないけど、逆に一郎に対する印象に高低差があるほうが今の異様なまでの尊敬の裏付けになる気はするし、それこそまだ未熟な年齢だから仕方無いしでまあなんとか矛盾に対するモヤモヤにはケリがつくかな。
あとこれはあまりにも希望的観測過ぎてありえないだろうけど、実は二郎と三郎は一郎の言い付けで施設長におもねるような態度を取っているだけで漫画のあの時もちゃんと一郎と仲が良い、とか……。そしたら一郎だけ施設長に敵意むき出しにする理由がないんだよな……。
やや話それます。
今回の漫画、私がモヤっとする理由の大部分を占めてるのが多分「二年前」ってところ。山田家の年齢的には厳しいけど例えばせめて「五年前」だったらまだ違和感は少なかったかもしれない。
ここまで散々書いてきた二郎の「一郎の背中を見て育った」も、15歳から17歳の二年間のことじゃなくて五年前の12歳から今の17歳までのことならまあわからないでもない。
今現在一郎のことをあんなにも尊敬している弟二人がその長男をああやって侮辱していたのが五年も前のことだっていうなら、悲しくはあるけど設定として無理は減ると思う。
他にも現在に至るまで二年しかないと無理では?っていう点がいくつかある。
例えば一郎が経営する萬屋ヤマダ。あの漫画の時点ではまだ高校生で養護施設で養われていて、一方で金貸しの違法紛いの取り立て手伝いのバイトで金を稼いでいるような状態だから、萬屋を立ち上げる計画すら無いはず。そこにH歴が突然始まって世界が混沌に陥る中できっとTDDへ誘われる。まだ妄想でしかないけど、そこからは落ち着いて今後のことを考える余裕なんて無い日々になるはず。それからたったの二年。バスブロのドラマパートを聴く限り萬屋はそれなりに軌道に乗っている様子だし、生活に困り果てている風でもない。えっ、大丈夫だよね、萬屋の経営に苦しんでる描写なんかなかったよね?一郎が支払いのことで頭抱えてたのは二次創作だよね?閑話休題、激動の二年の中で萬屋の立ち上げからあそこまで本当にできる?TDDの誰かに下支えしてもらったとかならまた話は変わってくるけど。
あとは山田家じゃないけど、左馬刻の設定にもやや無理が出てくる。公式HPの左馬刻のプロフィール文には「ヨコハマ界隈を仕切るヤクザ」とある。ヨコハマ界隈を仕切るヤクザの組員、じゃなく、ヨコハマ界隈を仕切るヤクザ。これって素直に読めば左馬刻様自身がヨコハマ界隈を仕切るだけの力を持っているってことだし、実際ドラマパート聴いても左馬刻様は組の人間に兄貴って呼ばれてるし組の中でそれなりの地位にある様子だった。でも漫画の左馬刻は、あくまでこれも想像でしかないけど、まだヤクザの下っ端ですらなく多分せいぜい裏社会に足を突っ込みつつあるチンピラ止まり。その状態から、やっぱりH歴が突然始まって一郎と同じく慌ただしい混乱の中に巻き込まれていくことになる。そんな二年間で、ヤクザになってあそこまでの地位を確立することなんてできるのかな?まあヤクザの世界のことはよくわからないからなんとかなるんだったらそれはごめん……。
ずいぶん長くなっちゃった。
私は、今回のコミカライズに関して、例えばシナリオライターさんだとか漫画家さんだとか、そういう特定の方に対してふざけんな!私たちのヒプマイを汚すな!なんて馬鹿げたことは全くもって思ってない。公式はその物語の世界の創造主なんだからだいたいのことに関しては公式が全て正しいと思ってる。だって公式だし。
でも今回の件はそういうことじゃない。公式さん、今まであなたたちが私たちに見せてくれていたあの世界、大事にしてくださいよってだけなんだ。お願いだから、今まであなたたちが積み上げてきてくれた世界をないがしろにしないでくださいよ、って。
繰り返しになるけど、これはファンの勝手な妄想含んだ解釈と公式の設定の齟齬じゃあない。公式自身の今までのヒプノシスマイクという作品、世界に対する解釈が突然齟齬をきたしたという話。
もし公式が最初から今回の漫画の通りの設定を描いていたのだとしたら(そして恐らく、物語ありきなのだから最初からこの設定が土台にあったはず)、今まで私たちに開示されていた設定自体がおかしかったという話。
なんでしょうね。きっと曲の制作にあたっては各アーティストさんにその時渡せる分だけの断片的な情報を渡してお願いしてたんでしょうから、そういったところからも矛盾が生まれてたんですかね。誰が悪いとかじゃなく(曲や歌詞はどれも本当に素晴らしく、アーティストの皆様には尊敬と感謝の念しかありません)、そういった手法の弊害として。
でも、ほんっとうにしつこいようですけど、公式HPのキャラクタープロフィールと公式のコミカライズとの間で明らかな矛盾が起きたのはどういったことなんでしょうね。ちょっとやっぱりよくわかりませんね。
ところで、今まで何度も聴いてきたブクロのドラマパートを考えを整理するためにまた聴き直したんですけど、山田家の三兄弟って本当に愛しいですね。