能楽オタクから見た青江単騎の舞台セットの話まとめ(追記と江水後の追記の追記もあります)
セットの背景の絵をよーーく見ると松竹梅が描かれているとても珍しい能舞台です。あの絵の部分は鏡板と言います。
能舞台には基本的に松と竹しか描かれていません。鏡板には松を、切戸口に竹を描くのがセオリーで、たまに鏡板まで竹が侵食してるのを見かけるな〜くらい。梅が描かれているものはめったになくて全国に数えるくらい。それも鏡板ではなく貴人口という壁に描かれているのがほとんど。
つまり能舞台に松竹梅が描かれているのもレアなら、そのレアな中でも鏡板に松竹梅が一気に揃っている舞台はSSR。そんな超特殊な舞台をセットに採用しているのは必ず意図があるはず。ミュ陣営が意味もなくそんなことするはずないので。そこは信頼しかないので
鏡板に梅の花が描かれていたこと、梅の枝ぶり、笹竹が添えてあったことなどの特徴を踏まえると、参考にしたのは横浜能楽堂だと思われます(こちらの能舞台は前田家ゆかりの舞台を移植したもので前田家の家紋の梅を鏡板に描いたのだろうと言われています)
そもそもなぜ一般的な能舞台には梅が描かれていないかというと、梅は演者と観客が咲かせるからわざわざ描かないのだという有名な説があります(諸説あるがの!)
その説を採用するなら演者と観客が場を作る舞台演劇という意味で梅の絵は完全に蛇足です。青江単騎は観客が参加する手遊び歌があるので特にそう
でもあえてセットに梅が描いてあるのは最後の壽の歌詞にリンクさせるためと、おそらく梅の花が演者(荒木さん)と観客以外の存在を表現しているからではないかと思いました
青江を旅に送り出した本丸の仲間達、そして舞台からは見えないスタッフ関係者の皆さん、いろいろな事情で現場に行きたくても来られなかった主たち、舞台に関わった全ての人たちを梅の花に仮託しているのでは?一人舞台で戦う青江の背中を梅の花の姿でずっと見守り続けているのではないか。青江と荒木さんめっちゃ愛されてるよね…BIG LOVEじゃん…
単騎という一人芝居で、かつこういうご時世だからこその表現、この舞台だからこそできた荒技だなぁ。たぶん正統派の能舞台でもよかったと思うんです。能舞台をセットに使った意図はそれでもちゃんと伝わったと思います。でもあえて松竹梅が揃った舞台を選択したことで+αで全国を旅して僕からみんなに会いに行くという荒木さんの意志に寄り添い、見えないけどみんないるセットになったと思う。あそこにはみんないる。
配信見直して、極に衣装直しした後の立ち位置がいちいち常座(左奥)なのが最高ですね。そう、あそこが主役の定位置!そして常座に立てば後ろにしっかり松竹梅が見える!あなめでたや!めでたや!みたいな。極になってから明確に常座に立つようになってるのです。それまではのらりくらりしてたのに。
松竹梅揃っているっていっても竹は笹の葉がちょっと見えるだけなので分かりにくいかと思います。セットのモデルになっていると思われる横浜能楽堂の鏡板の写真と見比べると見つけやすいです
(追記)
後ろの大きくえぐれた松の絵は仲間が増えることを喜べない青江の心情を表してそう。能舞台の松は「寿」の字を鏡面反転させた樹形で描かれている説があるのでその松が欠けているのは心から寿げない青江の苦悩そのままなのでは。あの壊れて水没しかけた舞台は青江の心象世界なのかもしれない。自分の苦悩を写したかのような鏡板の欠けた寿、いたる所にある水鏡には迷う自分の姿が写り込む。
鏡板の松の樹形にはもちろん諸説あるがの!
「久」の字を反転させた樹形という説もあるし、そんなん関係ねぇ!!と自由に描かれた松もある
ただ、あの松が「寿」かもしれないと思うと「仲間が増えるのはいいことばかりではない(意訳)」という台詞の後に後ろを向いて欠けた松をじっと見てるのとか、みほとせの仲間に語りかけるシーンでああああああーってなれるので、ああああああーってなってください。そして最後の寿松竹梅〜がさらに感慨深くなります
(追記の追記)
舞台セットのモデルになってる(と思われる)横浜能楽堂は井伊直弼(掃部頭)にちなんで名付けられた掃部山公園内にあり、井伊直弼作の能狂言を復曲上演したり、直弼お気に入りの狂言師の子孫や井伊家が贔屓にしていた流派の能楽師を呼んで直弼を偲ぶ公演を定期的に催したりしている能楽堂です。そういう情報を知ってしまった後に青江単騎の舞台セット見ると勝手に江水散花雪の傷が抉られます。みんなも抉られてください道連れです。青江単騎で抉られるのは心覚までで済むと思うな!江水までばっちりフォローしてるぞ!!
青江単騎の興行は江水公演後も続くので江水までカバーされてるのは分かるんだけど分からない…なんでそんなことしたの…ねぇ…ドウシテ……
鏡板に梅が描いてある能舞台、全国で二例くらいしかないからさ…そこに梅が描いてある時点で舞台セットの参考元は一瞬で特定余裕なんですよ…2021年春の大阪公演配信直後に横浜かな?横浜ですよね!?ってフォロワーさんとキャッキャして、梅の花がある特殊な舞台採用したのは絶対意図があるはず!とか興奮しながらふせったーに書いてた無邪気な時間カムバック……一年後にこんな生傷に塩塗り込むようなことになるなんて思わないじゃん!!!!!ねぇ!!!!そんな意図もあるとは思わないじゃん!!!!!ねぇ!!!!!!!!
なので江水のオタクは青江単騎のセット見て井伊のおっさんに思いを馳せてみてください
p.s.諸説あるがの!ってめちゃくちゃ便利なワードですね