「葬送のフリーレン」第117話「奇跡の幻影」感想(箇条書き)。ヒンフリの民としては花嫁フリーレンもやばかったのだけどなんといっても大魔族たちの踊る会議が魅力的な回でした。
あおり文は「会議は踊る」。
魔族たちは舞踏会なんか催しませんが、未来から遡って来たフリーレンの処遇如何によって、今後の魔族の存亡が左右されるという議題で話しているので、このアオリの比喩はぴったりだと思う。
果たしてナポレオン戦争とは魔王戦か、それとも今回の激突の方か。
以下箇条書き感想(X投稿のものに大幅追記したもの)。
・ソリテールの言う「魔族の千年後の繁栄」は「魔族の存亡が懸かっている」「敗戦処理」という悲観的な見方をしていたシュラハトのニュアンスと異なるのが気になる。「どうせシュラハトの計画の内だから私たちは好きなように踊ればいいのよ」。そのシュラハトは南の勇者との戦闘で既に死んでいる。死せるシュラハト生ける魔族達を踊らす。踊らされるとわかって踊るソリテールも剛毅なお嬢さん(自称「臆病者」)ですてき。大好き。
・血塗られし軍神リヴァーレは老バーサーカーのようです。長生きするのに秘訣はないと語り、年長らしい大局視に興味がなく、未来の設計は若者に任せ己は刹那の闘いに身を投じる豪胆な近視眼野郎爺である(ユニークなキャラクターで好き過ぎる)。一瞬でキャラ立ちした大魔族新キャラにワクワクが止まらない。強者の風格かっこいい。未来でシュタルクの戦士の村を襲ったのは、血沸き肉躍る戦闘を求める本能に従う性格のためか?アニメでシュトルツとの激突が描かれてくれないかな。
・「終極の聖女トート」は協調性なし。魔法の研鑽と明日のごはんに困らなければそれでいいらしく、欲がない。人生に望むささやかな願いは、趣味の充実と明日のご飯だけ。身の丈を慎ましく生きる令和の若者かな???(ところで山田鐘人先生の前作「ぼっち博士とロボ少女の絶望的ユートピア」を読んだ所感も込みでいえば、トートの野心に乏しく趣味を重んじる性格はやはり、身の程を弁える現代の若者達を象徴しているような気がしてならない)。100年後に星を覆いつくす呪いの魔法とは何なのか、急にスケールが時空デッカくなってSFめいてきたけど世界観がぶっ壊れないのがすごいと思う。ちなみに元の時間では84年目だが、真面目にちょうど100年後にトートと勝負しようとするとフェルンやシュタルクが30代半ばになる計算になる。少年誌でその展開はないのでは。フリーレンが帰還した直後に戦うのではないかと思う(呪いが完成する前にトートの企みを抑止するための戦闘となりそう)。
・七崩賢が一「奇跡のグラオザーム」。誰も本当の姿を見たことがないとかいうのは我々の世代にクリーンヒットな設定よ。旧き愛すべき伝統の厨二病、万歳。
・素顔を見せてやると言われたとたんに興味失せるソリテールちゃんもかわいい。ソリテールちゃんもきっとフリーレンと同じで「魔法は探し求めている時がいちばん楽しい」とか言い出すタイプ。ソリテールちゃんは「人間は観察実験している時が一番楽しい(要は殺す)」とか言いそう。コワかわいい。
・108話によればツァルトはグラオザームの配下だったから、女神の石碑はグラオザームがツァルトを使って監視させていたことになる。そんな意義のわからん監視役をつけていたのは、まぁシュラハトの入れ知恵か、彼の予知に備えた対策なのだろう。シュラハトがマハトを南の勇者戦に連れていく時もグラオザームは付き従ってたし、この二人は仲良さそう(グラオザームがシュラハトに協力的という意味で)。
・アイゼンがしっかり戦士(盾役)として仕事する回としても満足があった。フリーレンの魔力探知をもとにフリーレンが反応する前に動けるのは前衛として優秀過ぎる。アイゼンが活躍しててぼか嬉しいよ……。ツァルト戦の時にフリーレンが「この時代の魔法は遅い」とこぼしているので、決定打となる魔法が発動するまでのタイムラグを守る戦士職の役割や負担は現代よりもずっと大きかったのではないかと推察しています。速射に優れたゾルトラーク改が開発されてから、ゾルトラーク環境に対応するために人類は攻撃魔法や防御魔法の操作スピードも格段に向上させ、飛行魔法も使えるようになったのじゃなかろうか。その結果、戦士職の存在意義が急速に奪われつつあるのが84年後の時代なのかもしれない。シュタルクくんさ、リヴァーレの一匹や二匹仇討ちして、戦士職の復権に励もうな。な???(シュタルクの活躍を待ち望むファンの圧)
・急襲に全く動じないヒンメルは本当に人間の23歳か???肝が据わりすぎなんよ。。。
・ソリテールがマハト編でフリーレンに「初めまして」と言ったのは、これまでの巷の通説では、グラオザームが今回のソリテールの記憶を消したからでないかという見解が一応の説明になっていた。が、117話で明かされたようにソリテールが潜伏遊撃の役割に徹していれば、彼女がフリーレンと顔を合わせたことがなかったのも真実になる。新説ができたね。楽しい。
・フリーレンにもグラオザームの幻影魔法が効いている感じの描写だが、フリーレンには精神に作用する魔法に耐性があったはず。まぁグラオザームの精神魔法はソリテール達にすら作用するのでふつうにフリーレンの耐性を上回っているのかもしれないが、ひょっとしたらヒンメルが自力で目を覚ますんじゃなくて、フリーレンの方が先に幻覚から醒めてヒンメルの夢に割り込む展開もありかもしれない。「そいつは偽者だよ、ヒンメル」とかカッケーこと言ってほしい。目覚めた後のヒンメルに「私はヒンメルの幻影を撃ったよ。だけど勇者ヒンメルの方が意気地なしとは知らなかったかな」「アインザームのヒンメルの方が出来が良かった。こいつは全然私と似てないじゃん。ヒンメルはこんなのがいいんだ」とか、アインザーム回と引っかけてヤキモチとまで言わなくてもちょっと拗ねてるフリーレンのヒンフリ展開が見たいです先生!?(妄想です)
・みんなで同じ幻影を見ている可能性はないか?ハイターもフリーレンとヒンメルの関係性を手助けしたいと思っていたわけだから、彼らの叶わない願いもヒンメルと同じ可能性ワンチャンありませんかね?それだと全員で幻影だと気づいて脱出する熱い展開になるし、後々ヒンメルが仲間からからかわれておもしろいんだが……。
そして言わずもがなヒンフリ……。
ヒンメルの恋心にはフリーレンに対する欲望(性欲含)がとっくに失われていて、折り合いをちゃんとつけ切っている無償の愛に昇華されているのではないか?と思っていたので、衝撃的だった。
ところでフリーレンはハイターに「借りを返し」たし、アイゼンの「手伝って」ほしいことを助けようともした。フェルンとシュタルクの存在は、長命種を絶えず襲う虚無感からフリーレンを救っている。ハイターとアイゼンとしては、孤独なフリーレンが真に必要としていた長い旅の連れ合いになるようにとの意図で預けた側面も大きいのだろうが、第一義的には自分達亡き後に子どもたちを託す保護者役として彼ら自身がフリーレンを必要としていたはずだ。フリーレンは個人主義者でもあるから、寿命の短い二人の代わりにフェルンとシュタルクを引き取り、旅路を共にすることはフリーレンにとっては自分の頑固な本質を変革する必要のある大きなチャレンジだったはず。フリーレンは今まさに自分の一部を切り崩して、ハイター&アイゼンからもらった思いやりを返却している最中だと言える※。ハイターとアイゼンが自分とヒンメルの仲立ちのために、フランメの手記を探す時間を捧げてくれたように。
ところが、この愛と感謝の循環の輪にくわわれない者がいる。フリーレンを人を知る旅路に向かわせてくれた当の本人のヒンメルだ。ヒンメルが最初に死んでしまったことでフリーレンは大後悔し、人の心を知る旅路に出ようと決意するわけだから、ヒンメルだけが何も報われないまま逝ってしまったことになるのだ。なんたる!この現状は、生前のヒンメルがフリーレンに見せる無欲さ、アガペーぶりが徹底していた(ように見えた)ことにも一部要因があると思う。もう少しみっともなくフリーレンを求めていればフリーレンにも恋心に気付いてもらえて、何かが違ったかもしれないのに。要はカッコつけすぎなんよ。本当のヒンメルはハイターと同じで「カッコつけて」いただけだったのではないのか。好きな女の子には最期までやせ我慢して、イケメンな自分しか見せたくなかったとかではないのか。あるいは勇者ヒンメルともあろう者が、単にフリーレンに想いを言葉にして明確に伝えることを恐れる臆病風に吹かれていたのかもしれない。この男、ひょっとしてフリーレンが鈍感なのをいいことに、婉曲的なアプローチをいっぱいして、あわよくば彼女が気付いてくれないかと期待していた甘ちゃんなところない???ハッキリと言葉にして伝えなかったのは単に臆病になってただけの可能性ない???想いは言葉にしないと伝わらないってフリーレンとかいう超絶鈍感エルフも言ってるじゃん???それはそれとして勇敢な人間が、好きな女の子にだけは臆病になってしまうお約束もそれはそれで美味しいからもっとくれ。
・ヒンメルが勇者的なのは、どこまでもフリーレン本位に考えているところ。「自分の時間に還りたい」ともらしたフリーレンに寂しさを感じたり、彼女の心を引き留めようとしたりする葛藤すら起こさないところ。フリーレンが変化して、自分の知らないフリーレンを発見することにも焦らないところ。ただただ自分の存在が未来でフリーレンの「励みになっている」だけで満足しようとする物分かりの良さ、野心のなさが勇者ヒンメルが勇者たる所以である……と言っちゃうのは簡単なんだけどさァ。花の10代~20代の青春盛りの若者と言えば、ふつうもう少しギラギラして欲望まみれでいても女神様の罰は当たらないはずではないの!?と私の心の中のザインが叫ぶんだよね(笑)フリーレンはフリーレンで、ヒンメルにもう一度会って話すためにオレオールを目指していたはずなのに、いざ実体ヒンメルと接触してみても話を深めるわけでもないし(「最悪フェルンとシュタルクが消えてしまう」ような、未来へのバタフライエフェクトを危惧して話せない状況は説明されているが)、彼女にとってヒンメルはどんな存在なのか未だに謎めいているところが多いんだよな。どうにもヒンメルに分の悪い勝負で、片想い感はいよいよ強まるばかりである。……そんな敗色濃厚の情勢にもへこたれず勇者ヒンメル、魔王討伐の後には、フリーレンを未来に返す魔法を解読するためにその短い余生を費やすことを決意しちゃうのである。フリーレンからの見返りもなしに即決たァ恐れ入るぜお前ちょっと人間でき過ぎなんちゃうんかい!?との突っ込みを深くしていたところへ117話の花婿ヒンメル&花嫁フリーレンは激震だった。……やってくれちゃったな公式くんさんよォ……。果たしてヒンメルは己の欲望とどう向き合うのだろうか。勇者ヒンメルともあろう英雄が枯れるにはまだ早過ぎないか?エゴを捨て去るのが必ずしも正解とは私は思わないんだけどな。勇者ヒンメルの辞書には「決して叶わない(不可能)」だなんて文字は似合わないよ。少なくとも想いは言葉にしないと伝わらないってコタツの中からうちのフリーレンばっちゃが言ってた(CV.種崎氏でカウント1の声)。次週以降の展開が楽しみでならない。
※といってもフリーレンは社会生活にうまく適応できないルーズな性質があるので、フェルンとシュタルクの忍耐や献身も必要なのが、この作品のリアルなところだと思う。ここがフリーレンとハイターの異なるところで、ハイターはフェルンを養子にする時に、自分が体調を崩して「使い物にならなくなる」ような酒をちゃんと断ってるんですよね。フェルンのケアと養育のために。ハイターは「好物は酒、大好物も酒」とされる、酒を生きがいとする人間だったのだけど、フェルンのためにその生きがいを捨てた。愛だよ、愛。フリーレンにはそこまでの親としての覚悟はない。でもフリーレンもフェルンも「魔法がほどほどに好き」というスタンス、「くだらない魔法を分かち合うのが楽しい」という些細な喜びや、故ハイターへの大切な想いを共有しながら生きている。フェルンはフリーレンの生活面をサポートし、シュタルクはマイペースなフリーレンと怒りの表現が下手くそなフェルンの緩衝ポジションをつとめ、フリーレンはフェルン&シュタルクを教育し、自己評価が低めな弟子達の頑張りを褒めてあげる、かつその安全を守るためにパーティー全体を統括している。この絶妙なバランスでケアが分かち合われ、共同生活が成立しているのが現パーティーだと思う。私はとても好き。