@tos 烏丸
[プロフィール]
成人男性に擬態するレネゲイドビーイング。所属はあるものの半イリーガル状態で、複数の支部を渡り歩いている。
地元住民に『黒い森』と呼ばれている針葉樹林に棲まう『カラスの群れ』が核になっており、分類はコロニーに相当。
冬を呼ぶ烏を神として祀る神社の敷地であったことから、人々の信仰心も(あるいは本質的にはそれこそが)構成する要素か。
カラスと神性の性質が混ざった結果、光り物や派手な物好きの傲然とした自信家という威圧的なガワが出来上がってしまった。
振る舞いこそ高飛車だが概ね人間に対しては友好的であり、文化に対する関心も強い。短絡的な単細胞思考。コロニーなのに。
【黒い森】
日本某地区の山岳地帯に位置する一角を指す通称。現代では希少な、クロマツを中心とした針葉樹からなる自然林。
”空気を凍えさせ冬を呼ぶ烏”、通称『雪烏』の伝承が残され、妖の棲む森として恐れられていた。
黒い森という呼称は、鬱蒼と茂る針葉樹による視覚効果と森に住み着いていたカラスの群れに由来するものと思われる。
麓に位置する村では、雪烏を鎮めるために神として祀り、人身御供を行っていた記録が残されている。
資料によると贄に選ばれるのは数え年7つになる女性で、自力で山を下りて来ないように両目を潰して森に置き去りにする方法がとられていたようだ。
と、歴史資料の改竄と周辺住民への記憶処理により偽装されている。
現在の研究では、『黒い森』にはAオーヴァードのワタリガラスが棲んでおり、サラマンダーに分類される能力による温度調節で自らの住処である針葉樹林の環境を保ち、環境を害する侵入者を退けていたと推測されている。
『雪烏』の伝承はこのAオーヴァードの仕業によるものだと思われる。
『黒い森』はレネゲイドウイルスが発見されて間もなく、レネゲイドウイルスの活動が特に活発な区域であったことから、とある研究機関により実験場として使われていたことが判明している。
『雪烏信仰』は元より存在した風習だが、気候の平穏を願い森に社を建てて祀る程度のものだった。
人身御供の文化は前述の研究機関が地域住民に「それらしい」信仰行動をさせることで『雪烏』に対する信仰心を増幅・収束させ、その意思の力がレネゲイドウイルスに如何なる影響を与えるものかを観測する目的のために後付けされた文化であることが確認されている。
実際のところは観測といった名目で、新たなオーヴァードを生み出そうと目論んでいたようだが。
この実験は観測施設の大規模火災により継続不能と判断、終了処理がなされている。これはサラマンダーの能力を持つAオーヴァードが原因となり引き起こしたものである。
詳細な資料は既にロストしており確認ができないものの、Aオーヴァードが『贄』として差し出された人間と交流を持っていたことが判明していることから何かしらの関わりがあると思われる。
また実験終了の直前にそれまでと別種のレネゲイド反応が観測されていることから、このタイミングでレネゲイドビーイングが覚醒した可能性が高い。
【---】
この聡い人の子は、己の境遇を理解しているようだった。
阿呆どもめ、私が小娘一人差し出されたところで喜ぶとでも思ったのか。そもそも意図がわからない。これをどうしろというのだ。
ただ、話し相手が出来たのはよかった。退屈凌ぎくらいにはなるというものだ。
盲目の人の子は、私が見た景色の話をするだけで大層喜ぶものだから、機嫌を取るのは簡単だった。
移ろう空の輝きを、陽光を受けた花々の彩りを、その瞳に映すことができないというのは随分と退屈らしい。
人の子は、私のことを白い烏の神様と呼んだ。
生憎この羽は漆黒であるし、神などという存在でもない。
それでも人の子にわかるのは、烏の私の鳴き声と、私が操る空気の冷たさだけ。
私が白ではないことを、証明してみせる手立てなどありはしなかったのだから、好きに呼ばせることにした。
小娘を寄越した人間共のやり方が気に食わなかったというのが最たるところだ。
しかし、よもや《孤独》に生きる私ともあろうものが、気付けばこれほどまでに他人に情を移してしまうことになろうとは。
あるいはそうであるからこそ、《理解者》とも呼べる他者の存在に、《飢え》ていたのかもしれないが。
何にせよあの時”我々”は、人の子の《命令》に背く理由を持たなかったのだ。
――”あなたはきっと、何色にでも染まる白い色。”
――『いいえ。私は何色にも染まることのない黒い色。』
――”あなたはきっと、盲いた私に春を告げる鳥。”
――『いいえ。私は生者達に忌み嫌われる冬を運ぶ烏。』
――”ひとつだけ、お願い事をしてもいいかしら。”
――『貴方の賜うた白だけが、私を染め得る無二の色。』
――”私生きていたい。いつか七色の虹が見たい。”
――『貴方の夢想は、きっと私が叶えてみせましょう。』
――”私のことを、守ってくれる?白い烏の神様。”
――『容易いこと。それがただ、貴方の望む色ならば。』
《虚彩の雪烏(スノウ・クイーン)》、偽りの色彩を戴く氷雪の支配者