〔カペルのツノの話:小話〕
私に角が生えたのは、もういつだったかわからないほど昔だ。
鬼だと言われて街に居づらくなり、フードをかぶって森に引きこもった。
もともと外向的な魔女ではなかったから、森で暮らすのは肌にあっていた。
魔女ってなんとなく、そういうものだし。
なぜ生えたのか、私は理由をずっと忘れようとしていた。
この世界に、この国に来て、
人の暖かさ、気まぐれさ、偶然が呼ぶ必然、残酷さ、愛おしさ
何度も知っていたけれど改めて感じて、それで思い出した。
いや、思い出したと言うよりも、懐かしんでいる。
有り体に言えば私は憎悪と嫉妬に耐えきれなくなり感情を外に逃がした。
うちにとどめておくことが辛くなり、それがツノとして具現化した。
コントロール不可の感情の濁流。
それこそが鬼の正体なのだ、と。
自分がそれになって気付かされたのだ。
その世界でわたしはヒトだった、はずだ。
だからずっと、フードでツノを隠して、愛したい数名だけを愛したいと、
森の中でぐちぐちと文句を言いながら暮らしていたのだったか。
鬼にも神にもなりうる"それ"は、
星の意志の動力源でもあり、意志の星の根源でもある。
私はそのことを偶然知っていて。
知っていたからこそ"コイツ"の存在を憎んでいたが。
あふれる喜びさえ、これがなければ感じられなかったのなら。
ふれてみれば痺れるのは、わたしに心があるからだ。
今は少し、このツノに愛着を抱き始めている。