シン・ウルトラマンは観客のウルトラマンに対する印象がかなり制御されていて、その起点はおそらく湖畔に棒立ちする初報の写真から始まってる。観客が持つ先入観を剥がしてる。劇中では銀一色で、開幕スペシウム光線を放つ。(以下追記)
色も違うし戦い方も違うシン・ウルトラマンを、観客は「本当にウルトラマンかこれ……?」と思いながら見る羽目になる。禍特対が「なんだあの銀色の巨人……」と思ってるのと大体同じ。シン・ゴジラの蒲田くんでも見たな、このやり口。
で、次にガボラ戦。シン・ウルトラマンは変身した後に飛行してやってくるけど、飛行ポーズからそのまま回転攻撃。口から声出る異様な動きに、観客も禍特対も「なんだあれ!?」となる。だけどそこからは懐かしさのある怪獣プロレスで、シン・ウルトラマンも『背後の核処理施設を気にして戦う』『体を張ってヤバい光線を浄化』『ガボラを引き取る時にドヤ顔で振り返る』と感情を見せてくる。禍特対は「なんだかわからんが悪いやつじゃなさそうだ」と思うし、観客も知ってるウルトラマンに近付いてきて安堵する。
ザラブ戦はそのシン・ウルトラマンへの信頼が試されるところ。笑っちゃうほど動きに生気がない偽ウルトラマンvs垂直高速射出された長澤まさみをナイスキャッチするシン・ウルトラマン。でもスペシウム光線の構えを取りながら下からヌッと出てきたり、唐突な八つ裂き光輪を放ったりでどことなく不気味さが残ってる。
メフィラス戦でシン・ウルトラマンへの信頼度はおおむねマックスになってる。なってるからこそ、ホラー映画のごとく画面に映り込むゾーフィが映える。あのゾーフィは今見ているシン・ウルトラマンではなく、湖畔で棒立ちするシン・ウルトラマンと同じ得体の知れない存在だというのがひと目で分かる。
だからってゼットンなんて持ってくるんじゃねえよオイ!? 素人目に見てもヤバい奴じゃねえか!? あれ確かウルトラマンが勝てなかった怪獣だよね!? シン・ウルトラマンなら勝てるの!? うわっ、全然大きさが違う……あああああダメだシン・ウルトラマンでも勝てねえええええ!!
……とまあ、徐々に観客のシン・ウルトラマンへの好感度、信頼が禍特対と同調するように調整されているわけです。ゼットンに一矢報いることもできず、海に落下していくシン・ウルトラマンに、観客は湖畔で棒立ちする姿をすっかり忘れて、ひとりのヒーローとして「死なないでウルトラマン」と思ってしまうわけです。
そしてラスト。ベータカプセル2回押して、変身からノータイムでゼットンをぶん殴る作戦。ウルトラマンが最悪死ぬ、良くて異次元送りになる必死の作戦にも顔色ひとつ変えることなく応じるシン・ウルトラマン。
そしてここで初めて使われる、右手を高く突き上げて3段階でズームしてくるウルトラマン。
通称『ぐんぐんカット』。
もうね、ウルトラマンなんですよ。特定の作品を指すわけではない、ヒーローのイデアとしてのウルトラマンなんですよ。観客がシン・ウルトラマンをヒーローとして受け入れ、死なないでほしいと願った瞬間に、あまりにも有名な変身バンクが使用される。棒立ちから始まった異形が、最後にここまで来てくれるんですよ。
シン・ウルトラマンは異次元に飲み込まれ、命は神永に与えられた上で、ゾーフィによって光の国に送り届けられる。別れであり、映画の終わりなのでしょう。それでもいつか、外星人第7号の活躍が終わった辺りで、こう言える日が来てほしい。
『帰ってきたシン・ウルトラマン』と。
なお、本日5/22日放送のの大河ドラマ・鎌倉殿の13人。
サブタイトルは『帰ってきた義経』。
お前は帰ってこなくていい。モンゴルに行け。