貴方は、貴方の望むトップクリエイターにはなれないだろう。だけど……という話。
週間少年 松山洋
第115号『イラストレーターを安易に目指すな』
https://note.mu/piroshi3/n/nbce66fdf96f7
これを読んで「僕も似たような話をしたけど、結論が違うな」って書いたら「聞かせて欲しい」と言われたので。
まず現実問題として、松山さんの言ってる状況は合ってると思うんです。
というか、殆ど同じ内容の事を大学で何回か講演しました。
例えば、学生の皆さんが「著名イラストレーターになりたい!」と思うとします。貴方が名前を挙げられる著名人が10人程度だとしましょう。名前を聞けば思い出せる、というレベルにしたら、「日本国内の上位100名」くらいでしょうか。そのあたりのトップクリエイターになりたい、と。
冷静に考えればわかりますが、殆どの人が希望するトップクリエイターにはなれない訳です。だってそうじゃないですか。日本にはイラストを学べる専門学校が100以上あって、そこから何千人というイラストレーター候補が毎年毎年卒業している。さらに美大や普通の大学、社会人からも希望者がいるのに、上位100名枠しかなくて、しかも、現在の上位100名もなかなか引退しないから、そりゃまあ、過酷な競争になる訳です。
数千人とか1万人に一人とか、そういうレベルなわけで。
100%ではないですが、まず無理、というのが実情なんですよね。
そこで今度は、トップクリエイターになれなかった残り99%の人がどうなるか?って事なんですけど。
なんとなくの体感で言えば、20%~30%くらいの人がそもそもクリエイティブ職から離れていくんですね。実家の仕事を継ぐとか、もっと割の良い仕事を見つけるとか、そんな感じで。
トップクリエイターが1%、離脱する人が30%だとすると、残りの69%の人は何をやるのか?
それはまあ、トップじゃないけど、クリエイターとして頑張ってるんですよ。そこには色んな人がいます。ソシャゲのアイテムアイコンをポチポチ描きながら「いつか俺だってキャライラスト描くんだ」って思ってる人もいるだろうし、安いイラストを請負いつつ、バイトで家計を補強したりする人とか。さらには、専門学校でイラストの先生になって、人を育てる喜びに目覚めたり、自分では手を動かさないアートディレクターになったり、クリエイターを束ねる経営者になった、って人もいます。経営者をクリエイターって言うかどうかは謎ですが。
で、僕が知る限り、現状に満足している人もそうでない人も、一様に口にするのは「自分の選択はこれで良かった」って言うんですよ。そりゃそうです。大人なんだから間違ってる事に気づいたら軌道修正出来ますからね。あと、大人は自分の生き方を肯定したがりますし。
つまり、どの道を選んでも最終的に後悔する人はあんまりいない。
実はこれ、僕の話でもあるからです。
ゲーム業界に入って二十数年。今でこそゲームディレクターなんてやらせて頂いていますが、本当はCGのアーティストになりたかったんですよ。CGとイラストを組み合わせるような新しいイメージを作って生きて行きたかった。でも、CGの技術でもアーティストとしてのセンスも無くて、結局流されてゲームのディレクターをやってるんです。
流されて、っていうか、ディレクターの仕事をくれる優しい知り合いの人がたまたまいて、僕もその仕事が嫌いじゃなかった、という感じなんですが。
つまり、僕も「学生の頃に願っていたトップクリエイターにはなれなかった。けど、クリエイティブを諦めきれなかった69%のウチの一人」な訳です。おかげで、僕は現状に満足していますし、楽しく人生を送れております。
てな訳で、学生の皆さんが思う「憧れのトップクリエイター」の周りには「皆さんがまだ知らないクリエイターの生き方」ってのが沢山あるという事をお伝えしたい。そこには楽しい仕事もあるし、やりがいや生きがいなんかも沢山あって。
だから僕は、学生さんが「イラストレーションのトップクリエイターになりたい」って願ってもいいんじゃないかな、って思います。その夢は多分叶わないんですが、それでも、その先には、今はまだ皆さん知らない別のお仕事の可能性が広がっていますから。転びながら、最初の夢とは違うゴールにたどり着くのも人生の味わいの一つですよ。
さらに、もしかしたら、ひょっとして、悩み抜いた果に誰もいないジャンルを創造して、そこのトップクリエイターに躍り出るかもしれないじゃないですか。
そういう事が起きるといいな、と、69%の一人だった僕は思っております。はい。