完璧に忘れてたのでこのタイミングで セイギノミカタ PC1 ビーストテイマーの回想文をアップしときます。 未通過× 現行×
彼女は元いた場所で、素晴らしいシナリオを用意されていたキャラクターだった。
だが、彼女は扱いが難しく、とても弱かった。
故に、誰からも愛されることはなかった。
彼女は大いに悲しんだ。
生まれた時代を憎んだ。
憎んだところで、それがプレイヤーに届くことはなかった。
彼女の思いは、虚構の域を超えられなかった。
慰めてくれるのは、共に冒険するプログラムの猫だけだった。
そんなビーストテイマーのシナリオに触れる者が現れた。
『嘘だろお前、ビーストテイマー?!あんなの使うやつ居るのかよ!』
>>あんなのとはなんだ!超可愛いだろ
“彼”は、四六時中、ゲームをプレイした。
ビーストテイマーは、キャラクターとしての喜びを知った。
プレイヤーと猫と自分という小さなチーム。戦う日々の中で、ビーストテイマーは時折、“彼”の本当の姿を知ることになる。
『日付が変わったか。私はそろそろ落ちるわ。おやすみ。』
>>おやすみ。俺はまだレベリングしとくわ。
『お前いつ寝てんの?w』
某日。ビーストテイマーのシナリオは、初めて完全クリアされた。
『おめでとう! おめでとう! あのビーストテイマー使いがついにクリアしたぞ』
>>みんなありがとう。みんなが応援してくれていたからだよ。
『すごいな!こんなに速く⁇お前ニートかwwもしくは引きこもりかww』
>>……。別になんだっていいだろ
英雄となったビーストテイマー、および“彼”のために、プレイヤーたちは祝賀会を開こうとした。
『なぁ、今度オフ会しようぜ!』
>>ごめん、実は俺、人に会えないんだ。怖いんだ。こうやって皆が仲良くしてくれていても、いつかそれが終わってしまうんじゃないのかって。ある日突然、裏切られるんじゃないのかって。
ビーストテイマーは、恐怖の本質を知らなかった。
彼女はたとえ、凶悪な敵に【殺された】としても、【すぐに生き返る】からである。
そして数日が経過した。
どうしてだろう。最近“彼”は私をそれほど触ってくれない。
もしかして、飽きられちゃったのかな。
シナリオをクリアしたから?
……。お願い、もう一度、私のことを見てほしい。
『なぁ、最近ビーストテイマー見なくね?』
『……、もしかしてあいつ』
『行かなきゃ。あいつのところへ。』
ビーストテイマーは、そこで初めて“彼”が【恐れていたこと】の本当の意味を知った。
彼女は“他の者達”の手によって、久しぶりに【起動した】(心臓を取り戻した)。
すすり泣く女の声が聞こえた。
無念そうな男の心を感じた。
“他の者達”の本当の姿を見た。
“抜け殻の“彼”がそこに置いてあった。
それ以降、ビーストテイマーが再びプレイされることはなかった。
データの中で、ビーストテイマーはこれまでの冒険を思い出した。
“彼”から与えられた鼓動は、たとえ少しの間だけだったとしても、かけがえのないものだった。
たとえ少しの間だけでもきっと、“彼”にプレイしてもらったことで、少しでも“彼”へ安らぎを与えられたのではないのか。
シナリオだって完全にクリアしてもらえたから。
私がこのゲームですべきことは、もう終わった。
このまま“彼”とともに、忘れ去られても――
「ねぇ、ビーストテイマー。ぼくたち、まだ冒険し足りないんじゃないのかな。」
足元の猫(ともだち)が言う。
だからここ(ゲーム)から飛び出そう、なんて発想に至るのは、世界中のどこを見渡しても、きっと居なかっただろう。足元の猫(ともだち)が、私の背中を押した。
少し前のことである。
あちら側の次元は、“彼”が言うには、救いを待っている人がたくさんいるらしい。
そして自分もその一人なんだと言っていた。
“彼”をそうした“友人”も苦しんでいると言っていた。
>>誰だって救いを求めているんだ、だからきっと、これは使命なんだ。
助けを求めるところに英雄在り。それが、次元を超えた先であっても。
私は、壁を超える――
K市、A地区。“彼”の居た街。
せっかく人間の姿を得ても、“彼”に会って直接感謝を伝えることができないことが悲しいと、少し干渉に浸ってしまったけれど。
【英雄になり、世界中の人々の力になる】
私に深く刻まれたプログラムが、
もう一度、力なき者の代わりに、武器を手に取り立ち向かってみせよと奮い立たせる。
私は動物(ともだち)こそ置いてきてしまったものの、なんとなく身一つでもやっていけるんじゃないかと思っていた。
はじめてプレゼントされたゲーム内アイテムを、無くしてしまった。
次元を跨ぐときに消えてしまったのだろうか?
確かに大事に付けていたはずなのに。着ている服はそのままなのに。
どうしよう。
私の足がゆっくりになる。気づけばずっと同じ場所をウロウロしていた。
これは、ある柊の樹の下の出来事である。
<<以下、アドリブとする。>>