金糸雀の欠伸 佐竹視点 ふせ③ 現行×未通過×
自陣向けのふせです
佐竹の一人称視点と全体を俯瞰した三人称視点が交差しています
「」や()で心情を書き分けていますが,読みづらいかもしれません。
【金糸雀事件編】その2 ~捜査強行 前~
病院ではリハビリの毎日。遅れを取り戻さなければ。
調査に復帰すると,捜査員の半数が辞退していた。
(これだけのことがあったんだ,仕方あるまい。)
そして坂井さん指導の下『ティーリス健康医療製薬会社への強行調査』の計画に移る。
(ようやくか。だが,これで全てが分かるかもしれない)
燐寸さんが今田さんに今回の事件の被害者や5年前の坂井班の話を聞いていた。
5年前の坂井班の話になると今田さんは急に言いよどんだ。
(中川の話題に関しては俺に気を遣っているのだろうか…)
どうやら中川は以前もティーリスに潜入していたらしい。
ある時を境に急に動揺し始め,そこからは潜入を重ねるごとに正気を失っていったのだという。そして,最終的には自殺した。遺書には「俺にはできない」と記されていた。
(中川…)
(おまえに何があった)
(20年以上一緒に仕事していれば分かる)
(おまえはちょっとのことで動揺する奴じゃない)
(なぜ死んだんだ、中川)
そのままティーリスの捜査が始まる。
受付嬢がなぜか動揺していなかったこと,やけに女性社員が多かったことを佐竹は不思議に思ったが,1階,2階と捜査は難なく進んでいった。
(途中,力が入り過ぎてドアを強く開閉していたところを日下さんや燐寸さんに注意されてしまった。)
(こういう時ほど冷静に,だな。反省。)
(明烏や日下さんを見習わなければ)
問題は4階で起こった。
最も怪しいとされる女社長,小早川本人が社長室にいるのだ。
いや,いること自体はおかしくない。
問題なのは『一切の動揺が見られない』というところだ。
(なぜ動揺していない)
(受付嬢と言い,コイツと言い,俺たちが来るのを知っていたのか?)
(知っていて何故逃げない)
(いや,俺たちをおびき寄せて何かをするつもりか?)
佐竹は警戒を続ける。
そんな佐竹を尻目に,小早川は余裕たっぷりに彼らをもてなす。
曰く,「自由に調べて下さっても構いませんよ」とのこと。
続けて「金糸雀(一般的な鳥としての意味)」について語りだす。
(何を考えている)
(その余裕は何だ,癪に障る)
小早川はこのまま社長室にいるということなので,佐竹たちは調査を再開する。
《鳥のプレートが装飾された部屋》
扉を開けると,そこには
少女がいた
(女の子…?)
(確かに,ここには玩具がいっぱいある。子ども部屋のようにも見えるが…)
少女の方に意識を向けると,ひどくみすぼらしい格好をしている
その表情もどこか虚ろだ
(なんだ,この子は)
少女は自分たちを見る
その瞬間,少女は自身の身にまとっていたものを脱ぎ始めた
(…な,何をしているんだ!?)
すぐさま燐寸さんが少女に駆け寄る。
続いて日下さんが少女の動きを制した後,日下さんが少女に優しく語り掛けている。
燐寸さんが凄い勢いで社長室へと向かっていった。
(人の心の動きに敏感なわけではないが,あれはまずい)
(できればついていきたいが,日下さんも少し…)
「明烏,燐寸さんについてやってくれ」
すると明烏はすぐさま彼についていってくれた。
その場に残ったのは佐竹と日下さんの二人,黒井は廊下で見張りを続けている。
もしかしたら燐寸さん達と合流しているかもしれない。
日下さんが口を開く
「お名前は?」
「好きな食べ物は?」
どの言葉も少女には届いていないようだった。
そんな少女に,日下さんは優しく接し続けている。
(俺には,何もできない)
(子どもの扱い,ましてや心が壊れてしまっている少女への接し方なんて分からない)
(なぜ日下さんは,あれだけ根気強く接することが出来るんだ)
(知っているのだろうか,“そういう人”への接し方を)
そう思いながら見る日下さんの顔は,酷く哀しげに見えた。
(この人は,何かを背負っている)
(この人が時たま見せる苦しげな表情)
(この人は…)
そう佐竹が思っていると,応援が到着した。
数人の捜査官たちが少女を保護し連れていく。
日下さんも皆と合流しようと部屋を出ていこうとする。
「あの,日下さん」
(気が付くと口を開け,彼を呼び止めていた)
(でも)
(その後の言葉が続かない)
(なんて,言えばいいのだろうか)
(感謝,慰め,労い,彼への質問)
「いえ,何でもありません」
(言える,わけがない)
(あの子にも,日下さんにも)
(俺は何もできない)
(正義のヒーロー)
(彼なら,どうしただろうか)
燐寸さん達と合流するために社長室へ向かうと,既に小早川を捉えて廊下に待機していた。
金糸雀事件の重要参考人及び児童虐待の疑いで確保するらしい。
また,地下室へのカードキーも押収したという。
小早川を他の捜査官へと引き渡す際,彼女がこちらへと近づいてくる。
(…?なんだ?)
彼女は耳元へ顔を寄せ
「中川さんは立派だったわ」
佐竹がその言葉を咀嚼するのに数舜,理解するのに一瞬
理解してからは一瞬の間も置かず小早川に掴みかかり彼女の首を絞めていた
「中川の何を知っている」
(中川の何を知っている)
「答えろ」
(答えろ)
しかし彼女は答えない
「いずれ分かる時が来るわ」
そう言い残して去っていった。
(また,手がかりをつかめなかった)
(奴は何を知っている)
(いや,すべてを知っているのだ)
(知ったうえで何も教えずに,弄んでいる)
そう思うと腸が煮えくり返る思いがした
「大丈夫ですか?」
黒井がそう聞いてくる。
「ああ,問題ない」
そう言い残すと佐竹は資料庫へ向かった。
黒井と明烏は動揺しつつもついてくるようだった。
《資料庫》
苛立ちを振り払うために資料庫に足を運ぶも,対した情報を得ることは無かった。
焦燥感と苛立ちは無くなるばかりか段々と程度を増していくばかり。
佐竹は半ばヤケになって資料の山を漁っていた。
そんな佐竹に黒井が声をかける。
そちらを見やると黒いと明烏が真剣な面持ちで佐竹を見ている。
「佐竹さん,何があったんですか」
「彼女に何を言われたんですか」
佐竹は最初こそ返答を渋っていたものの,
「佐竹さん,一人で抱え込まないでください」
その言葉に観念して答えた。
・自分と中川の関係
・自身が捜査に躍起になっている私的な理由
・上記のような私情を捜査に持ち込んでいること
公として徹するべき警察官としてはあるまじき自分の姿。
自身の弱さ。
そんな佐竹の告白を彼らはただ黙って聞き,受け入れてくれた。
今後の捜査への意気込み,自分の正義を貫くことへの決心,
それらも当然頭の中に浮かんだ
しかし,佐竹が口にした最初の言葉は
「ありがとう」
新たな同僚に向けた感謝だった。