万事がどういう思考回路とどういう時に感情を持つのか予習(学習)がてらのSS/結構人間紛いの感情は持ってるようで安心した。 寝ながら推敲せず打ったので文章ぐちゃぐちゃソープスクールHO1バレ✕
「おはよう万事!」
そんなけたたましい声が、目覚めたばかりの私を出迎えた。
〇塞翁馬と妻が再会~付き合うまでの話です(ちなみに高校時代は特別話たりしてなかった)
ー今から8年前ー
「万事くんはさ、1人で寂しくないの?」
と、目の前の彼女は私に問いかける。
彼女は順風 満帆(しげかぜ みちほ)、高校時代の同級生だ。
私は一年遅れで入学したため、彼女はひとつ歳下という事になる。
滅多に同級生などとは会わない私が、何故彼女と、それも小洒落た新装開店のカフェで優雅に会話をしているのか。もちろん私が頼んだことでは無い。
事は先月に遡る。彼女は、私が初めて赴任した中学校のOBであった。校内を巡回していた所、偶然にも部活の応援に来ていた彼女と再会を果たしたのだ。
私からは声をかけなかったが、あちらが私を視認するなりこちらへ直進。そして一言二言一方的に話しかけられ、何故か半ば無理やりメールアドレスを交換する運びとなった。
「すぐ送るから、見てね!」
それだけ告げると、彼女は私の邪魔にならないように別の方向へと駆けて行った。
私は記憶の片隅に残る彼女を思い起こした。確か彼女は学年でも有名な「能天気人間」で、何をするにも笑顔が絶えなかった。
彼女を一目で同級生と理解したのは、彼女が現在も全く同じ笑顔を彼らに向けていたからかもしれない。
宣言通り、メッセージはその日のうちに届いた。そこに書いてあったのは、簡潔な文でまとめられた食事の誘いのみだった。特別断る理由もなかったため、OKした。
…これを機に週に一度誘いが届くようになり、今日が5回目の食事である。
「ねえ!話聞いてる?」
…彼女の問いに話を戻す事にする。
寂しい。考えたことも無かった。
思えばそんな感情は、とっくの昔に放り出していたような気さえする。そもそも持ち合わせていなかったのかもしれない。
幼少期から、寂しいと感じる機会は少なかった。本があれば十分だったからだ。
「気にしたことは無いです」
「また敬語。同級生なんだからやめなさい」
「…はい」
「万事くんの事だから、私が誘わないとこういうお店も来ないでしょ〜」
「そうですね。行く機会がありません」
「どう?このお店は!最近ちょっとずつ有名になってきたんだよ、美味しくない?」
「少し量が多いと感じますね」
「少食」
彼女は笑う。
私は食事に費やす時間が好きではない。だから出来る限り早く、食事という行為を終わらせたいのだ。
細かい味の違いなど分からない。ココアであろうがバニラフラペチーノであろうが、私の中では「甘い飲み物」に分類される。それくらいには食にこだわりはない。それだけだ。
そして、彼女は食事をする私を見る度に、笑う。
彼女の笑顔は気味の悪いものでは無い。太陽から生まれる光のように、ごく当たり前に発生するものだと私は理解している。
…ただ、この時ばかりは多少不愉快さを感じてしまう。私の性だ。
「彼女とかいたことある?」
「ありません」
私は一刻も早く食事を終え、笑みの刺さるこの場から離れたいのだがそうはいかない。彼女は空気が読めないのだろうか、はたまた芯が鉄のごとく強いのだろうか。
「何て言うか〜、うーん。私、万事くんみたいな人見てると放っておけないの」
「はあ」
「万事くんのことを知ったつもりじゃないよ。でも、貴方の横顔が高校生の頃から全ー然変わってなくて」
「……」
彼女はクスリと笑う。嘲笑ではない。
「ねえ、寂しくない?私には、貴方がとても寂しそうに見えるの」
"寂しい"。
思い直せばそうなのかもしれない。
今の私には、自分の中に生まれる感情が何であるかが分からない。分からないと言うよりは、分かりたくないのだろうか。例え何に属していようが、興味が湧かなかった。だから、彼女の言う「寂しそう」という言葉がイマイチ理解できないままでいる。
「…返答に、困りますね」
「困ってるんだ」
彼女は少し嬉しそうだ。
「万事くん」
「何ですか」
「私はね、貴方のこと忘れた事ないよ。ずっと気がかりでねー」
「……」
「ずっと教室で一人でいて、部活も入らなくて。ご飯も全然美味しそうに食べないし、体育の授業は全部見学してるし」
「…間違いではありませんが」
「びっくりしたのが、夏でも長袖にマスク!修学旅行も宿泊研修も休んで、笑った顔なんて見たことないの」
だから何だと言うのか。
「…そうでしたか」
私が訝しげに顔を顰めたのを見て、
彼女は、眉を下げて、笑う。
「だから、私と一緒に楽しいことしよう!
…っていうお誘いを、ね!」
「…」
言葉が詰まる。
単純に分からない。何故彼女が私にその提案を下すのか、何故彼女はここまで私に構うのかが。
彼女は話を続けるらしい。
「何でもいいんでしょ?貴方は人からの頼みを断らない。昔も今も!…メールアドレス交換した時とか」
てへ、と舌を出す。
これは新手の脅しだろうか。
「…それで」
彼女は少しだけ姿勢を直し、私に向き直って口を開く。
「だからお願い。万事くんが嫌になったらやめていいから、
私とさ、付き合ってみない?」
………
こんな無茶苦茶な告白が、一体何処にあるのだろう。
第一、何故彼女が私に告白したのかが理解できなかった。私と彼女は友人未満だ。傍から見てもそれは歴然で、私自身、一定の距離は保って接していた。意識せずとも、私はあれ以来誰に対してもそのようにして生きていたのだ。
必ず何か裏がある。私に隠している考えがあるのだろうか。
…皆目見当もつかないが。
「…駄目です。」
「うん、そうだと思った。万事くん、真面目だからなぁ」
「そもそも、貴方は私を好いているのですか」
「まだ分からないけど、きっと貴方なら好きになれる気がする」
予想以上に計画性がドン底を突き抜けており、落としかけたカップを支え、私は思わず彼女の顔を見直した。彼女はあくまで穏やかな顔で微笑んでいる。対して私は酷い顔をしていたと思う。
言葉は出ず、口から乾いた息だけが漏れた。
いくらなんでも無茶苦茶すぎる。
それに、仮に彼女が私を愛せたとしても。
愛は一方通行では必ず破綻する。
与え与えられて成立するものだ。
「私は貴方を愛せません」
そうだ。私は人を愛した事など、あの日から一度もない。
愛しいと感じない。愛したくないのだ。愛せる資格がない。
愛を他人に向けることの恐怖は、私がまだ人間として未熟な頃にこれでもかと刷り込まれ、大人になった今の私にもその記憶は受け継がれ、人格の一部として形成されている。
おかげで、私は知人を好ましいなどと思うことは一度もないし、ましてや彼女に対して好意などありもしなかった。
「私は貴方に好意などありません」
彼女は笑ったままだ。
「それでもいいよ。私が万事くんの笑った顔を見たいだけ」
何故だ。
「…無茶苦茶ですね」
「無茶苦茶でもいいかなって。だって万事くんが断るのは、それはそれでレアだし」
「私は断りたい場合はきちんと断りますが」
「そうみたいだね〜」
振られちゃったや、と彼女はまた笑う。
彼女の笑いは不快ではない。
不快ではない事が、自身の胸の内の変化を証明しているようで心がざわつく。
駄目だ。
近づきたくない。近づくべきではない。
身体が警鐘を鳴らす。
喉の奥がつかえるような感覚に襲われる。拒絶反応だ。
「…万事くん?」
私は彼女が、陽だまりが近づくのが怖いのだろうか。
私の世界はあの日から変わらない。何も無い、深い闇だ。
何にも触れず、何も感じない。それは安定とも言えるが、同時に停滞だ。私の生は8割そこで終わっているのである。私はそこから抜け出せないでいる。
期待をするだけ無駄だ。だから期待するのをやめた。
いつかその陽だまりが消え、途方も無い闇に包まれる想像をする。
人は不確定な生き物だ。何がきっかけで、手のひらを返すか分からない。
私は人には受け入れて貰えない。
─何故なら私は"病原菌"だから、貴方達人間とは、同じ道を共に歩めないのだ。
「んー……まぁ!でも諦めた訳じゃ無いからさ!」
彼女が手を掴む。
何にも形容しがたい、理解できない靄がかった感情が湧き上がるのを感じる。嬉しいのか、悲しいのか、怖いのか、不快なのか。真偽は私には分からない。
ただ、彼女の手を振りほどく気にはなれなかった。
「また食事、行こーよ」
彼女は全くもって予想しがたい人間だ。
もしかしたら、私を虐めた人間達に似ているのかもしれない。軽蔑している訳では無い。ある種野性的で、直感を頼りに動くタイプなのだろう。彼女は何故か、私に諦めることなく構い続ける。恐らくその理由が私に分かる事は無い。
ただひとつ、予想出来ることはある。
─どうせ私は、今後も彼女からの食事を断らない。
そもそも本当に関わりあいたくなければ、こうして会う道を選ばなければよかった話だ。流されたようで、既に私は自ら選んだのだ。
「…」
どうせ諦めるのならば、流れに乗ってしまえばいい。
私の人生に君を巻き込むことになるけれど。
半ば諦めたような顔で、きっとそれは、凡そこれから告げる言葉を口にする表情ではなかったが。
喉を締め、先に受け取った言葉を絞り出し、返す。
「……付き合いましょうか、満帆さん」
私は、彼女を、人を愛してはいない。
これから愛せる自信もない。
それでも彼女は、太陽のように笑った。
妻はある程度こんな像~って感じ(ノリで決めた)ので変わるかもしれない…
塞翁が馬と順風満帆、多分結婚した今でも苗字変わってないんだろうなあと思う 事実婚っていうのか 結婚式とか婚姻届とかやってなさそうだもんな〜
割と塞翁が馬に自我がある感じの文章になっちゃった… まあRPしてもそんなもんになるんだろうなといういい予習になりました!