失恋から始まる礼雪の話
含まれるもの
・礼光区長スト4話までのネタバレ
・雪風区長スト5話までの要素
・メインスト
・練牙の過去に出てくるキバ
・可不楓
・微粒子レベルの添練
・善意
・失恋
・無自覚の雪→楓
ないもの
・慈悲
1.可不楓と添練が成立して数年後、雪風の元に楓から結婚式の招待状が届く。可愛い弟たちが幸せに結ばれることに胸がぽかぽかする雪風は、早速楓へ電話をする。
2.電話に出た楓の声ははにかみを含んでおり、この世の全ての幸福を煮詰めたような声だった。愛するいとこの幸福に雪風も嬉しくなり、思い付く限りの祝福を述べる雪風。それを一身に照れ臭そうに笑う楓。すると楓から、結婚式の親友のスピーチは是非雪風に行って欲しいと言われる。雪風は勿論快諾するが、電話口の向こう側の可不可は、どこか労しそうな声で「楓ちゃん、それは....」と呟くが雪風には届かない。
3.結婚式当日。ハマの美しい海のように晴れた空の下、ガーデンウエディングが執り行われる。式場にはこれまでの困難や仕事、ハマをより良いものにすべく集った仲間たちが今か今かとざわめいている。凪が選んだ花たちが真っ白なテーブルクロスの上に良く映えていて、雪風にとって夢のようだった。式を控える楓の元に訪れ、電話をした時以上の賛辞を述べる雪風に、楓はやはり幸せそうに笑っている。胸の内に浮かぶのは、巣立つ愛しい弟への一抹のさみしさと、万感の喜び。その、はずだった。
4.式は滞りなく進み、スピーチの段になった。雪風は少しの緊張もなく祝福を送る。これまでの半生、小さな弟たちが大きく立派になり、添い遂げることへの純粋な喜び。美しい涙を流して顔を手で覆い、それからくしゃくしゃの笑顔を浮かべた楓はなによりもきらきらしていて。幸せだった。なにもかも。夢のようだった。叶うなら、いつまでも眺めていたかった。
5.ブーケトスを無事に終え、縁もたけなわ。二次会会場への移動が始まる。余韻に浸り式場の中、可不可と楓が永遠を誓ったステンドグラスの前に立った雪風は、めいめいに夜鷹のバーへ移動する仲間たちを尻目に日の光を浴びて煌めく色を落としたそれを見つめて。見つめて。幸せだ、良かった、と噛み締めて。そうして。ふ、と胸に突然、漠然とした空虚が広がるのを感じる。虚脱、悲嘆、さみしさ。痛くて痛くて、ここにいたくなくて、消えてしまいたいようなほどのなにか。雪風の元に降ってきたブーケを握りしめる指先が、酷く震えていた。
6.なぜ。どうして。繰り返す自問の中、不意に脳裏を過ぎるのは幸せそうに笑う楓の姿。そしてその隣にいた、可不可の屈託のない笑顔。ぐるぐると渦巻き、痛みが増した。記憶が肋骨の間をすり抜け、心臓が握り込まれる。全力でリンクの端から端まで何往復した後のような、肺の痛み。喉が引き攣って、なにもかもが痛くて。なぜ。なぜ。そう繰り返す中で、雪風はようやく気づく。楓は、雪風の、初恋だったのだ。
7.気づいた瞬間、足から力が抜ける。震える身体を抱きしめるように、今にも消えてしまいたいかのように、小さく蹲った。容赦なく雪風を照らすステンドグラス越しの光が、今はただただ苦しくて。泣き方なんて分からないから、胸の中の痛みを吐き出す術を知らなくて。視界が小さな海に覆われるのに、それが溢れることはない。滑稽だった。20をとうに過ぎたおとなの癖に、恋も分からないこどもだなんて。誰かが笑い飛ばしてくれたなら、どんなに良かっただろう。誰もいない教会で、雪風はただ蹲っていた。
8.不意に背後の扉が開く。規則正しい靴の音が、雪風に近付いてくる。誰だろうか。振り返る気力すらない雪風は、その人がこちらに来るのを待つしかない。背後に誰かが立つ気配がする。あっという間に距離を縮めた誰かは、雪風に影を落とした。
「おい」
低い声。落ち着いたトーンが空気を揺らす。ああ、礼光だ。区長と社長としての業務の合間を縫い、忙しいながらもふたりの式へ出席した冷たさを纏うのに、その実柔らかな内面を持つ雪風のいとしい弟のひとり。このまま返事をしなければ、彼に余計な迷惑をかけてしまう。それは兄として耐え難い。そう感じるのに、開いた口から音は出ない。ただ肺から押し出された空気だけが虚しく落ちる。
9.雪風は無言だった。礼光も無言だった。痛ましい沈黙だけがそこにあり、それ以上のものはなにもない。ただ重苦しい痛みが漂っている。そうして、幾許か時間が過ぎて。不意に礼光が雪風の正面に回り込み、同じようにしゃがみ込んだ。光が遮られる。色が雪風から遠ざかり、すっぽりと影に覆われて、そこで初めて雪風は顔を上げた。
「神名。俺は今からお前を奪い尽くす。お前が愛した弟から、お前が愛する弟という立場から、なにもかも全てを奪う。奪い、慈しみ、囲って、丸呑みにする。お前の意見は聞かない。お前が心から俺の元で笑うまで、決して。」
なにを言われているか理解が出来なかった。貫く意思の強い目に、それが冗談で済まされないことだけは、漠然と理解出来た。ただ、雪風に分かるのはひとつだけ。雪風の震える手を掴む強く大きな手の熱だけは、本物で。その熱さに押し出されるように、ひと粒涙がこぼれ落ちた。
という大好きだから雪にぃに結婚式のスピーチをしてもらいたい楓と幸せになれ可不楓と失恋する推しはこの世で一番美しいと泣け雪風とキバとの因縁が全部なんとかなり添練が無事すれ違い大宇宙を経てくっつきはーやれやれと肩の荷が下りた礼光が自分の番だからと雪風に手を伸ばす話を全部悪魔合体したもの。気力があったら多分肉付けします