極彩色未通過・通過中×
自陣は🆗
自探の秘匿込み設定集 ①
小説風味で楽しんで頂けると嬉しいです。長いよ!
【HO1. 藤崎司狼】
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本名は「マリア・シュクロフスカヤ(Maria Shklovskaya)」。日本人の父とロシア人の母を持つ、ハーフの女性。
母が日本に帰化していなかった(させて貰えていなかった)ため、日本生まれ日本育ちだが幼少期は母の姓を用い暮らしていた。
少し肩身の狭い思いをしながらも、平穏に暮らす外国人籍の母子家庭だった。父の身勝手な行動の末に母が殺された、あの日までは。
父親の不義と保身によって母の命を奪われ、
身を守る為に素性を隠し、放浪を続けた不遇の子供。
自身を拾い新たな生と名を与えてくれた恩人もまた殺害され、今や自分も同じ状況下にいる。
私生児。浮浪児。人間不信の獣。そして、蛇に命を握られ服従せざるを得なくなった、烏の中に紛れたスパイ。
マリアは誕生の時点から、社会の裏で生きることを余儀なくされてきた亡霊である。
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【生立ち】
父親はロシアの日本大使館に勤めていた外交官。日本に家庭を持っていたが、その上で赴任先のロシアにて現地スタッフだった女性・エレーナと関係を持ち、後に彼女の妊娠が発覚する。
宗教上の理由もありエレーナに中絶させることが出来なかった男は、これまで通りに自身が妻帯者であることは彼女に伏せ、言葉巧みにエレーナを自身の帰国時に日本へと連れてきた。
世間に不倫関係を隠しての二重生活。そうして彼女を自身の管理下に置いた先で誕生したのが、娘のマリアである。
日本で暮らす家屋や生活費、在留ビザの取得等の手配は行われたものの、父親はそれらしい理由を並べ彼女らと「一緒に暮らす」という事はしなかった。
勿論、配偶者として戸籍に登録などするはずがない。口では上手く誤魔化したが、書類上ではマリアの存在を認知していない。
そのため、エレーナとマリアは外国人籍の母子として、とある町で慎ましやかに暮らしていた。男の裏切りに関して何も知らず、ただ平穏に。
パート勤めをする母親と、単身赴任故不在だが、時折帰宅し顔を見せてくれる父親。
名前の書き方は皆と違うけれど、友達と楽しく過ごす幼稚園や小学校の時間。
母が語り教えてくれる、創造主と救世主、聖人達への感謝と祈り。
幼いマリアの世界は、それらの要素で構成されていた。
事件はマリアが11歳になった年、その暮れに起こった。
職務の面でも不正を働いていた男の、その秘密が暴かれるかもしれないと情報が入った。男は自身の保身のため、周囲へと指示を出す。
その中に、存在を偽装し管理下に置いていた母子への「対処」も含まれていた。
もしかしたら、誰かが彼女らと自分の関係に気付くかもしれない。そこから芋づる式に不倫が、不正が、暴かれるかもしれない。自身の生活とキャリアが壊されるかもしれない。
妻子から何と言われる?世間から何と言われる?マスコミに知られたらお終いだ。──全て、消してしまわなければ。
男からの密命を受け、数名の男達が母子の下に現れた。
身なりは整っているものの纏う空気に異質さを感じる男達の来訪に、母子は疑問と不安を覚える。そしてその不安は男達の言葉によって動揺と困惑になり、男の裏切りという真実を知った衝撃と混乱に変わっていく。
男達の手が母子に伸びる。母が、次いで娘が捕らわれる。
母から引き離され車に押し込まれるまでの光景を、マリアは生涯忘れることはないだろう。
娘を救おうと激しく暴れる母が叫ぶ。女の抵抗に業を煮やしてか、男の一人が母を殴る。よろめき倒れた体が、頭部が、激しい物音と共に棚の角へとぶつかる。崩れ落ちる母の顔から、生気が薄れていく。
遠ざかる家屋、玄関の扉に切り抜かれまるで絵の中の出来事のように暗闇に浮かぶ、一連の出来事。
薬品により意識を失うまで、マリアは母を呼び叫び続けた。
(事件後の世間の動き)
父親と男達に母子殺害の意思は無く、あくまでも「表社会からの隠蔽」が目的だった。
しかし事故とはいえ、結果的にエレーナは死亡。母子の叫び声や激しい物音、そして現場から逃げ去る男達や車両を目撃した近隣住人が警察へと通報したため、事件は「外国人母子殺人誘拐事件」として世間に知られることとなる。
そこから捜査の手が伸び、最終的に父親は全ての悪事が露呈し破滅することとなった。実行犯である男達共々、現在も法の下で裁きを受けている。
事件は解決したこととなっている。拉致された先で姿を消したという、少女マリアの行方を除いて。
【放浪】
目を覚ますと、男達の諍う声が聞こえてきた。車はまだ、どこかの道を走っているらしい。
意識を取り戻してから得た断片的な情報から、マリアはこれから自分の身に降りかかる事柄について察した。それはとても怖くて嫌な事だと、子供心に理解した。
「女の子だから、連れていかれる」──男達の口から出た言葉を繋ぎ合わせ理解し、マリアは逃げるため必死に考えた。幸いなことに、その日身に付けていた寝間着の下衣はズボンだった。
車が止まり、何か話しながら男達が車外へと向かう。目的地に着いたのだろう。薬がよく効き眠っていると判断されたマリアは、車に残されている。その隙を逃さなかった。
足音が遠ざかり聞こえなくなったことを確認してから、物音を立てないよう慎重に車から抜け出し、マリアは駆け出した。行先も分からないまま、ただ必死に。
水面で波立つ水の音。ぽつぽつと灯る小さな明かりのみに照らされる、大きな建物。見知らぬ場所で見る冬の夜は、暗くて寒くて、怖かった。
車の収納部を探って見つけてきた刃物で、髪を切った。クラスの男の子達のようにならなければと必死だった。暫く駆けて逃げた先、川に架かる橋の下で、長く伸ばした髪を切り裂いては川に捨てた。
最後に刃物も川に捨て、再び真夜中の町を走り始めた。とにかく、遠くへ。どこか遠くへ。背後から男達の怒号と足音が響いてきそうな恐怖と必死に戦いながら、マリアだった「少年」は独り走り続けた。
何度か朝と夜が行き来した後。
人目を避けて移動を続けてきた少年は、小さな教会のある町へと流れ着いた。放浪を続けたみすぼらしい姿の少年を、偶然通りかかったシスターが目に留め話しかける。
相手が、神様にお仕えする女性だったからだろう。人への恐怖心と警戒心は解けないまま、それでも少年はおずおずといった様子でシスターからの言葉に応じる。何か事情があるのだろうと察したシスターは、深くは尋ねることはせず、少年を伴い自身が属する教会へと歩みを進めた。
事情を伝え館内へと足を進め、シスターは少年へ手当を施す。霜焼けや擦り傷で赤く腫れた裸足を清め、適切な処置を。身を清めるために神父様へと頼み用意して貰った入浴の手配と、替えの衣類の用意と。身なりを整えた少年へ治療の続きを行い、温かなスープとパンを与えた。少年は無心になってそれを食した。
シスターや神父様からの問い掛けに、少年は答えない。家出だろうかと問われた際、間を置いてから小さく頷く。
身元も名前も明かさない少年を、教会は優しく迎え入れた。
一夜明け、温かな日の光がステンドグラスを通して差し込む中で、少年はシスターと話をした。彼女が語る救世主の名前は、自分の知るものとは異なっていた。それを不思議に思い、問い掛けたのがきっかけだ。
「あら、あなたは正教会の方なのね」穏やかに語る初老のシスターは、教義の違いを厭うことなく受け入れ、分け隔てなく接し教えてくれた。キリスト教の教理を。救世主の物語を。神を信じ、祈る心を。
主を信じる者同士であるならば、と。教会の奥へと向かい、戻ってきたシスターの手の中にロザリオがあった。念珠と共に銀の十字架が日の光を浴び煌めいている。
シスターから貰い受けたロザリオを、少年は大事そうに握り締めた。
──翌日。シスターが教会を訪れると、そこに少年の姿は無かった。やはり警察に保護を頼もうか、と神父様と二人話し合った翌日の事だった。
少年が寝食のため用いていた部屋には書置きが残され、そこには神父様とシスターへの感謝の言葉が書き綴られていた。
少年は放浪を続けた。行く宛も、帰る場所もない。逃走のため、生存のために、ただ必死に前へと進み続ける。
公園の水で喉を潤し。ホームレスの人々に倣い、古紙で身を包み暖を取る。橋脚の下で雨風を凌ぎ夜を超えて、人目を避けながら先へ。先へ。
道に小銭が落ちていれば必死で拾った。空腹に耐えかね、ゴミを漁る日も多くあった。周りの景色に近代的な建物が増えてくるにつれ、深夜に屯する少年達と遭遇する機会が増えた。面白半分に暴行を加えられることもあった。……抵抗することを覚える必要があった。
生きるために反撃した。生きるために人を傷付け、生きるために盗みを覚えた。嘲笑、暴行、支配心……人間の残虐な部分を身をもって学んできた。自分もまた、その汚い側の人間なのだと日に日に理解した。
母や、あの教会の人達のような、温かな人にはなれない。自分は神様の子にふさわしくない。──それでも、あの日シスターから授かったロザリオを手放す事は、どうしてもできなかった。
朝と夜が繰り返す。季節が少しずつ変わっていく。建築群は高さを増し、雑踏もまた増えていく。少年はこの国の首都に辿り着いていた。
眠らない都市に行き交う人々。色彩に溢れた街。あの不良達のような外敵は多くいるかもしれないが、人の群れに紛れ潜むことは安全かもしれない。少年は息を潜め、この街の路地裏に暫し身を置くことにした。
花は散り初夏が訪れ、昼夜を問わず人々はより活発になっていった。
──そうして、運命の夜が訪れる。
【藤崎との出会い】
転々と寝床を変えながら、少年は路地裏を中心に潜伏を続けていた。コンビニエンスストアや飲食店裏の残飯を漁り、酔い潰れ道端で眠りこける大人の財布から金銭を抜き取る。何やら頻繁に発生する不良達の諍いを隠れ見ては、残された敗者から金銭を盗み取り、自動販売機の糧としていた。
その日も同じはずだった。青色の上着を着た男が誰かと乱闘するのを見届けて、倒れ伏した相手に駆け寄り金を奪った。そのまま逃げ切るはずだったのに、青衣の男はどこまでも追いかけてきた。襟首を掴まれ足を阻まれてからは全力で抵抗した。少年がどんなに暴れても噛み付いても、男は彼を逃がさなかった。しかし不思議と、殴り返されることはなかった。
やがて少年の体力が尽き捕獲が完了すると、男は取り戻した戦利品と共に少年を自宅へと連行した。そうして延々と説教を続け、少年にこの街のルールを耳にたこができるほど語り聞かせた。
「分かったんなら帰っていい」「そんな状態になるまで家出なんてするな」……そう投げ付けられた男からの発言に、つい、言葉を返してしまった。
「帰る場所はない」
「家に知らない人達が来て」
「お父さんが、……おれと、お母さんを、連れて行けって言ったって」
「お母さんは、……」
「……もう家には帰れない。帰ったらあの人達に見つかる。だから帰る場所なんてない」
「帰る場所なんてない……」
土間で蹲り、小さくな声で絞り出すように語られる少年の言葉を、呆然とした様子で男は聞いていた。
暫しの沈黙の後。深く息を吐き出してから男が言う。だったらここに居ていい、と。俺がお前を拾ってやる、と。
その後の流れは少年にとって急激なものだった。部屋に上げる条件だと言われ風呂場に押し込まれた。ピカピカになるまで洗ってこなければここから出さないとまで言われた。窓は無いから逃げようとしても無駄だ、という言葉付きでの幽閉だった。
仕方がないので言う通りにし、用意されていた男の衣服を纏い戻った。餓えてはいたが、差し出される食事には手を付けなかった。その日は男の部屋の隅で丸くなって眠りについた。……久方ぶりの、屋内での睡眠だった。
翌日からも、言葉の通り、男は少年を自身の保護下に置いた。
少年が脱走しないよう自ら見張りをし、その間に知人へと頼み少年の衣類を買い揃えた。毒見する姿を見せてから食事を与えるなど、少年の態度に手を焼きながらも彼と積極的に関わろうとした。
警戒を解かない少年の姿にまるで獣のようだと文句を言いながらも、言葉と行動で少年に示し続けた。「ここに危険はない」「ここに居ていいのだ」と。……男のその姿を受けて、少しずつ少年の警戒は解けていった。そうして、一人と一匹の生活が始まっていく。
男の名は「藤崎 辰」といった。
藤崎は、名を持たない少年に自身の姓と、「司狼」という名を与えた。
司狼として歩み始めた新たな人生。そこにはいつだって、藤崎が共にいた。
ある日突然、大量の教科書やノートを買い与えられた時があった。学校に行かない代わりに、家でこれをやれと命じられた。「俺は教えてやれねえけどな!」と開き直っていた割には、藤崎は時間が合えば一緒に問題を解くなどしていた。理解力等は司狼の方が勝っていたが、知見は藤崎の方が勝っていた。いちいち煩かったが、一人で教科書を見る時間より、ずっと充実していた。
藤崎の手引きで、彼の所属するカラーギャングにも加わった。顔を隠し、別途彼から与えられた「カイ」という名を用いての裏社会での活動は、どこか充実感があった。同じ青の色を纏い、藤崎が縄張りと称する一帯を二人で見まわる日々。喧嘩の仕方を教わったことで、一介の不良相手には何の支障もなく勝てるほど強くなれた。
性別を偽っていたことを藤崎に知られた際は大層叱られたが、それでも彼は司狼を捨てることはしなかった。逆にどうやって司狼の素性を隠し身を守っていくかを、より真剣に考えるようになった。
半ば無理矢理誕生日を言わされてからは、毎年その日は安いケーキを買い二人で食べた。藤崎の誕生日も、同様に。口には出さなかったが、気付けば毎年この日を特別に思う自分というものが、確かに存在した。
ある時急に引っ越しをしたこともあった。同じアパートの二階上、今よりも部屋数が多い物件。司狼の成長を考えての選択だったろうことは、言われずとも理解している。同アパートの力自慢達とも協力し、荷物の運搬は全部自分達で行った。藤崎の交友スキルあってこその手法だろう。
16歳になる年。「お前も家賃稼げ」と問答無用で働きに出された。藤崎が頼み込んだらしい、彼の知人が経営するという小さな喫茶店での仕事。接客という仕事に抵抗はあったが、しかし店で流れる時間やオーナー夫婦と過ごす時間は、心地良かった。
人と接することは苦手だが、それでも藤崎を介して多くの人と知り合った。隣室の男性、アパートの住人、藤崎気に入りの店の店主、あくまで友達だという女性。皆藤崎を慕い、彼もまた皆を親しく思っていた。ジンのところの子ならばと、ただそれだけで信頼を得て親身にして貰う事が多かった。その様子を見て嬉しそうにする藤崎の姿を見るのが、なんだかこそばゆかった。
楽しかった。藤崎と共に過ごした時間は、本当に楽しかった。彼に拾われ、「司狼」として生きてきた日々は、普通の暮らしとは大きく異なるだろう。けれども、司狼の心は満たされていた。
マリアでなくなったあの日からは笑う事も、無邪気に人と接するという事もなくなったが、それでも。司狼として、藤崎と共に暮らし生きていく日々は……温かくて、安らぎに満ちていて、楽しかった。
血縁もない。父親でも、兄弟でもない。それでも司狼にとって藤崎は──親だと。家族だと呼べる、何よりも大切な存在となっていた。
なっていた、のに。
【別離、そして】
17歳になった年のことだった。
藤崎が帰宅しない。数日間続くそれを不審に思っていると、スーツに身を包んだ男性二人が部屋を訪ねてきた。刑事だと名乗る彼らの来訪に疑念と警戒心を抱く中、彼らの口から出た言葉を聞き頭の中が真っ白になる。
──藤崎が、死んだ。
何かしらの事件に巻き込まれ、爆破という手段で殺害されたようだ、と。
藤崎の身元を調べここに来たという刑事達に、彼の家族かと問われた。ただ茫然と、無言で頷くことしか出来なかった。何か問われても、答えることが出来なかった。答える余裕と、答えられる素性が、司狼には無かった。
それからのことは、正直よく覚えていない。騒ぎを聞いて顔を覗かせた隣室の男性が間に入ってくれ、刑事達の話に応じてくれた。大家や他の大人達も呼び、司狼の身元を保証してくれた。様々な手続きにおいて、藤崎を慕う多くの人が手を貸してくれたことは覚えている。……皆、藤崎の死を悼み、涙していた。
小さくなり戻ってきた藤崎を腕に抱きながら、部屋の中で立ち尽くす。……涙は出なかった。代わりに、呆然と心の中で神に問い掛け続けた。
主よ、どうして。
どうして私の大切な人の命ばかりが、奪われるのですか──
藤崎と二人、暮らしてきた部屋。藤崎の痕跡は色濃く残っているのに、全てが冷たい静寂に呑まれている。
司狼は再び独りになった。しかし彼女はもう、無力な子供ではない。藤崎と過ごした6年の歳月、その中で多くの事を学んだ。居場所、環境、力。彼に守られ、導かれる中で、社会の陰ででも生きる力を身に付けてきた。……だから、一人でも生きていける。
──藤崎が生きた証を。彼が築いてきたものを、守らなければ。
狼の瞳に、静かな決意の火が灯る。
家賃を確保するために仕事を増やした。喫茶店での仕事と、倉庫での軽作業。藤崎の家を、藤崎と暮らしたあの場所を手放すまいと、安定して稼ぎを得るため働いた。もう家主が戻ることは無いと分かっていても、この場所を守りたかった。
『ブルーインフェクサー』の一員として、引き続き彼の縄張りを守り続けた。一人で夜の街を哨戒し、侵入者が居れば排除した。ここは「俺達の」縄張りだと。藤崎が都度言っていた言葉を静かになぞりながら、彼のいない領地を一人守り続けた。何者にも奪わすまい──その激情は誰にも見せず語らず、自分の内に秘めて。
爆破殺人の話を耳に挟むたび、自分なりに事件を調べた。カラーギャングを狙った犯行だろうかと噂される一連の事件。それに藤崎も巻き込まれたのかと思うと、……犯人への怒りで心は憎悪に焼かれた。
司狼のすることは変わらない。藤崎という、ぽっかりと空いた大きな穴を除いては、何も変わらない。生き方は全て彼が教えてくれた。彼と歩んだ日々を守り、彼のやり方を踏襲し、彼の不在を補い歩く。ただ、それだけだ。それが何よりも大切なのだ。
藤崎司狼という少年にとって、ジンと歩んだ日々は何物にも代えがたい大切なものなのだ。だから守っていく。藤崎が築いたすべてを、守っていく。
18歳になった年。
司狼の献身的とも言える活動が実を結んだのだろうか。多くの者と同様、組織の末端に位置するだろう「カイ」の下へと、チームのボスからの連絡が届く。「青蛇」──チームに所属する中で、名前のみは聞き及んでいる存在だ。
指定された日、指定された場所へとカイは赴く。言葉を交わし、活動への功績として彼から腕輪を授かる。
照明の光を受け銀色に煌めく腕輪。言われるがままそれを右腕に嵌め、そうして──
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【その他細々したメモ】
・利き腕は左(当初は右にしていましたが、やはり腕輪と逆の方が良いな?と思った為変更しました)
・シナリオ内で出す機会は無いと思われるため技能等振り分けてはいないが、生い立ちからバイリンガルである可能性が極めて高い。
母とは(母の)母国語で話すことが大半だったため、幼少期時点で身に付いたもの。久しく話す機会がないが、恐らくロシア語に関しては自然な会話が可能。
・男装しているのに髪が長い理由は、子供の頃藤崎に「お前髪短いと逆に疑われそうだわ」と助言されたため。ハーフ故の中性的美少年感…
・学校教育は小学校5年生までしか受けていないが、INTの値が非常に高いため賢い人物であるだろうことが伺える。地頭がとても良い。
それ故に中学校までの義務教育内容は与えられた書籍で独学で習得。また、その理解力の高さから、過酷な生の中でも生き延びていく観察眼や直感力も培われてきたのだと推測される。
・プロフィールの「嫌いなもの」に挙げられているネクタイ。正確には「ネクタイをした偉そうな男性集団」が全文となる。
自分達母子の運命を狂わせた父親と、あの晩の男達へのトラウマに起因する。成長し生活をしていく中で徐々に恐怖心は克服していったが、いかにも高官そうな見目のスーツ男性や、きっちりとスーツに身を包んだ警察関係者等々に苦手意識がある。
・司狼が神へと祈りを捧げるようになった時期は、青蛇により腕輪を付けられてから。それまでの間ロザリオは、唯一の私物として自室で大切に保管されていた。
自身の身の振り方を考える機会、常に死と隣り合わせの状況下に置かれたことで、(穢れた身故に)距離を置いた信仰の世界へと気付けば手を伸ばしていた。しかし祈り願うのは自身の安全ではなく、愛する人達の魂の安らぎだった。
・今も暮らし続けているアパートには、藤崎の生活の跡が変わることなく残されている。彼の寝室兼自室に関しては、あの日から一切手を加えていない。
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【信仰に関して】
宗派としては、一応正教会の信者。しかし母から教えられていた事をベースに、残りは自身で入手した聖書等で神の教えを見てきたため、正確なものではない。
とても広い意味での「キリスト教徒」。宗派を気にせず、ただひとえに神へと向き合う精神は、どちらかと言えば日本人的な感性に近いかもしれない。
神へと捧げる祈りの中に、自身に関するものは無い。母と藤崎──今は亡き大切な人達が、神の御許で安らかに暮らせることを、ただ願い続けている。
母は自分を生み、育み、愛してくれた。神の教えを深く信じていた。善良な人だった。だからどうか、今は安らかな日々を与えて欲しい。現世で苦労と悲しみに苛まれたであろう、あの優しい人に、神の慈愛と安らぎを。
ジンは、窃盗等の悪いことをしていたかもしれない。異教徒であり、神の教えから背いた行いをしていた、無知な者であるかもしれない。
しかし、彼は見ず知らずの自分を救い、共にいてくれた。他者を愛し、助け、善行を積む男であった。だからどうか神の国へ迎え入れて欲しい。彼の善性は自分が保証し続ける。そのために、日々神へと祈りを捧げよう。
神の愛を信じ、そしてその愛が自身の愛する人達を包んでくれるように。──それが、司狼の抱く信仰の思いであり、祈りである。
司狼自身は、自分が死後、神の国へ行けるとは思っていない。
神の慈愛から自ら離れ、生きるために他者から奪い続けてきた自分には、神の御許へ向かう資格など無いと思っている。そのため、司狼が教会に足を運ぶことは無い。神聖な神の家を、汚すわけにはいかないからと。
その信仰心がまさしく神の教えに従っているものであるというのに、自分自身については神の愛から遠く離れた存在であると思い込んでいる──クリスチャンという側面で見る司狼という存在は、正教会における「地獄」に自ら身を置く、哀れな信徒である。
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ダイスで決めた誕生日は7月13日。
誕生花である鉄砲百合の花言葉は、「純潔」と「甘美」。
そして、百合はキリスト教において聖母マリアの象徴とされる花である。
偶然の一致とはいえ、奇妙な縁を感じる。