クトゥルフ神話TRPG「忘レ形見after」7月25日夜時点でセーブです。加奈ちゃんが怪物に襲われたので診療所に駆け込んだ場面という「今」だからこそ書ける洋見君の気持ちを書き殴りました。※シナリオのネタバレを含みます。
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間に合わなかった。俺はあの瞬間、何もできなかった。
診療所のベッドで横になって眠っている加奈の手を、そっと握る。
今は綺麗な彼女の小さな手は、つい数時間前、血まみれで小太刀を握っていた。……握らせて、しまった。
『俺は天宮加奈も、黒崎カナも、両方助けたいんだ』
一年前、俺はそう言った。「普通に生きていきたい」、そう言った彼女の願いを叶えてやると、そう言った。
ところがどうだ。結局は口だけだ。俺一人では何もできない。自分の無力さが恨めしい。
結局、俺は一年前も、これまでの間も、そして今この瞬間も、加奈を助けることなんてできやしない―――。
『紙鶴ちゃんの力になってあげる、って約束してくれる?』
―――そうだ。まだ、俺ができることはある。加奈のために、そして、紙鶴ちゃんのためにも。
俺が「あの人」に助けられたように、俺は俺にできることをやるしかないんだ。
加奈のことを先生に任せて、俺は一度診療所を後にする。暗がりの中、人里離れた方向へ俺は足を向けた。