「不辜のサァカス ナイフノモツレ」 現行・未通過× 自陣まだ×!
5日目、HO2視点☀
不和って、なんだろう、裏切りって、なんだろう。
○市街地
サーカスの宣伝に広場へと向かう。チラシや風船を配り、チケットを捌くのだ。
昨日破り取られていたお尋ね者のチラシの場所に新しいチラシが貼られていた。
▼新しいお尋ね者のチラシ--------------------------------
注意!大泥棒 ジャン
この顔をみたらご連絡を。
次はあなたの財布が狙われるかも?!
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いつもしている顔のペイントが施されていないが、おれたちのよく知るジャンで間違いない。
あいつこんな大物だったのか…。
広場ではストリートチルドレンの少年が風呂敷を並べ、何かを売っていた。
見れば前にジャンからもらったお守り、ナザール・ボンジュウだとわかった。
しかも材質も柄も全く同じものだ。
不思議に思い子供に聞くと、つい最近ジャンの姿を見たという。
やつにこのナザール・ボンジュウについて尋ねられ品物を見せたら、
そのまま持っていかれてしまいとても困ったというのだ。
こんな子供が頑張って作ったものをカネを払わず奪った挙げ句、
しかもそれをおれに善人面して渡してきていたのだ。なんてやつだ。人の風上にも置けない。
長い間一緒に暮らしていたこともあって完全に知った気になっていた。
やつのことなどおれは何も知らなかったのだ。
うちのものが迷惑をかけたな、と2つ買い、料金に少し色を付けておいた。
ひとつはジャンに襲われたときに割れてしまった自分用。もうひとつ買ったものはお礼にセナにあげようと思った。
ガゼルも自分用に買っていた。おれより少し多めの金を払い、おれを見て鼻で笑った。なんだこいつ。
団長もお守りを買っていた。贈り物を2つ。男性と女性に贈るのだそうだ。
女性…?団長に女がいるのか!?場は騒然となった。
○チケット売り
少年とわかれると本格的にチケット売りを開始した。
団長が口上を述べ、ダグさんが野良猫や野良犬を手懐けて芸をする。それにつられて足を止める通行人たち。
おれも続かなければ。
何人もの視線がこちらに注がれているのを肌で感じる。
怖い。
生唾を飲み込み、集中。持っていたボールや売られていた果実を使って放り投げ、ジャグリングを披露する。
震える腕でなんとかキャッチ。かろうじて、失敗せずに済んだ。
ピタリと静止し、周囲の反応を伺う。
拍手や歓声は聞こえない。ただただ、不安そうにおれの様子を窺う群衆の顔が見えた。
なぜだ。芸は成功したはずだ。何が悪かった。どうして…
ぶわりと冷や汗が出たのと、ガゼルが飛び出してきたのが同時だった。
彼はおれのジャグリングを見事再現し、自分のマネをするようおれに目配せをする。
それを察し、後に続く。あとは流れるようだった。
一連の芸を終え、おれとガゼルが深々とお辞儀をする。
鳴り止まぬ拍手、飛び交う歓声。チケットは飛ぶように売れた。
家族連れもやってきてわざわざおれたちに声をかけてきた。
子供の方はいたく感激した様子で団長に興奮した様子で話しかけている。
「あなたのようなひとになりたい」と。
去っていくその姿を見送る。
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あなたはぼうっと家族を見つめていた。
あなたは物心ついたときにはこのサーカスにいた。アワドに拾われたのが幸運だった。
それより以前のことは覚えていない。
自分には両親がいたのか、どんな人間だったのか、愛されていたのか、
それはどんな感覚なのか。何も知らない。
しかし、今となってはこのサァカス団が自分にとってのホームであり、家族だった。
自分が今感じていることがあなたにとっての全てであり――そして、今の不調は本望ではない。
だからこそ、成果を上げられない自分がそこに加わっているという事実が、
どこまでもあなたの前にそびえ立っていた。
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ガゼルに助けられた。
今回だけではない、思えば昨日のリハーサルのときも彼の演奏に支えられてたし、
怪我をすれば診ようとし、順番ぎめのときはおれのことを考えて提案をしてくれた。
何度も、こいつに助けられている。
心の広い人間なら素直に感謝をするのだろう。自分の窮地を救ってくれた恩人だと、賛辞を惜しまないのだろう。
だがおれは違った。おれは狭量な人間だ。
手伝ってほしくなかった。助けてほしくなどない。自分でできる。できるはずなのだ!
なぜなら三年前までできていたのだから!
余計なことをするなと叫びそうになった。掴みかかってぶん殴ってやろうかと思った。
だがそれを飲み込んだ。
もしほんとうにガゼルが出てきてくれなかったら?その時はどうなっていた?
せっかく団長やダグさんがうまくやっていた場をぶち壊し、惨状と成り果てるのをおれは止められたか?
冷静に場を見る自分もいる。だから、飲み込めた。
チケットをさばいたあと。ガゼルに声をかけた。「助けてくれてありがとう。すまなかったな。」と。
おれはうまく笑えていただろうか。
ここでようやく腹が据わった。
一度は奪ったフルートをどうしようか、まだ踏ん切りがついていなかった。でももう違う。
おれは何が何でも明日の公演を成功させなければならない。
大丈夫だ、自分でできるのだと周囲に知らしめなければならない。
そうでないとおれの気が済まない。これはおれ自身のために重要なことだ。
そのためにも。あの酒は絶対に手に入れる。
○ケバブ屋
おいしそうな店を見つけた。ケバブを売っている店らしい。
チケット売りで疲れ、空いた小腹を満たすためみんなでそばまで寄っていった。
入り口にはくしゃくしゃになったアサドのポスターが転がっていた。
掃除が行き届いていないのかと思ったが、店内はきれいだ。その分やけにこのポスターの存在が浮いていた。
するとガゼルが「ケバブきらい!!!!」と駄々をこね始めた。
「ケバブ以外にもサイドメニューがきっとあるだろう」と団長がなだめると、
「ケバブ屋においてあるすべてのものにアレルギーなの!!!」と返す。
あのガゼルがそこまで嫌がるなんてめずらしい。
「そんなアレルギーあるか」とケバブ屋から勝手にどっかに行こうとするガゼルを捕まえ、
ずるずると店の入口まで引きずっていった。
声をかけても何も返事はない。
店に入っていけば中から男が走り込んできた。突進してくるような勢いだ。
「靴を脱ゲ!!」と、どこかカタコトで話すこの男はおれたちがきたことを奥の誰かに伝える。
すると今度は半裸の男が現れ、「アサドの奴らか!!!!」と叫び声を上げ団長に殴りかかってきた。
それととっさにダグさんがかばい、壁まで吹き飛ばされる。
え?なにがどうなってる?頭が追いつかない。一瞬のうちに展開が動きすぎて脳が処理できない。
とりあえず吹き飛ばされたダグさんにかけより、「おれたちはアサドとは関係ない!」と半裸の男に叫び返した。
最初は半信半疑な男だったが、話をすればわかってくれたようだ。
いきなり殴りつけたことを謝り(ほんとだよ)、お詫びにただで食事をごちそうすると何度も頭を下げた。
この半裸の暴力男は名をパスィート、最初に接客したカタコトの男はマトゥーヤというらしい。
準備をすると言って彼らは奥に引っ込んだ。
ここで四人でひそひそ話。
ガゼルが元アサドであることを知られたら、あの剣幕では命を奪われかねない。
絶対に口にするんじゃないぞ。と、みんなで誓いあった。
ケバブ屋の中を見渡す。中にはテーブルと棚があった。
まずは腰を落ち着けるためテーブルにつく。
・テーブル
スケッチブックが置かれている。中には絵が描かれているが、どれも奇抜な衣装に身を包んでいる。
どうやらサーカスの真似事をしている集団を描いたものらしいが、
古いものだろうからか随分とみすぼらしく思えた。
ダグさんが「赤い」「派手だ」を繰り返しながら一人の男を指差す。
真っ赤に燃えるような毛髪をした男が居た。たしかに派手だ。
一度見たら忘れられないようなインパクトのある外見だった。
絵の裏には文字が書かれていた。
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練習を積めば大玉に乗ったり、ナイフを振り回して見せたり、ライオンを使役することだってできる。
しかしそれは人間の域を超えない。観客は、感心こそすれども、
感動と驚きは、一度観劇してしまえばやがて薄れてしまう。
「最高のエンターテインメント」を追求するためには、誰でもできるようなことではいけないんだ。
もっと、超人的で絶対的なパフォーマンスを。人には不可能だと言われる限界を超えたい。
私は空が飛びたいのだ。
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・棚
棚には本があった。だが中を開いてみてみても何と書かれているかはわからない。
団長はこの本と似たものをウムト前団長が持っていたことを、
ダグさんのほうはダグさんのお師匠さんがこの本を読んでいたことを覚えていた。
そこからはらりと1枚の紙が落ちる。どうやら地図のようだ。
状態が悪くとても読めたものではないが、一部走り書きで読めそうな箇所があった。
▼『エジプト王とライオン』-------------------------------------------------------------------------
古代エジプトのアメネムハト王はエジプトを滅ぼしたライオンを平原地帯に埋めて打ち負かしたのだそうです。
ライオンは大変強く、大きく、倒すことは出来ませんでした。
しかし、アメネムハト王は賢く、そして信心深かったため、
ライオンを倒すことが****ことだと分かっていました。
そこで、ライオンを地中に埋め、エジプトには再び平和が訪れました。
ライオンがもし掘り出されてしまえば、世界は再び滅ぼされてしまうでしょう。
▼地図に直接書かれた手書きの文字---------------------------------------------------------------
以前は様々な宗派が集い、宗教的施設として扱われることもあった神聖な都。
現在は打ち捨てられており、野生動物が生息しているらしい。
候補に上げられた場所の中で、最もふさわしい場所だと考えられる。
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書き込まれているところはトルコのあたりらしい。
トルコを知らなかったのでまた三人に聞けば、「トルコはねえ、のびるんだよ!!!」とガゼルが教えてくれた。
昨日はそばにあったものも、翌日になれば遠くにあったりする異形の地らしい。
なんだかデジャブを感じたが、素直に「やべーとこだな」と返しておいた。
そうこうしているとパスィートとマトゥーヤが戻ってきた。
各種料理が揃い踏みである。
セナの料理には及ばないが、どれもこれも絶品で、舌鼓を打つのに十分だった。
夢中で手を進めていると、突然パスィートが立ち上がりガゼルに掴みかかった。
「お前、アサドのモンじゃねえのか!?」
「ええ~?なんのことぉ?」
ダグさんが即座に仲裁に入る。
「違います。彼は我々スィールク・ハルワサーフルのメンバーです。アサドとは関係ない。」
「んん、そうか?どこかで見たことあるような顔な気がすんだけどな。」
そういえば、と自分が話題を変える。
「どうしてそんなにアサドを目の敵にしているんですか?こう、異常なほどに。」
パスィートがガゼルを離し、腕を組む。
「あそこはいけすかねえ。まるでカルト集団だ。子供が攫われてるのもあのサーカスの仕業だって噂だ。
おれの姉の子供も拐かされた。あいつらがどっかで糸を引いてるんだ。間違いねえよ、俺にはわかる!」
根拠にない噂話を信じて見ず知らずの人間にこぶしを振るっていたというのか。なんてやつだ。
「料理作ってる間にここの物見させてもらったんですが。この本は?」
「ああ、ずっと前からおいてある。客がおいてったものだと思うんだが、まるで内容がわからねえ。
とりあえずあそこに置いてあるんだ。」
「では、このスケッチブックの絵は何ですか?」
「これは昔俺たちが組んでたグループの絵だ。ほらこれが俺。で、これがウムト。」
「ウムト!?」
もう一度スケッチを見つめる。記憶にある彼より随分若いが、確かに面影がある。
「ウムトと俺は仲が良かったんだ。熱いやつだった。」
「おれたちのサーカスはもとはウムトさんが団長をやっていたんです。今はこのアワドさんが団長です。」
「そうか、あいつ自分のサーカスを持ってたのか。そうかぁ…」懐かしむようにパスィートは目を細める。
団長が「ウムトさんはこちらに最近いらしていませんか?」と聞く。
「いいや、もう長いことあってねえなあ…」と返すパスィート。首をひねるおれとダグさんとガゼル。
「ウムトさんって三年前の事件に遭って亡くなったんじゃ…?」自分がそう聞くとアワドさんが驚いた声を出した。
「いや、彼はあれに巻き込まれては居ないよ。」
え、とどよめくおれたち。
「あの事件の三日前、突然小生に『サーカスのことは任せた』と言って行方をくらませたんだ。
今はどこにいるのかわからない。
だから、彼が帰ってくるまでサーカスを預かろうと思っていた。
その時に滞りなくサーカスを返せるようにね。」
知らなかった。てっきり前任者が死んだからアワドさんが引き継いだんだと思っていた。
ダグさんとガゼルが知らなかったのは当然だがおれも知らなかった。えーーーーーーーーーーーーー
「そうだ、お前ら占いやっていかねえか?マトゥーヤが実は占いができてな」
お!!と食いつくおれたち。
「これから先のことがわかるんですか?」
「まあそんなもんだ。」
マトゥーヤは鼻をふくらませ、懐からカードを取り出した。
この中から1枚引けという。選べるのはおれたち四人のうちの一人だけ。
団長、と口々に呼んだ。団長は頷き、マトゥーヤの手元から一枚のカードを抜き取る。
カードはタロットカードのようだった。裏返し、示されたアルカナは「月」。意味は「家庭の不和/裏切り」。
どちらもあまり良い意味ではない。
「裏切り」という文字を見たときドキリとした。
これは、おれがガゼルからフルートを盗んだことを言っているのではないか?
いやだが、おれは誰かを裏切るつもりなんて毛頭ない。
フルートは盗んだが代わりのものと取り替えた。不利益になるかもしれないが、敵対しようなんて思ってない。
だがしかし、他人の所持品を己の利益のために盗み出す行為は
信頼の裏切りとみなされても仕方ないのではないか?
その行為が、結果、家庭の不和…サーカスの破滅を呼ぶのではないか。
考えすぎか…?
団員の、みんなの、顔が、見れない。
団長の抜いたカードを受け取り、マトゥーヤはカードを混ぜはじめる。
するとその手首に何かが光っているのに気がついた。小さな鍵のようなものだ。
その装飾に見覚えがある。
そう、昨日の朝団長が「鍵を探している」と言っていた手帳とおなじものではないか。
団長が「少し貸してくれ」というと、マトゥーヤは「いやだ!」と拒否の色を示した。
なんでもパスィートが大昔に店で拾ったものをマトゥーヤにあげたもなのだそうだ。
はじめてあげたプレゼントなのでマトゥーヤにとってはとってもとっても大切なものらしかった。
「今この場で借りてすぐに返す。だから少しだけでいい」と団長は粘るが、それでも彼は首を縦に振らない。
それをみたパスィートが口を開いた。
「聞きたいことがある。なぜお前らはサーカスをするんだ?
ここにはアサドっていうでかいサーカスがある。ってのに、お前らがここで頑張る理由は何だ。」
こちらの一人ひとりの顔をゆっくりと見回して、そう問いかける。
それぞれ、めいめいが口を開く。
各々の立場を、思いを、言葉にしてこの場に紡ぐ。
どうしておれはサーカスをしているのか?そんなこと決まっている。
「この場所しかおれにはないから。芸をすることしかおれにはできないから。ただそれだけです。」
(自分の台詞を考えるのに必死でみんなの回答を覚えていない…!!!!!!!!!!!!!!!
一生の後悔。セッション後に音声ファイルもらったら聞き直します;;;;;;;;;;)
全員の回答を聞き終わると、パスィートはふ、と口元を綻ばせた。
「試すような真似して悪かったな。」
するとパスィートはマトゥーヤの手首からひょいと鍵を抜き取ると団長に手渡した。
「ナンデ!?!?!?!?!??!!??」と絶叫するマトゥーヤ。
「いいだろ、もっといいのを今度買ってやるから!!!!」と返すパスィート。
ふつうにマトゥーヤがかわいそう。ちょっと借りて返せばいいわけだからそんなもらうまでせんくても…
と思ったが、団長はそれをしまった。ありがたくいただく、ということらしい。
「公演、明日だっけか。見に行くからな。」
「気をつけて帰れ!!」
二人に見送られ、おれたちはここをあとにした。すげえ濃い人達だった(キャラグラも何もかも全部)。
○再び広場
広場に戻ればそこには小さいサーカス団が芸をし、チケットを売っていた。かなりの人気があるようだ。
近くを通り過ぎようとすれば男に絡まれた。
「なんだおまえら。サーカスの真似事か?アサドに間違われたら癪だからやめてくんねえ?」
こいつは何だ。言葉から察するに、こいつらはアサドの団員なのか。
団長が男の顔を真正面から見、「何だ。」と口を開いた。
男は団長の顔に向って唾を吐きかけた。団長の顔にそれが飛び散る。
「なめた口聞いてんじゃねえよ!」男はギャハハと声を上げて笑った。
さすがに居ても立っても居られなかった。男の前に立って啖呵を切る。
「お前、黙って聞いてりゃ調子乗りやがって、なめた口聞いてるのはどっちだ」
「ああ?ガキが、しゃしゃり出てくんじゃねえよ!」
今度はこちらに殴りかかってきた。既で避けようとするが、もう一人いた仲間に体を押さえつけられる。
だめだ、殴られる。そう思ったときだった。
○ギョクハン
いつまで立ってもこぶしがおろされない。
目を開ければ、そこには殴りかかる格好をしたまま止まっている男と、その腕をつかんで立っている男が居た。
片方の目をバンダナで隠した、端正な顔つきの男だ。
長くした三つ編みを垂らし、その体は鍛え上げられ美しい肉体美をあらわにしていた。
助けてくれたのか…?
彼はこの場を諌め、こちらに振り返る。
「すまなかったな。この場はおれたちが使ってしまってる。
チケットを売りにきたのかもしれないけど、この場はこれでおさめてくれないか。」
ダグさんが「このまま帰ればあっちのサーカスの印象に上書きされてしまう。
もう一度この場でうちの力を示す必要がある。」とこちらにひそひそと伝えてくる。
もちろんそれも大事だ。でもそれよりも。随分虫がいい話だと思った。
うまく場を収めようとしているようだが、そっちはサーカスの代表である団長の顔に泥を塗ったのだ。
その程度で引き下がれるわけがないだろう。
「おれ、いやですよ。このまま帰るの。」相手の男を睨みつけたままつぶやいた。
それを聞いた相手方は何かを考える素振りを見せ、次に何かをひらめいたのか。ニカリと笑顔を見せた。
「そうだ、互いに利益のある話を思いついた。
おまえたち、サーカス団だろ。なら芸で勝負しようぜ。」
「こっちには今団長は居ねえから、団長同士は無理だ。猛獣使いもここにはいない。
道化師は勝負をどうつける?笑いの数か?現実的じゃない。
じゃあ残るは…ジャグラーだ。
誰か、この俺とジャグリングで勝負しろ。」
ごくりとつばを飲んだ。
このままでは帰れないと言った手前逃げる訳にはいかないが、嫌な予感が的中して冷や汗が出た。
だがそれを抑え、一歩前に出る。
「俺がこのサーカスのジャグラーだ。」
「へえ、お前が?」相手が目を丸くする。
「まだガキじゃん。すげえな。おれがお前の頃なんかまだ見習いだったぜ!」
馴れ馴れしく背中を叩いてくる。それを払い、正面から睨みつけた。
「御託はいい。はやく勝負しよう。」
相手はにやりと笑い、姿勢を正した。
「名乗ってなかったな。俺の名はギョクハン。サーカスアサドで一番の曲芸師だ。」
お辞儀をする。彼の所作は洗練され、見ているものの心を引き付けるなにかがあった。
周囲から小さな歓声の声が上がる。
足が震えるのを懸命にこらえ、こちらも居住まいを正す。
「ならこっちも名乗るのが礼儀だな。
おれはファジュル。スィールク・ハルワサーフルのジャグラー。同じく曲芸師だ。」
ナイフを抜き、構え、相手を見据える。
ギョクハンは今一度顔をほころばせると口を開いた。
「先行後攻、そっちが決めていいぜ。どっちからやる?」
「さっきから随分な自信みたいだからな。そっちが先にやってくれていい。」
いざとなればどさくさにまぎれてあの酒を飲めばいい。幸いにも手元に1瓶ある。
本当は明日のために取っておこうと思っていたが、フルートを渡せるなら後にたくさん手に入る。
出し惜しみはしなくていい。
「そうかよ。わかった。」
ギョクハンはクラブを手に持つと、それを天高く放り投げた。
繰り出される華麗な技の数々、器用な手先。しなやかな四肢。
彼のジャグリングは一寸のスキもない完璧なものだった。
誰もが彼の芸に見とれ、その寸分たがわぬ安定感のあるそれを見守る。
するとそこに強烈な風が吹いた。立っていられなくなるほどの風だ。
突然の強風にクラブはあおられ、ギョクハンはクラブを取り落としてしまった。
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あなたは、今の強風と、そして起きた出来事にぞっとしてしまう。
これは、自分のせいではないか?偶然にしては、出来すぎていないだろうか。
自分は今、心のどこかで、頼むからミスをしてほしいなどと願ったりしたのではないか。
自分はまた、この力を制御できなくなるのではないだろうか。
自分は、また、三年前の悲劇を繰り返すのでは。あなたは一時的に強い不安に駆られる。
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思わず胸をつかむ。
今のは、おれの、せいか…?おれが起こしてしまったのか?
「今のはなしだろ!」「イカサマじゃねえのか!」相手側から野次が飛ぶ。
いつのまにか自分たち四人は大勢に取り囲まれ、身動きの取れない状況になった。
多勢に無勢とはこのことだ。どう切り抜ける…<<旋風>>を、使うか…?
そう思ったとき。取り巻きの一部が視界から次々に消えていく。
何事かと思えば半裸の大男が邪魔者を殴り飛ばしながらこっちに走ってくるのが見えた。パスィートだ。
思いがけず早い再会に面食らっていると、パスィートは声を上げた。
「ここは任せろ!お前らはいけ!!」
違う方向からマトゥーヤもアサド団員を吹き飛ばしながら走り込んでくる。
「お前らのテントに人を向かわせたて聞いた!!!」
「だから早く帰れ!!!」
団長、ダグさん、ガゼルの三人に目配せし、うなずく。
「どうかふたりとも、無事で!」
そう声をかけおれたちはテントへと大急ぎで戻ることにした。
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何故だか嫌な予感がした。あなたの嫌な予感はよく当たるのだ。
以前もこんな風に全力で、何かから逃れるように、または何かを追い求めるようにして走ったような気がする。
無我夢中で、足がもげてしまっても構わないと思う程に。
そう、何かを思い出しかけて酷い頭痛があなたを襲った。
この出来事は思い出してはいけない。記憶に蓋をするかのような頭痛に苛まれて、思考が停止する。
鼻の奥がツンとした。
雨の匂いがする。土が少しだけ湿り気を帯びているような気がする。
頭が痛い。
――きっと、嵐が来る。
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頭を振っていらない思考を振り切る。
テントにはセナがひとりでいる。
セナ、どうか無事でいてくれ…!!
○テント
大急ぎで生活テントに飛び込む。セナの姿を探す。
いつもの様子でセナはそこにいた。急いで帰ってきたこちらの様子に首を傾げる。
「どうしたんだ?
たしかに今日はお前たちの好物を作るって話はしてたけど、そんなに急いで帰ってこなくても――」
「誰かがここに来なかったか!?」
息を整えつつセナに尋ねる。セナは不思議そうに「いや?誰も来てないよ。」と答えた。
胸をなでおろす。
よかった、ひとまず安心した。だが油断はできない。
団長と他のテントの様子を見に行き異常がないか走り回り、気休め程度に入り口にバリケードを築いた。
それでも不安だ、おれが入り口で見張りする、と申し出ると団長がそれを許してくれなかった。
おれの代わりに団長が入り口で見張ってくれた。
料理ができてもまだ人影は見えない。
セナが団長を呼びに行き、一度全員でテントで食事を摂ることになった。
ミルクたっぷりのシチュー、はちみつのお菓子など、おれたちの好物が並んでいる。
それ以外にも見たことのない料理が並んでいた。
聞けば異国の料理らしい。セナはそんなものも作れたのだ。
食事を続けていたときだった。
セナの背後から手が伸びる。
それはセナを軽々と持ち上げあっという間に四肢を拘束し、自由を奪う。
そうかと思えばどたどたと男たちがテントの中に押し入ってきた。
男たちはテントの中を歩き回り、セナが用意した料理の数々を蹴り飛ばし、踏みにじり、滅茶苦茶にする。
セナに数人の男が集る。その顔を見て下世話なセリフを吐いた。
「キレイな顔してんなあ、お前」
「おい、こいつ男か?女か?」
「確かめりゃあいい。簡単にわかる。」
男はナイフを手に取るとセナの服をビリビリと裂いていく。
セナの身体があらわになる。そこには女性の特徴である胸の膨らみがあった。
そしてその頂点にはピアスがはめ込まれているのがわかる。なにか紋章のようなものが刻まれたピアスだ。
「やめて!!」セナが抵抗の声を上げる。泣いているようにも、懇願しているようにも聞こえる声だった。
その声に興奮した男たちがもっと聞かせろとセナに距離を詰める。
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頭に熱が集められたようにぼうっとして、息がしづらい。
良くないと分かっているのに、彼等への怒りの感情に頭が支配される。
いけない、止まらなくては。抑えないと。
また繰り返してしまう――本当に?あんなやつら相手に?
あなたはなんとか耐えきることが出来た。
血がにじむほど強くこぶしを握り締めている。
しかし、冷静でいなければいけない。そうでなければ、また三年前の惨事を引き起こしてしまう。
自分で自分を律するのだ。
昔の自分と決別しなければならない。
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正直セナを救えるならどうなってもいいと思った。
だがおれに残っていた理性がそれを押し留めたようだ。
だが。
許さない。
おれの場所を、おれの仲間を、大切な家族を、こんな風にしやがって。
殺してやる。
戦闘開始。
○戦闘
持っていたナイフを投げる。それは一直線に敵の眉間へと飛んでいった。敵はのたうち、地面を転げ回る。
ナイフは全部で六本。無駄にはできない。絶対に外さない。
ガゼルは団長から武器を受け取りに走る。
団長はジャンが持っていたナイフを手に取り振りかざす。ダグさんは鞭を振るう。
敵は六人。あちらのほうが数は多い。
だがそれがどうした。
敵を確実に倒し、息の根を止めていく。投げたナイフはすべて敵の急所に刺さっていった。
体がよく動く。いつものおれとは思えないほどに。
敵は残り半分ほどになると気絶した仲間や亡骸を抱えて退散していった。
○テント、静寂
嵐は去り、静寂がテントを包む。
怪我をした団長とダグさん、そしてセナの様子を気遣う。
団長もダグさんも治療を受け、セナは団長の腰巻きを上から羽織り「大丈夫だ」と答えた。
するとセナは団長のもとにちかづき、話がある、二人で話がしたい、と口を開いた。
団長はそれを了承し、あとでテントに来るように告げる。
そしてセナをしばらく見つめたあとこう言った。
「お前だけが恥を背負うことはない。私も、自分を晒そう。」
団長が上着を脱ぐ。そしてそのシルエットが顕になった。
団長も女性だったのだ。
セナがどこか遠くを見るような表情をした。「あなたのそれとこれとは、関係ないのに。」
「いいんだ。小生がそうしたいんだ。」
「そう。」
改めてテントの中を見渡す。何もかもがぐちゃぐちゃでボロボロだ。
だが守れたものもあった。
「これ、片付けなきゃいけませんね。」
「そうだな。」と団長が息をつく。
「団長。」「なんだ。」
「おれ、団長がどんな姿でも、どんな人でも、絶対に嫌いになりません。どこまでもついていきます。
あなたは世界で一人しかいない、おれの大切な人だから。」
「そうか。ありがとう。」
ぐちゃぐちゃのテント内。とにかくこれをなんとかしないことには明日は迎えられない。
明日はついに公演当日。明日に響かないよう、はやめに終わらせてしまおう。
それに今夜は。彼との約束がある。
●家庭の不和/裏切り
これほんとにほんとにほんとにおれのことじゃないよね~~~~~~~~;;;;;;;;;
フルート盗んだことはそんなに罪ですか?罪か~~~!!!!!窃盗罪だよな~~~~!!!!!
でもいまんとこ、家庭は不和ってない。むしろ絆が深まった感じがしました(PC感)。
明日の公演で暗示の意味がわかるのか?ど~~~~~~~なんだ~~~~~~~~~~~
どっちにしろいい意味じゃないから出てきてほしくないですね!!!!!
●サーカスという場所
あらためてファジュルのサーカスや団員への愛を再確認することができました。
荒らしてきた男たちにここまで殺意マシマシとは。ダメージ全部最大値で笑っちゃったよな。
正直旋風で粉微塵にすることも全然視野に入れてたので(そういう技能なのか知らんけど)
むしろよく自分を抑えられたなと。
殺意の波動に目覚めた秘匿描写が飛んできたときPOW*3判定を要求されたんですが、
KPに秘匿で「このPOW判定失敗したーい!!」って言ってたんですよね。しかし出目がよかった。
おそらく失敗してたら何かしら大暴れする描写入ってたんじゃないでしょうか。
正直そっちのがよかった…。
自分の中にいる「なにか」が今のところちょっと風が吹いたくらいしかわかってないので、
どれくらいの脅威なのか私もファジュルもわかってないんですよね。
それを測るために力を出してみたかった。相手も傷つけても全く良心の傷まないクソ野郎だったんでね。
KPに聞いたら「味方も巻き込む」とのことだったのでそれでも躊躇をしちゃいました。
まあでも旋風使わなくてもなんとかなったのでよしとするかな。
でも敵が一旦撤退していったのが気になってて…
やつら、戻ってきたりしませんかね…
腹いせに公演をめちゃめちゃにしにきたりしませんかね?私ならそうする。
そんなことになるくらいなら旋風でもなんでも使って皆殺しにしといた方がよかったかなあ…?
今となってはわかりませんが。
●ギョクハンさん
イッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッケメン。
言動全てがイケメン。惚れてまうやろ。
PLはだいすきなんですがPCがすげえ嫌ってる。嫌ってるというか、僻みかな。
何もかも完ぺきにできて、自信に溢れてて、気さくで、性格も非の打ち所がない。
そりゃ楽しくないわな。
そのくせギョクハンさんと正々堂々勝負ができなかったことをすっごい悔しがってる。
あの風は自分で起こしたものじゃないって信じたくて信じたくて苦しんでる。
君のそういう人間臭いとこ好きよファジュル。
また会うことはありますかね?でもアサドとは公演被ってるしなあ…
もっとお話したらよかったですね。
●ガゼルくん
ギョクハンさんもなんですが、一番僻みやっかみを持ってる相手だったりする。
彼もサーカス団の一員なんで仲間だと大事に思ってることは思ってるんですが、
それと同程度には実力があり人間的魅力もあって人を笑わせられる才能を持つ彼を羨んでいる。
そのくせ助けてもらったりしたことを感謝してもいるし憎んでもいる。
嫌いになりきれないんだよなーーーーー面白くて一緒にいて楽しいし、いいやつだから。
愛憎渦巻くというやつ。あとフルート盗んだ罪悪感。
彼のお陰でめんどくせーーーーーーーー男になってしまっている!!!!!!!!!
このセッション中向けてるトータルの感情のクソデカさで言えばダントツ一位。
プラスの感情のクソデカさは団長とセナちゃんがどっこいくらいなんですけどね。
明日はいよいよ公演当日。
それより前にはファルマコとの大事な約束があります。
何もかもに勝ーーーーーーーーーーつ!!!!!!!!!打ち勝ってみせる!!!!!!!!!!!!
セッションまでに出目を洗っておこう。
次回も頑張ります!