2024/5/5発行『Take time by the forelock』
ニキ燐の同人誌の振り返りです。スペースで話していた内容はだいたいこちらに。ネタバレ前提です。
▼同人誌情報
2024/5/5発行『Take time by the forelock』
B6版2段組148P(本文144P)
本文:24文字×20行×2段 筑紫明朝 12Q
その他:Futura(ノンブル、見出し)、游ゴシック体+Neue Kabel(奥付)
▼表紙の話
今回表紙は友人にイラストをお願いしました。
映画出演という仕事を通して、ニキと燐音が自分がどんなアイドルとして未来に向かって進んでいきたいかを考える話なので、ユニット衣装+映画の台本+笑顔の二人を描いてほしいと依頼をしています。
▼組版の話
今回から本文の文字サイズおよび行数を変更しました。いままでは12.5Qを使っていたのですが、ほんの少しだけ小さいサイズに変えてみました。1Qは0.25mmなので、12Qは3mmになります。端数が出ないのでバランス調整がしやすくなるかな、というのと、単純に今回の話は文字数が増えそう(=ページ数が増えそう)ということで紙面の節約も兼ねています。ptだと8.5ptくらいのはずなので、そこまで視認性は悪くならないだろうと思いながら作りました。
本文フォントは私の同人誌ではお馴染みの筑紫明朝です。最近はもっぱらこれですね。筑紫書体は総じて止めハネにおける墨溜まり表現が好きなので、今後も本文フォントとして多用していくと思います。
その他、見出しなどのフォントについては、Futuraをベースにまとめています。表紙に使っているフォントもFuturaファミリーですね。Futuraはモダン系サンセリフ体としては真っ先に名前が上がるのでは、というくらい有名なフォントです。直線的な印象が好みのためよく使います。特に太めのイタリックが好きですね。
奥付は見出しなどがサンセリフでまとめていたので、日本語部分は游ゴシック体、英字部分は変化を出そうとNeue Kabelを使用しています。Neue Kabelの「e」がかなり可愛くて好きです。
▼全体を通して
アイドルはマルチタレントの側面がある仕事だなと思っています。実際ストーリー内でも言及されている通り、ライブ中心というある意味戦略的な夢ノ咲の文化からESにおける職業アイドルとしての文化に変遷しており、ESアイドルとして生まれた『Crazy:B』も、騒動の影響が少なくなっていくにつれてライブのみではない仕事が増えてくるだろうと考えています。
あの夏、『Crazy:B』はライブを主戦場とするアイドルとしてESに一騒動を起こしました。アイドル業界を相手取る場合、それはやはりライブという形が一番わかりやすく効果があるものだからだろうと思います。
けれど、あの夏を生きながらえて職業アイドルとしてこれからの未来を歩んでいくことになったことで、より広範な仕事にチャレンジしていくフェーズに入っていきました。『Crazy:B』の仕事はナイトクラブ、ホットリミットをはじめとするライブ中心の仕事から、アリアドネで描かれたバラエティへ、そしてシャッフル企画でHiMERU、こはくが演技仕事へと幅を広げています。
そのような背景があるなかで、おおよそES2年目の1〜2月に燐音とニキの両名に映画の出演オファーが来たところから物語はスタートします。燐音のホームボイスでドラマの主演に抜擢されたという発言がありますが、今回の作品ではこの映画が初めての演技仕事ということで進めてしまっています、ごめんなさい。
今までやっていた仕事から一歩外側に出ることで、関わる人や仕事への取り組み方などを考え、自分がどのようなアイドルになりたいか、をニキと燐音に見つけてもらいたい。そんな思いで全編を通して書かせていただきました。
燐音はこれまで「アイドルになりたい」という願いから始まり、あの夏を経て、「『Crazy:B』はどんなアイドルか」を考えてきたと思います。そして今度は「自分はどんなアイドルになりたいか」「どんな未来を進んでいきたいか」を考えてもらいました。
ニキは燐音と同様の問いに加えて「自分にとってアイドルとは何か」を考えてもらいました。
▼個別の話
■Scene #01
映画のオファーについてのシーンです。大体ES2年目の1〜2月くらいの想定でした。コズプロにとっても絶好のチャンスであるということで、茨も丁寧だし協力的です。
正当に努力した者にだけチャンスが転がってくるわけではないと思います。演技力が求められる仕事で、演技力ではない部分で評価されキャスティングされる。それは屈辱かもしれないし燐音は割とそう思うタイプかなと。ニキは反対に気にしていなさそうです。けれどそれすらつかめない人は無数にいるのを燐音はわかっているからこそ、プラスの活力へと変換できるかなと思います。
■Scene #02
アパートで読み合わせのシーンと二人の過去の関係の匂わせ回です。茨から連絡をもらった翌週くらいですね。
燐音は理論派でニキは感覚派というのは本作品に限らず二人を描くにあたって前提としています。そのため、歌やダンスに限らず、演技に対する向き合い方や自分との馴染ませ方も違うと思います。ニキはいわゆる憑依型に近いだろうなと。そんなことを思いながら書いていたら、突然恋すくとかいうものが出てきて驚きました。
この時点、ニキも燐音も相手のことを特別だという自覚もあるし、キスもセックスもできると理解はしているけれど、それが恋愛感情までは繋がっていません。ただ、ニキは台本を読んで「燐音くんキスするんだ……」とは思いました。それが嫉妬だとは気づいていないようです。
■Scene #03
過去編です。トリスタが優勝したSSの後、1月末くらいを想定しています。
ニキのバイト先がES内にあるシナモンと社員食堂ということは、ESができるタイミングで転職しているということだと思っていて、その辺りの経緯を捏造しています。実際どういう経緯で働き始めることになったんですかね。気になる。
燐音も仕事が完全になくなってそれほど時間が経っていないので、自棄にはなっておらずひたすら落ちているくらいの時期かなと。
夢破れても、お金がなくても、食べて生きていかなければならない。そんな足元がぐらついている時にお互いの体温を求めて、寄りかかってしまった。光が当たらない場所で悪いことをする気持ちよさを我慢できなかった。
この時点でもニキと燐音は互いに特別な感情を抱いていたせいで、一線を超えてしまったというイメージで書いていました。
■Scene #04
顔合わせの日の話です。時間軸はメインに戻って、ES2年目2月くらい。ここからネームドのオリジナルキャラがどんどん出てきます。
まずはヒロインの『瑞季』を演じる深野佳月さんですが、彼女は元アイドルでありながらも男性アイドル優位の環境において芽を出せず、休止期間を経た後、本名から芸名へと名前も変えて過去も隠し、俳優として登り詰めた人です。燐音は彼女のアイドル時代に会ったことがあり、顔を見て「あの時のあいつか〜」と思い出したくらいの接点です。喋ったのは今回の共演が初めてです。
NEGIちゃんの話が出てきたあたりから、女性アイドルとして生きていけなかったキャラクターを絡めてみたいと思っていたので、佳月にはその役割も背負ってもらいました。基本的にいい人ですが、アイドルに対する感情自体はかなり鬱屈としています。それについてはScene #12にて。
石渡監督は大体40代くらいのイメージで書いていました。自分で動きたがり、現場にいたがりのタイプです。原作ものの作品を担当することが多いですが、それは持ち前のコミュニケーション能力だったり、人当たりの良さなどからきているのかもしれないです。
このシーン燐音がかなり緊張していて、ニキは割といつも通りの感じです。読み合わせ自体も、ニキの方が出来は良くしっかりと掛け合いの芝居ができていました。〝人〟と一緒に演じる、という観点ではこの時点でニキの方がフラットに馴染めていたイメージです。燐音はしっかりレッスンの成果を出しつつも、どこか自分のみを中心とした芝居になっていた部分があり、佳月のものいいたげな視線はそれが原因になっています。
■Scene #05
クレビの練習シーンです。大体ES2年目3月くらい。撮影も始まり、映画の情報も世間に公開されているくらいです。まだキャスト発表のみでイメージビジュアルなどは出てません。
映画の撮影も始まったことで本格的に二人のスケジュールが埋まり、ニキはしばらくバイトを休むことになってしまいます。ニキにとってバイトはお金を稼ぐ手段としての労働でもあり、好きなことの一つでもあると思っているので、少しストレス溜まり気味ですね。でもそれを正直に言えるくらいの関係性が『Crazy:B』の中で形成されてきているかなと思います。
映画出演に対する批判的な意見は『Crazy:B』のアイドルだからというわけではなく、ただアイドルであるというだけのものなので夏のことはあまり関係ないです。よく知らないものを批判する大衆心理のようなものです。
■Scene #06
主にニキと佳月の二人での撮影シーンです。3月半ばくらい。だんだん撮影も進み、仲良くなってきているくらいの時期です。
ストーリーや感情の流れに任せて演技を組み立てていく方向で自分の演技プランを固めてきたニキにとって、シーンの順番が前後しながらの撮影はかなり難易度が高かったのが撮影を進めていくうちにわかってきました。どうするっすかねぇ、と考えつつ取り組んでいるのでいつもよりお腹は空き気味です。
佳月もニキ自身の性格や仕事の取り組み方には好感を持っているので、アドバイスなどは率直な意見をぶつけてくれています。
燐音が佳月のことを知っていたように、佳月も燐音のことを知っていました。ニキも一緒に舞台に立たなくなっていて、一人無表情で舞台袖にいた燐音のことを覚えていたために、二人の関係が気になっている感じです。美人の無表情は怖い、を地でいくタイプの男だと思っています。
■Scene #07
アパートにいるニキと燐音のシーンです。これも3月半ばくらい。回想は3月初旬の終わりくらいですかね。
撮影が進んでいくことで、自分たちの課題が浮き彫りになってきています。燐音もニキも自分にとってのストレス解消法などがうまくいかなくなっている状態でした。だからこそ、一旦寮を離れてアパートに戻る選択肢をとっていますが、それはふたりきりですごしたあの時期がなんだかんだ言っても居心地が良く、本当に戻れなくなるところまで落ちずに済んだという記憶があるからです。あなたの隣では息がしやすい。そんな風に互いに思っています。
仕事とはいえ他者とキスをするのを嫌がる自分に気づいた燐音は、ニキとであればむしろ好んで唇を合わせたいという感情を自覚しました。〝できる〟ではなく〝したい〟し〝好き〟なんだというところまで辿り着きました。ニキは「燐音くんキスできなかったんだぁ……」としか思ってないです。地味に喜んでますがそれ自体に気づけていないです。
■Scene #08
批判的な話を聞いてしまうシーンです。3月終わりから4月にかけてくらいのイメージ。撮影も中盤です。
実力のみが正当に評価される世界でないからこそ、そういう感情は出てきて然るべきだと思っています。評価軸が複数あるなかで、自分はこの部分であいつより優っていると思った時、その一点に焦点を当て批判をしたくなることもあるでしょう。別にそれ自体は悪いことではないかなと思います。
燐音もニキもいろんな意味でそういうものに晒されてきた人生だったからこそ、若干の諦念のもとで対応している部分が大きかったですが、その辺りに関してはニキの方が良心的な解釈をしそう(=自己肯定感の低さとも繋がってる)みたいな二人の捉え方の違いが見えたらいいなと思っています。
■Scene #09
主に燐音と佳月の二人での撮影シーンです。4月初旬くらい。
一番一緒の撮影シーンが多かったこともあり、かなりフランクに会話をするようにもなっています。ニキとは正反対に論理的に考察しながら演技プランを決めていく燐音のやり方は柔軟性に欠けている部分があるようにも見えますが、そこは特技アドリブが遺憾なく発揮されています。初めての仕事の中でも自分のリズムを掴んできたことで、顔合わせのときの固さもすっかりなくなりました。元のイメージとは違いつつも、『隼人』のキャラ像は燐音の持つ繊細さなどと共通する部分もある想定です。その部分を意識なく掴むのがニキだとしたら、自己分析の結果たどり着くのが燐音だと思います。そして佳月も分析型のイメージで作っているので、その共通点からやりやすさを覚えている感じでした。
■Scene #10
クレビの配信シーンです。
「4Kにも耐えうる俺っちの美肌!」というセリフが大のお気に入りです。楽しく会話をしてくれるクレビを意識して書きました。とても楽しかったです。
前々から少しずつ出ていましたが、ニキは演技仕事を経験しながら、自分はファンと関わっていくライブなどの活動をメインとしたアイドルの方が楽しい、ということに気づき始めています。それが少しずつ意識の変化として現れてきている状態です。
ちなみにタイトルの元ネタの話が出てくるのもこのシーンですね。
■Scene #11
石渡さんとの飲みからのBeehiveからのアパートのシーンです。
問題のキスシーンをどうするのかという話ですね。やれと言われてやれないとなるのが仕事としてNGであるというのは大前提ではありつつも、それが本当に目的なのか?ということを考えながら書いています。石渡さんの基本的な考え方は「原作の軸をずらすことなく良い映画を撮りたい」という部分にありました。じゃあこの作品において、キスシーンを明確に描写することが原作における軸なのか、と考えたときに別案を採用する方向に今回はなりました。
けれど、例えばキスキーンは話題になって売れるから絶対に入れたい、というような意見が出てきたときそれが正しいことになることもあると思います。今後燐音がどうしていくのか、というのは課題となって残り続けるかと思います。
仕事であるという前提を考えると、燐音自身はキスシーンを完璧に演じることが求められていることだと理解していて、けれど体がうまく動かなくなるほどに自分を支配する感情があるのだと驚きと共にニキへの想いを自覚しました。
■Scene #12
クランクアップです。4月下旬くらいです。
作中で燐音が、芝居というのは自分の本質を丸裸にされるような気分だというようなことを言っていますが、何かを演じるにしてもそれは自分という主体の上にどう載せていくか、そして相対した人とどう関わっていくかということが重要になってくるのではないかと思います。それはきっとアイドル活動にもあるとは思いますが、今回の仕事を通してよりそれを実感し、そして燐音は「おもしろい」と思えたのだと考えています。
人間は一面的な感情だけを持っているわけでないし、常にいいことだけを考えているわけではないけれど、だからこそ厚みがでるし面白い。それだけの多種多様な感情をその身に秘めて練り上げているからこそ、佳月の年に似合わない演技の圧力があり、燐音もそちら側の人間になりうる可能性を秘めていると思います。
■Scene #13
ライブです。ゴールデンウィークです。
忙しい中で準備を進めてきたライブの日がついにやってきました。燐音とニキのスケジュールが詰まっていたこともあり、『Crazy:B』としてステージに立つのは久しぶりです。やっぱりライブでイキイキしているクレビの面々が大好きだなぁと思いながら描きました。
そのなかでも今回の作品を通して、世界の広がり、選択肢にどう向き合うか、チャンスはいつもあるわけではない、などなどを踏まえて、ニキはステージに立つのが楽しいという結論を自分で出せるようになったこと、そしてそれを真っ先に燐音に伝えたことがニキにとっての成長かなと思っています。
■Scene #14
ライブ後からのアパートです。告白編。
仕事軸での動きが一旦おさまったところで恋愛軸を中心とした話になります。並行して進んではいるんですけれど、二人の気持ちとしても仕事で切羽詰まったスケジュールでは話すにも話せないという感じでしたしね。
二人にとってのキスは寂しさを埋める行為であり、傷の舐め合いでもありました。けれどそこには確かに相手を思いやる感情や特別であるという思いがあったはずなのに、ずっとそれから目を逸らしている状態でした。燐音は先に自覚しましたが、ニキはまだそれを意識のところまで持って来れていない状態です。燐音から好きだと言われて、ようやく「え?」となりました。察しがいいくせに肝心なところでは鈍感です。
けれどそれはニキの中にあった防衛機制のようなもので、失いたくないからこそ関係を変えるのが怖いから考えないし気づかないというものかなぁと思います。鈍感でいた方が生きるのが楽だったりしますからね。
■Scene #15
えっちなシーンです。ライブの翌日。
ニキの「燐音くん、やっぱり感じやすい?」は数年前の反応を踏まえた〝やっぱり〟です。燐音はその時のことをぼんやりとしか覚えてませんが、ニキは割と鮮明に覚えています。
■Scene #16
完成披露試写会です。ES3年目の冬くらいを想定しています。普通クランクアップしてから公開まで1年以上かかるっぽい(インターネット調べ)ですが、ES1年目にIFFが開催されているのできっと爆速で編集が完了する世界なのだと思われます。現実感とのバランスをとって半年後に公開になる設定にしています。
ライブはやり遂げた後即座に反応が返ってくる形体ですが、映画は実際にクランクアップしてから周りに届くまでの期間が長いものです。だからこそ昂った感情が自分の内面で消化された時期になって初めて受け取った歓声に、ただシンプルな喜びが湧いてきたのかなと思っています。
■Scene #17
未来に向けて。
『Crazy:B』に軸足を置きつつも、ニキと燐音は結局選びとる道が異なっていくかなと思います。アイドルとしての音楽活動に邁進したいと思ったニキも、演技仕事への興味が深まった燐音も、それぞれ自分で考えて選んだ道であり、それを全力で後押ししていける関係性だなと思います。それは二人だけではなく『Crazy:B』の四人として。
▼おわりに
仕事軸と恋愛軸を絡めながら二人が成長していく話が書きたい!という一心で必死に書いていました。世界と繋がりをもちながら、互いが肩を並べて過ごしていける。そんな健全な仲間でありライバルのようなものであり、特別な人である。二人の関係性はさまざまなグラデーションになっていると思っています。
これまでに書いた一連の作品の中では一番長く、執筆中も色々悩みながら書いていましたが、無事形にできてホッとしています。読んでくださった方、本当にありがとうございました!