弁護士寛×学生七の寛七
七海が生まれて間もない頃に父親を亡くし母親が女手1つで育ててくれていた。貧しいけれど愛情たっぷり育てて貰っていてとても幸せな日々を過ごしていた。中学生になってある日、学校から帰ると母親が神妙な顔で居間に座っていた。
「建人、話があるの」
そう言う母に不安を覚えながらも机を挟み母親の正面に座った。
「お母さんね、再婚しようと思ってるの。もちろん建人が嫌ならしないわ。貴方は私の何よりも大切な子だから」
私を慈しむような優しい笑顔を浮かべて私の意思を尊重すると言ってくれる母が幸せになれるならと私は頷いた。
それが間違いだと知らずに_____
母は週末には新しい父親になる人を連れてきてくれた。彼は終始笑顔で私にも気を遣ってくれるとても良い人だった。彼ならきっと母を幸せにしてくれるだろうと彼が帰った後に「良かったね」と母に言ったくらいだ。それからも彼は足繁く家に通ってくれたお陰ですぐに馴染んだ。そしてそのまま引越して新しい家族の時間が始まった。
父が来てから母は化粧をするようになった。好きな人の前だから綺麗でいたいと思うのは当たり前で、今まで私を最優先でいてくれた母が自分に目を向けてくれたことが嬉しくて仕方がなかった。けれどそれから母は少しずつ家事をしなくなっていったのだ。
「手が汚れるから掃除とか無理」
「ご飯?お金あげるから勝手に食べといて」
「洗濯物干すくらい自分でできるわよね?」
そして気付いた時には両親に置いていかれていたのだ。机の上にはほんの気持ち程度のお札。初めは「何かの間違いだ。そうだきっと新婚旅行に行ってるんだ。それを私に伝え忘れただけだ」と自分に言い聞かせて2人の帰りを待っていた。しかしいつまで経っても帰ってこない。手元のお金の底が見えてきてやっとこのままでは家を追い出され野垂れ死ぬと悟った私は私を拾ってくれる人を探し始めた。
行く場所は同性愛者が集う街。ここなら己を差し出せば寝床は確保できるだろう。そしてあわよくば食事にもありつける。過去に母を、家計を少しでも助けられるようにと調べた事がここで役に立ったのだ。
少し歩くとすぐに声をかけて来る人がいた。その人は私より大きくて少し怖い…けど羽振りが良さそうだ、この人にしよう。とその人についてホテルに入ろうとした所で後ろから誰かに腕を掴まれた。振り向くと無気力な、けれど強い意志を持った目をした男が腕を掴んでいた。
「未成年淫行は犯罪だ」
「誰だテメェ?」
「俺は弁護士だ」
「チッめんどくせぇ」
相手が弁護士だと分かると今日の相手はそのままいなくなってしまった。
「…大丈夫か?」
「…に……か」
「ん?」
「何するんですか…」
「……」
「あなたのせいで…!」
今にも泣いてしまいそうな情けない顔をしていた自覚はある。私の顔をみて弁護士の男は目を見開き「とりあえず落ち着ける場所に行くぞ」と言うとそのまま引きずるように私を連れて行った。
たどり着いた先は人がまばらなカフェ。植木に隠れた端の席に着き彼は言った。
「いいだろう、ここは夜でもやっててな。俺もよく利用させてもらってるんだ」
「……」
「珈琲でいいか?」
「……」
「安心しろ、俺の金だ」
「…ブラックで」
「大人だな」
男は店員に注文をし珈琲が来るまでに自己紹介をしてくれた。
「俺は日車寛見。先も言ったように弁護士だ。目の前で起こる犯罪を見逃すほど落ちぶれてはいないんでな、止めさせてもらった」
「___さて、本題だ。君はなぜあんなことを?」
珈琲を一口含み弁護士・日車は問うた。
「………」
「…俺は君の名前を知らない。君が何を言ったところで証拠も無いし君に罪を問うことはできない」
「……捨てられました」
「……」
一言発すると先程まで躊躇っていたのが嘘のようにするする言葉が出てくる。良くない事をしている自覚はあった。けれどこうするしか無かったのだと全て、悲しいも辛いも怖いも吐き出すように言葉を紡いでいった。その間日車は何も言わずに聞いてくれていた。
「……なのであのような事をしていました」
「…そうか、大変だったな」
そう言うと彼はふわっと私の頭を撫でた。優しくて暖かい手に涙がボロボロでてきた。さっきも本当は怖かったのだ。知らない男に抱かれるなんて怖いに決まっている。しかも私はまだ15歳だ。男同士の性行為はもちろん女性との性行為すらした事は無い。あの時腕を掴まれて、行為から逃れることができてどれほど嬉しかったか。震える身体を見ないふりして生きるためと言い聞かせ必死に動かしていたのだ。
「うっ…ヒグッ…すみません…グスッ…」
優しさに触れ緊張の糸が解けた身体は言うことを聞かなかった。
「いい、好きなだけ泣け。よく頑張ったな」
彼は私が落ち着くまでずっと頭を撫で続けてくれた。
「落ち着いたか?」
「はい…ズビッ…すみません」
「落ち着いたところで1つ提案なんだが」
「…?」
「うちに来ないか?」
「…え?」
「ああ、俺の家じゃない。うちの事務所で働かないか?仮眠室があるからしばらくそこで寝泊まりすればいい」
「ですが…」
「年齢か?事務仕事なら君の歳でもできるだろう。もちろん給料は出すし日中は学校に通ってくれて構わない」
「誰とも知らない人ですよ私は。なぜそこまでして下さるんですか…」
みたいに始まる寛七!!
この出来事から七海は日車を慕ってそれが恋に変わって、日車は七海の気持ちに気付いてるけどまだ未成年だから気付かないふりする。なんなら告白されるけどそれは弱ってる時に優しくされたから勘違いしてるだけだってバッサリ切る。
七海が無事成人したら貰い受けるのが落ちですね(はぁと)