エヴァQのテーマの「サクラ流し」聞いてるけど完全に鈴原サクラトゥルーエンドの音楽にしか聞こえない 他の誰でもない、君がいるから行ってくると 僕が助けた人が生きているのが嬉しいからと 初号機と行ってしまうシンジ そういう歌
開いたばかりの花が散るのを
「今年も早いね」と
残念そうに見ていたあなたは
とてもきれいだった
もし今の私を見れたなら
どう思うでしょう
あなたなしで生きてる私を
Everybody finds love
In the end
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海が青さを取り戻し、喪われた木々と動物と鳥たちが帰ってきた
ニアサードインパクトで死んだと思われた人々すらどこからか帰ってきて緩やかに都市は復興していく
第三村は日々寂れていくがそれでもそこに残るひとはいるし、兄も彼らがいるからとそこで暮らす
ケンスケさんも戻ってきた式波さん(まださん付けに慣れない)と二人、村の修理屋をやりながら暮らしている
他にもなにか復興組織となったヴィレの仕事をしているようだがそれは彼女の知るところではない
だが兄もケンスケさんも式波さんも、きっと誰かを待っているのだろうと彼女は思う
彼女もまた待っている一人だ
皆が待っているのに彼だけが彼岸に行ったまま帰ってこない
帰ってこない理由はわからない
最後に向けたあの寂しげな目が別れを意味するなら許せない
自分も彼も許せない
あの時撃てばよかったんだ
誰が止めても 世界が滅んでも
そうでなければ一緒に行けばよかったんだ
どっちにしたってあの人のぬくもりを感じて逝けたのだろうから
気づけば目も頬も暖かくて
それは多分自分が流す涙で
毎日脳で思ううしなわれた彼の、彼が隠した心の暖かさのような、それはきっと幻肢痛
彼という者を失ってなおこんなにも温かいものを私は流す
忘れなんてしない
許しなんてしない
いつまでだって待ち続ける
それしか彼は私に手段を残してくれなかった
恨んでいる
憎んでいる
怒っている
いっそ何もかも喪われてしまえばよかったのに
彼はけじめをつけるという言葉通り、本当にけじめをつけてしまった
そして消えてしまった
たとえ全てが戻ったとしても許されない罪を犯したのだと
自ら贖いとして捧げたかのように
どうしたら彼にあの時伝わっただろう
まだ10にもみたないあの時
確かに足は痛んだけれど
それよりも本当に怖いのは自分が喪われてしまうことで
死というものが全く想像もつかなくて
それでもそれは無慈悲に訪れるのだと思い知らされて
だからあのときは本当にないて
涙の熱だけが本当に熱くて
でも私は生き延びた
助けてくれたのは彼だった
兄づてに渡した私の手紙
彼はとても喜んでいたという
多分その時から始まって、未だにきっと終わっていない
殺してしまうべきだったんだ
いっそ死ねば伝わったろうか
貴方がくれた命だから貴方が死ぬなら貴方に返しますと
貴方が居なければ私はいなくて
だから葛城司令から貴方を委ねられたときは本当に嬉しくて
貴方が心底辛かったことを思い知らされて
貴方の過去の記録を呼んで
貴方がどれほど絶望に沈んでいたかを知って
思いはどんどん深くなって
貴方はそれでも前に向かって それでも何も得られなくて
ただ傷つきながら前に進んで でも貴方の努力に世界は答えなくて、
あの惨劇は起きてしまって、みんな喪われてしまって
だからみんな貴方のことを憎んで
私達が生きているのはあの人のおかげなのに
あの幼い少年の、あどけなく未成熟な、他人を恐れながら伸ばした指先に、
貴方には世界を救う義務があるとやがて血塗れる定めの凶器を渡した大人と私達
だから罪があるのは私達とそのときの大人たちのはずなのに
きっと貴方が取り戻した世界と命に囲まれて、皆貴方を忘れ幸せに生きている
覚えている人たちはもう本当に少なくて
葛城司令さえ帰ってきたのに なぜ貴方だけが許されないのか
なぜ世界は許さないのか
頬はこんなに熱いのに
貴方が助けた最初の時のような熱をいまだに覚えているのに
貴方に救われた命が、今もこの胸のうちで鼓動を無慈悲に刻んでいるのに
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あなたが守った街のどこかで今日も響く
健やかな産声を聞けたなら
きっと喜ぶでしょう
私たちの続きの足音
Everybody finds love
In the end
もう二度と会えないなんて信じられない
まだ何も伝えていない
まだ何も伝えていない
開いたばかりの花が散るのを
見ていた木立の遣る瀬無きかな
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──朝、誰も来ることのない墓地に訪れた。
もう誰も訪れることのない、ニア・サードインパクトで喪われ、しかし帰ってきた人々の墓。
その只中に、私は恨むように墓を立てた。
今はそれだけが彼の名残だ。
手ずから刻んだ彼の名を撫でながら、回数などたかが知れている彼との会話と彼の表情を思い出して。
きっと気づいてはいなかったろう。
貴方はきっと、恨んでいると思っていたに違いないのだから。
でも違う。
だから撃った。その弾丸は葛城司令が防いでしまったけれど。
届かなかったけれど、あの弾丸は、思えば私の本音だったのだ。
貴方を貫いて止めたかった。
その身体を抱きたかった。
この世界が終わるまで、ずっと腕に抱いていたかった。
貴方を傷つけることしかしなかったこの世界から、この世界の人々から、永遠に貴方を守りたかった。
だから、きっと、あの、届かなかった弾丸が。
限りない憎悪に近い、限りない、それはきっと、私の最初で最後の恋だった。
夕暮れが訪れる。
戻れば、兄が食事を作って待っていてくれるだろう。
きっと自分は病んでいる。
本当の医者が必要なのだと思う。
けれど今はここにいたい。
あの時代の臭いがまだ残る、この村にまだ私はいたい。
皆が彼のおかげで忘れられた悲劇の中に、私はまだ佇んでいたいのだ。
親の迎えを待つ子供のように。
でも、そんなもの、訪れはしないのだ。
おとなになってしまったのだから、手を引いてくれる人なんていない。
みんなあの恐ろしい時代を忘れたかのように生きていく
エヴァンゲリオンという存在が消滅したこの世界で
いつ何時肉体が消滅するかわからないという恐怖の時代があったことを葬り去りたいかのように
あの恐ろしい時代を齎した一人の少年の姿を忘れたいかのように
そんなことは許せない
手段があるなら
もし、手段があるのなら
いっそ世界を巻き戻して
あの恐ろしい滅びの中に──
──よしなよ。
ふと。
臭いを、嗅いだ。
あの血臭に似て違う、LCLの、無機質な臭い。
それはあまりに確かなもので。
気配はきっとあまりに確かで。
でも振り返ったら喪われてしまうようで。
私は身動き一つ取れない。
──僕は過程を知らないけれど。
けれど、サクラさんだけは僕を思っていてくれたんだろうから。
あんなに僕のために泣いてくれた人は、多分サクラさんが初めてだった。
サクラさんは、気づかなかったかもしれないけれど。
だから、あの時、僕は行けたんだと思う。
「おるんですか」
「いるよ」
──嘘だ。
喪われてしまったものは帰らない。
あれから2年。皆半年程度で帰ってきて。でも彼だけ帰らなくて。
14年に比べれば短いはずなのに、なのに本当に長い2年で、私はきっと狂ってしまって。
だからヴィレに務められなくなって、逃げるようにこの村に来て。
だから、彼がこの村に私がいることを、知るはずなんて、あるわけないのに。;
「なんで、来たんですか」
気持ちの裏腹を言葉が紡ぐ。
恨むような色が音色に交じる。
「なんでっ、って──」
その声は知った声より低く太く、少年を越え青年の響きをはらんで。
それでもとても懐かしくて。
二度と聞けないはずのその声が、僅かな戸惑いに濁って。
そして、なにかが変わっていて。
惑ってはいても、その声音は、とても柔らかで。
どんな刃でも包み込んでしまうかのように。
「きっと、待ってると思ったから」
声音と、臭いが、私を包み込む。
「待ってる、って」
「だって。あんなにも面と向かって、僕のために泣いてくれたのは、サクラさんが初めてだったから。
君がまだ幼い頃は、よく話もできなかったし、ヴンダーではろくに話もできなかったけれど。
君は本当に僕のことを思ってくれて。
あの時本気で怒ってくれていたから僕をぶったんだって、今ならわかる」
臭いと声に囚われて。
自分が抱きしめられているのだと、今になって漸く気づく。
硬いおとこのひとの腕。けれどそこには繊細だった彼らしい気遣いと、多分大人の余裕とでも言うべきものがあって。
それがたぶん、私への感情であるのだと、錯覚してしまいそうになるほどに。
「なんで、私が、待ってるって──」
「だって、あんなつらそうな顔して泣いていたから。
だから、きっと、会いたいと思ってるに違いないと思ったんだ。
──僕も、この村で。
とても大切な人を喪ったんだ。
その人は、ここで人としての生き方を覚えて、楽しさを覚えて。
これからだっていうのに、何もかも未練だといいながら、それでも、満足したみたいに。
僕の前で、いなくなってしまった。
その人には、多分もう、会えない。
僕はそのとき何も分かって無くて。喪われる痛みなんて想像もしていなくて。
居なくなることなんて考えもしなかった。
そんな痛みを、与えてしまったことが許せなかったし。
だから、帰らないほうがいいのかも知れないと思ったし、だから長く迷ってた。
けれど。サクラさん。
あんなに泣いていたから、きっと、このまま僕が戻らなかったら、痛いままで暮らしているのかもしれないって。
だから──また、会いたくなった。
多分、それが理由だと思う。
二度と会えなくなる痛みは、生きている限り避けられないけれど。
けれど、待っていてくれて、会えなくて辛い人がいると分かっているのに、会わないのは、多分、お互いに辛いから」
「──」
何かを言うべきなのに、言葉が出てこない。
そのくせ涙だけが止まらない。
顔の筋肉が言うことを聞かない。
もしも。もしも会えたのならと、いくつも何かを考えていたはずなのに、その言葉の紡ぎ方をまるで忘れて。
唇はわななくばかりで、声帯も機能しなくて。
喉も口も、言葉を知らないおさなごのような悲しみの声を鳴らすだけになってしまって。
彼の腕の力が、ほんの少しだけ強まった。
「サクラさん。
もし、良かったら。話を、聞かせてくれないかな。
僕が知らなかった14年。
もう、みんな忘れてもいいんだと思う。
けれど、僕だけは覚えていないといけない。
あの時僕が選んだ選択肢が、どれほどの命を消してしまったのか。
それだけは、僕は、きっと知らなければいけなくて。
だから、ヴィレのみんなが、僕を憎悪していただろうに、僕を守ろうとしてくれた貴女に、僕はそれを聞きたいと思う」
必死に、声を絞り出す。
「話すことなんて──ないです」
みんな帰ってきたやないですか。
あんたのおかげで、みんなかえってきたやないですか。
いやみんなかは、わからん。
多分ニアサー前に死んでもうた人は却って来とらん。
でもあんたが『殺して』もうた人は、全部──全部?
二アサーの後に生まれ、この村で僅かな間生きた「そっくりさん」の話を、いつか兄に聞いた。
その人のことを、彼は思い出しているのだろうか。
その痛みを、きっと皆が味わったからこそ、それを私の口から聞きたいというのだろうか。
「あんた──残酷や」
「ごめん。でも、ミサトさんでもアスカでもなく、サクラさんに聞きたい。
きっと君は──僕がまだ何も気づかないまま戦って、守れた最初の人だから。
だから、あんな顔をして泣いて、あんなにも必死に止めようとしてくれた気持ちは、きっと本当だろうから。
そこまで苦しめてしまった理由も。
サクラさんの──君の、涙が止まらない理由も、こんなにも熱い理由も。
全部、全部、聞いておきたい」
「シンジさん」
私の唇が、漸く、彼の名をつむぎだした。
「なんでです。あんたのまわりには、沢山。あんたを好きだった人だって。
式波さんも──」
「そうだね。でも、今はちがう」
抱きしめる腕が、強まる。
「あんなに泣きながら、それでも止まってほしいと、生きていてほしいと願われたら──好きになるしか無いじゃないか。
それとも──一目惚れは、嫌だったかな。迷惑なら──」
私は。
私の意思で。強く、彼の腕を、私の手のひらで掴んだ。
爪を立てる。肉に刺さればいいと思うほどに。
「シンジさん。あんた、卑怯です。一目惚れなんて、そんなの──」
きっと、私も一緒でした、という言葉を私は言えない。
彼の腕が解け、あんなに強く掴んだ腕もあっけなく掌から外れて、彼に腰に手を回され、身体が翻り、目と目が、合う。
2年ぶりに見た顔は、いつの間にか年をとっていて。
けれど、たしかに、彼の顔で
その顔が、本当に近くて。
「きっと、あのとき行く気になれたのは──あのとき行かなかったなら、あの時のように君を失うから。
それだけは、絶対に僕にはできなかった。
僕は君が思うより、弱いよ。そしてエゴイストだ。
一人になりたくない。それ以上に、一人にできない。
あのヴンダーの甲板で、ただ一人僕のために泣きながら待っていた君は、僕の墓の前でまだ泣いている。
あのときのまま、君が動けない理由があるとしたら、それはきっと多分、きっと僕だ」
顔が、近づく。
拒むなら、このときしか無い。
けれど、そんな理由はない。
きっともう守る理由なんて無い。皆、彼が皆を助けてくれたことを知っているから。
だからこうする理由があるとするなら、それはきっと、エゴなのだ。
分かっていて私は、自然、彼の背に手を回した。
そうする理由はない。
けれど、そうしない理由もない。
「うちも、あんたが思うのと違うと思いますよ。
かわいい女でも都合のいい女でもない、執念深い女です。
ずっとここで、あんたを憎んで、恨んで、あんたの墓睨んで生きていた女です。
それでもええですか」
ずっと、一緒におってもええですか。
ずっとひとりだったあんたを、もうずっとひとりにしたくないという、そんなエゴのために生きてええですか。
あんたを私に閉じ込めて、あんたと生きて、ええですか。
彼はわずかに微笑んで──答えはなく。
代わりにとても柔らかなものが、唇に触れる感触があった。
夕暮れはいつしか夜になって。
けれどお互いの目は見えていて。その視線がとても優しくて。
もう意味を喪った墓を背に。
お互いに目をそらさずに。
彼は私を。
私は彼を。
ずっともう、二度と離すものかというように。
お互いをお互いの腕で、固く、固く、閉じ込めた。
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どんなに怖くたって目を逸らさないよ
全ての終わりに愛があるなら