ジャンプ+の読切『ロストサマーメモリー』、ほんとすごかったので「伝われ!」という思いとともにネタバレで感想を記す。超長いよ。お前ロストサマーメモリーのことになると早口になるな!
この漫画のキモはたぶん「行き着く先まで行ってしまったいじめの描写」だと思うんです。いじめそのものの酷さではなく、いじめの加害者が辿り着く狂気の酷さ。
最も端的なのは中盤、茶髪の女の子(以下、茶髪)が、男の子に告白するシーン。考えみてほしい。人を犬扱いするというひっでえいじめをしていて、しかもそいつを散歩と称して連れ回している途中に、好きな男の子に告白するという行為。あなたできますか。普通できん。頭おかしい。
これたぶん、いじめの加害者である人間が「最後に行き着く境地」だと思うんです。人を虐げている異常な状況を当たり前のことと思い、なんでもない日常にしてしまう。いじめをしているのに、その行為の意味を自覚しなくなってしまう。地獄ですよこれは。
で、茶髪と対照的なのがもうひとりの黒髪の女の子(以下、黒髪)。
カレー食べるシーンを見て欲しい。彼女は朗らかに言います。
「ハチはお肉好きなんだから」
「ほら ハチどうぞ」
うわー殴りたいこの笑顔!
でもこれ、茶髪よりはまだ段階が下なんです。だって「ちゃんと悪意でやっている」ので。
犬扱いしている人間に対して、まるでペットに語りかけるように語りかける。笑顔を向ける。これは明確に悪意そのもので、彼女は「いじめを楽しんでいることに自覚的」なわけです。
茶髪と黒髪の「段階」の違いは、毒を盛られたクライマックスのシーンでより明確になります。
黒髪は言います。
「あれに何か入れられ…」
彼女は気付いています。
「何か入れられた」ーー毒を盛られたこと。
そして「何かを入れた」のは、ハチであること。
悪意でもって接してきた相手がついに復讐に乗り出したのだと、彼女は悟るのです。
しかし、そんな黒髪のセリフを聞き、茶髪は言います。
「何か入れられたって……?」
「誰が…」
「誰が」
ですよ。
「だ れ が ?」
ですよ!!
次々に友人たちが倒れ。食べ物に何か入れられたと言われ。そしてたったひとり元気な人間が背後にいるのに。
動機もあれば状況証拠も充分な奴がそこにいるのに。
「誰が…」なんです。
気付いてないんです。ほんとにわかってないんです。
何故ならこいつは、「人を犬扱いする」行為に対して、もはや悪意すらないから。「普通のこと」のフォルダに入れてしまっているから。
背後にいる八谷くんのことを、人間ではなく「ハチ」としか思ってないから。
そして、四つん這いの動物であった「ハチ」は立ち上がり、人間の「八谷くん」になります。蹲っている人の形をした動物どもを、やっと見下ろします(たった1コマの視点移動だけですべてを明らかにする手法はめちゃくちゃ凄いんだけどそれはそれとして)。
この時、彼はなにを思っていたのか。
「人を犬として扱う」ただこれだけのシンプルな行為だけど、それを行なっていた奴らの心は、いじめという行為のえげつなさを凝縮したような地獄です。
そしてこの作品には、その地獄がさらりと、淡々と、ともすれば気が付かないくらいのさりげなさで、だからこそ生々しく描かれています。
本当にすごい。長々と書きましたが、伝われという気持ちでいっぱいです。
『ロストサマーメモリー』何度でも読み返したくなる傑作だと思います。