「ダフニスとクロエ」を読み解いて、南中カルテットへの造詣を深めよ。
「響け!ユーフォニアム 最終楽章・後編」感想その2
例のシーンと、黒江先輩の話。4500文字。
未読の方は、いいねを押して後で読むの推奨。
このふせったーは「響け!ユーフォニアム 最終楽章・後編」のネタバレを含みます。
「最終楽章・後編」を読了後に読むことを強く推奨します。
◆ ◆
みぞせんぱいの音大の演奏会のシーンが「最終楽章・後編」に出てきます。
このシーンは、異常なほど「含みのある表現」が多用されているので、ちょっと分析してみます。
直接的な表現にしなかった理由はやはり「これが久美子先輩の物語である」ということに帰結するのかと思います。
さて。
アニメでは、南中カルテットの中学・府大会銀賞の時の自由曲は「韃靼人の踊り」でしたが、原作では「ダフニスとクロエ」です。
そして、音大進学後のみぞせんぱいの演奏会で、一曲目に演奏されたのが「ダフニスとクロエ」。
演奏会のシーンで敢えて「一曲目はダフニスとクロエ」と書いているので、やはりこの選曲にはメッセージがあると考えて然るべきです。
高校二年生の時、ダフクロのフルートの音色を聴くだけで吐きそうだったみぞせんぱいが、艱難辛苦を乗り越えて音大に進学し、華麗に吹きこなしたということでしょう。
リズと、青い鳥の別離を象徴的に示しています。
「最終楽章・後編」では、黒江先輩を含めて「リズと青い鳥」を想起させるシーンがいくつかあります。
大学の演奏会時点で、希美先輩はポニーテールをやめています。
「彼女の象徴たるポニーテールは解かれ」の一文から、髪型の変更が過去からの脱却を意味することが読み取れます。
◇
現代文の授業みたいになってきました。
ちなみにこのシーンですが、「歩き出す優子の隣に、自然と麗奈が並んだ」の部分にきちんと注目する必要があります。
「自然と」「隣に並んだ」のです。
久美子先輩がいるのに、優子先輩の! 隣に! 並んだのです。
これはもう、過激な優子×麗奈です。
隙あらば、優子×麗奈を推していきます。
◇
話を戻します。
優子先輩のバレッタには「羽ばたく鳥の形を模した銀色パーツ」が付けられています。
夏紀先輩のネクタイの「青い鳥の柄」と対照的に表現されています。
銀色はフルートを連想させますし、つまりそのバレッタは青い鳥(みぞせんぱい)と銀の鳥(希美先輩)の比喩でしょうか。
「音楽を続けてるんですか」と聞かれ、目を伏せ、髪を指先で梳いて、「照れと苦さ」をにじませた笑いを浮かべた希美先輩。
髪に触れる行為は「劇場版・リズと青い鳥」で多用されているように「不安」「緊張」などの象徴です。
みぞせんぱいのソロを聴いて、漏れる吐息に深々とした感慨と「それ以外の何か」を混じらせた希美先輩。
そこの混じった感情は「後悔」ではなかったのでしょうか。
演奏会終了後の面会直前に、優子先輩が唇を噛みながら「羽ばたく銀の鳥のバレッタ」を希美先輩に渡そうとします。
髪を解く優子先輩にも、希美先輩に髪型の変更を促す行為にも違和感があります。相当におしゃれをしている描写がありますから、髪もかなり時間をかけてセットしてきたはずです、このタイミングでバレッタを外してまで希美先輩に渡そうとしたことには、一定の意味を感じます。
バレッタを渡すという行為は「もう一度、青い鳥と共に空を飛びたいんじゃないの?」という問いかけではないでしょうか。
それを、希美先輩ははっきりと断ります。
「いいよ、私はこのままで」という一言は、諦念にも、後悔にも、自嘲にも感じられます。
◇
みぞせんぱい合流後。
「あまりにもさりげない仕草でみぞせんぱいの肩に手を置いた」のに、みぞせんぱいは希美先輩しか見ていません。
5人揃ってるのに、第一声が「希美!」ですからね。
みぞせんぱいの目が「満天の星のように喜びの光に満ちて」います。
目の表情について、シリーズ中最もキラキラした表現をされています。
そんな希美先輩とみぞせんぱいに対して、後ろで組んだ手に力を込め、何か言いたげに、言葉を飲み込んだ優子先輩。
●この時、吉川優子がなにを言おうとしたのか、類推せよ。
(宇治大学文学部・百合文学科、2019年改)
なんでしょう。
この、「もしかしてなんの問題も解決してないのでは?」感。
そのやり取りを見ていて、優子先輩の心中を完璧に察した夏紀先輩なので「アンタ、重いのよ」なんですよね。
希美先輩が復帰するときに夏紀先輩は積極的に介入しましたが、それは希美先輩が復帰を希望していたからで、基本的に本人の選択を尊重するタイプなのかなと思います。
それに対して優子先輩は、本人の望む望まないに関わらず、積極的に介入したいタイプ。でもお節介なことを分かっているので強硬手段に出れない。
ここからは完全に予測の域になりますが、優子先輩はやっぱり希美先輩にもプロを目指して欲しかったんじゃないのかなー。
優子先輩はみぞせんぱいをとても大事に思っていて、だからこそこれが最良の結果であったのか迷っている。
一応収まる所に収まったものの、もし希美先輩が過去に対して悔恨を残していて、もう一度音大を目指したいのなら、応援したいとか。
◇ ◇
いやいや。
なんですか、このシーン。
カルテット全員の感情が重すぎて、えぐいくらい感情が交差してて、頭が痛い。
私がこの場にいたら、重すぎて泣いちゃう。
麗奈先輩は、優子先輩大好きなので(隙があったので推した)優子先輩がこの演奏会終了後の面会でみぞせんぱいと希美先輩にどんな感情を抱いているのか、察してたと思うんですよね。
●この巨大感情の交錯を間近で見せられ、高坂麗奈がどう感じたのか類推せよ。
(宇治大学文学部・百合文学科、2019年改)
ただまぁ、明確に描写されていない比喩の表現や、飲み込んだ言葉、わずかな機微には「なにかのメッセージがある」ことを読み取れても、どんなメッセージであるかを断定するのは困難です。
この解釈は、いくらでも広がるので、正解は綾乃さんの頭の中にだけあります。
が、正解を求めるのではなく、自分なりに想像したり、色んな人の解釈を見たりするのが楽しいのかなーって思います。
◆ ◆
ちょっと未来の話を考えます。
そもそも吹奏楽曲の「ダフニスとクロエ」は、ギリシャ神話の逸話を元にロンゴスが書いた話に、ラヴェルが曲をつけたバレエ音楽の、第二組曲を抜粋して吹奏楽編曲したものです。
恋を知らなかった少女・クロエが、ダフニスと出会って恋を知るというストーリー。
つまり、クロエがみぞせんぱいであり、ダフニス(希美先輩)と出会って恋を知ったと示唆しているわけです。
◇ ◇
1分で分かる「ダフニスとクロエ」
山羊飼いのダフニスと、少女クロエの物語。
幼馴染のふたり。
クロエは水浴びをしているダフニスの裸を見て、なんだかどきどきしてしまいます。
でも恋を知らないクロエは、それを「病気だ」と思ってしまいます。
ダフニスもクロエに恋するのですが、見当違いのことを繰り返すばかり。
見かねた老人が二人に恋の話を聞かせ、恋の病に効く「3つの薬」を授けます。
1つ目は「キスすること」
2つ目は「抱き合うこと」(この部分が、大好きのハグを示唆してるかも?)
3つ目は「裸になって抱き合うこと」
2つ目まではいい感じでできて、いちゃいちゃしてた二人。
そんな中、ダフニスが誘拐されてしまい(中略)無事に帰ってきます。
再開を喜んだ二人は、互いを愛し続けることを誓います。
3つ目の「裸になって抱き合う」を実行した二人。
しばらく裸で横になったあと、男を見せようとしたダフニスが、クロエを押し倒したまではいいのですが、どうしていいか分からなくて泣いちゃいます。
押し倒した側が。押し倒したくせに。泣きます。ピュアか。
そのあと、綺麗なお姉さんみたいな人妻が出てきてダフニスが大人になったり、美しくなったクロエに求婚が沢山舞いこんだり、ダフニス(男)が領主の息子(もちろん男)に迫られたりするのですが、最後に二人は結ばれます。
結婚式の夜に、二人が結ばれて終わり。
◇ ◇
これが、ダフクロの簡単なストーリーです。
もし、みぞせんぱいと希美先輩が、まんまダフニスとクロエに準えられているのだとしたら、今のところ「互いを愛し続けることを誓う」ところまで進んでることになりますかね。
このあと、みぞせんぱいを押し倒した希美先輩が、どうしていいか分からなくて泣いちゃった上に、年上の男性と流れで大人になって、同性に迫られたりするけど、最後はみぞせんぱいと添い遂げることになります。
あかん。
もう3巻分のストーリーできちゃう。
綾乃さんは未来に含みを持たせたうえに、何も語らずに終わらせますよね。
梨子先輩が東京へ旅立つ後藤先輩を見送る短篇のタイトルが、「木綿のハンカチ」だったり。
※タイトルのモデルになってる太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」は、上京した青年が、故郷に残してきた恋人のことを忘れ、最後は別れを示唆するような歌詞の曲です。
油断なりません!!
◆ ◆
さてもさても。
黒江真由先輩の名前の由来は「ダフニスとクロエ」です。
最終楽章・後編の特典ペーパーで綾乃さんがそう書いています。
ここにもなにか、メッセージがあるはず。
めっちゃくちゃ考えて、調べたんですけど……なんの結論も得られませんでした。
何の成果も!!得られませんでした!!(進撃の巨人1話より)
(実はこの部分に、進撃の巨人はマブラヴオルタを元にしてるので、キース・ハーディスは神宮寺まりもっていう話を延々と書いたのですが、あまりにも関係なさすぎるので消しました)
話を戻します。
後編発売前、ダフニスに該当する人物が誰か存在して、黒江先輩が変わるのだと思っていました。
でも、誰もダフニスに当たる人物がいません。
というか、黒江先輩が変わったという明確な描写がありません。
久美子先輩視点なので、観測の範囲外にあるだけなのかもしれませんが。
それとももしかして……まだ続き(サイドストーリー)がある可能性があります。
だとすれば、ダフニスに該当する人物は、
・演説までして黒江先輩を変えようとした久美子先輩
・仲がいい描写が数度出てくるし意味深な態度を取っている釜屋つばめ先輩
のどちらかでしょうか。
久美子先輩のあの演説を聞いて、音楽というものに対する考え方が変わった、とかだったらダフクロに準えるという意味として成立はしている気がします。
到底変わるようなタマとは思えないのですが!
めちゃくちゃ調べて考えたオチが、綾乃さんがなんとなくノリでダフクロから取っただけ、とかだったらもう逆に面白いですよね。
黒江先輩と「ダフニスとクロエ」については、それっぽい結論が見つからなさすぎて考察が楽しくないので、綾乃さんに答えを聞きたい感じがします。