前知識ほぼなし、世界観共有しているらしいドラマも未見、という状態で、今更ながらラストマイルを観てきました。心がぐちゃぐちゃにされてしまった。宿題を渡されてしまったぜ…という雑文です。ネタバレ全開、ご注意を!
こんなに苦しくて辛い「死者一名」があるかよ……。
画としての違和感(なんか最初に破裂してその後更に爆発したけど、爆発ってこんな挙動するっけ?)&その後の爆発事件の違和感(どれもあんなに燃えてない上に死者が出てないぞ?)との理由が分かった時の納得感、伏線の美しさを、瞬時に塗り潰していく虚脱感と絶望ったらないぜ…。
解剖医(アンナチュラルの人)の「そんな根性、ないほうがいいよ」が極まっててな…。
でも、筧さん、会社は契約結んじゃってるから詰められない上に濡れ衣着せられて、山﨑さんの父親は会社側の言い分を呑んでしまい、弁護士さんも契約があるから無理、思い詰めて本社まで行っても対応してくれたエレナさんには響いていない、となると、袋小路だと思っちゃうよな…真面目に真っ当に頑張った人の行き着く先が最初の爆発(あるいは植物人間)、そりゃあないよ…。
という気持ちと同時に、やったことは無差別テロなのがもう。
死者一名(自分)といっても重軽傷者は出てるんだぞ!? なんなら怪我してなくても重篤なPTSD発症した人だっているだろう状況だぞ!? というか、他の爆発で死者が出ていないのだって幸運の産物でしかなくて、12番目の爆発がナナミちゃんの間近だったら最悪の可能性だってあるんだぞ!? どんなに切実な理由があっても、あればこそ、手段の是非を誤っちゃ駄目だろうよ…!! の気持ちもあり。
なんなら我が家には猫がおり、宅配便開けるときに近づいて眺めてもいるので、我が家で同じことが起きたらなと思うと、事情を教えてもらったとしても犯人憎しの感情は消せないだろうという確信もあり。
そして、何よりも肝心なこととして、私は山崎さんがとんだ要因のシステムの利用者である、より厳しく言うなら潰した加担者である、ってのも事実なわけで。早くて安くて便利なサービスを好んで使う選択をしている時点でな…。
筧さんの「世界は贖ってくれるのか」が身につまされるどころの話ではない。耳に痛いし心も痛い。ごめんなさいしか言えん。
改善案としては、人もセンターももっと遊びを許して、役割を複数人にして、冗長性を徹底的に維持すれば、あそこまで個人へ負担が行くことは避けられないか…と思うが、そんなお金がどこに? と問われるとなんも言えない。ひとつのセンターの話ではなく、全世界で稼働しているセンターを対象にしないと意味がないし、その規模になってしまうと例え役員陣が私財を投じたとしても賄えるかは怪しい話だろうし、賄えたとしても短期でしか無理で持続性がないだろうし。
かといって、価格を上げて対応しようとしたら、サービス利用者が減って他社との競争に負け、従業員を切らざるを得ない。真っ先に手を入れるのは、おそらく、ブルーカードと呼ばれていた派遣の人たち。
はーーーーーーままならねえなあ!!!!!!
全部資本主義が悪いと叫びたくなるが、かといって、じゃあお前全部キッチリがっちり決められた世界で生きたいかと言われると無理なので、頭を抱える。ベーシックインカムで富の再分配を徹底せよって話になるのかな…。
あと、利用者側としては再配達にならないよう、置き配や宅配BOXの徹底とか…? システムも絡んだ話になるが、当日/翌日便の逆の発想で、ゆっくりでいいよ便的なものを作ってみるとか…?
通販使うときも、常時「本当に切実に今すぐほしい!!!!」ってわけではなく、一週間くらいで来てくれたら嬉しいなとか、二週間までは全然待てるなとか、そういう状況もあるので、そこも反映できるシステムにならないだろうか…。うーん逆にそこで仕分けが発生するから、面倒になるだけか…?
いや何の話? って言われたらすみませんしか言えないのですが、加担しているなら現状改善案くらいは…まあ机上の空論なんですけども…はい……。
病気で買い出しをする体力もない時とかに、頼んだものをすぐに届けてくれるありがたさは本当に身に沁みていますし、ただただ感謝しかないんですけども。
かといって、物流に携わる人々に心身の限界まで無理をしてほしいかと言われると、そんなことはない。むしろ利用者目線でも、無理して担い手が減ってサービスを維持できなくなる方がはるかに困るので、どうか心身が健康で健全な状態で働けるようシステムの改善を…どうにかなってくれませんか…とりあえず休憩は一時間まるまるキッチリとってほしい…。
という具合で、まあ、心も頭もぐちゃぐちゃである。
物語としては文句なしに面白かったし、演出も演技も素晴らしかったし、言ってしまえば安全圏から楽しく苦しんでいるだけなので、制作陣には感謝しかないです。はい。
とはいえ、物語の内容や登場人物へ言及したい部分も山ほどあるので、以下箇条書き!!!!
・主な舞台であるデイリーファースト工場の、雑多に見えるけど効率が極まっている、寒々しくシステマティックな機能美は正直、ワクワクした。最後のほうはもう吸いこまれそうでくらくらしたけど。心って不思議。
・着任すぐに「お前んとこの荷物が爆発して人死にが発生したぞ!!」言われてあの対応ができるエレナさん、胆力の塊すぎてこの時点で好きになってしまう。
・全体的に言えることだが、ミスリードが巧いし伏線も巧いし群像劇も巧い! お話が巧い!!
最初は「清濁併せのめるできるリーダーだ…すげぇ…敵に回したくねえ…!」だったのが、展開が進むにつれ「エレナさん…? あなた一体…?」になり、梨本さん問い詰めからのまさかの爆弾押さえながら立ち位置判明、エレナさん自身も筧さんに手を伸ばせなかった当事者だった、の流れが美しすぎる。
・爆弾処理成功後の、エレナさんと梨本さんがそろって笑いが止まらなくなってるの、とてもよくわかる。
そして見ている側も、初手爆発からずっと引っ張っていた緊張がようやくほぐれたので、お話自体の緩急のつけ方が本当に巧い。
爆弾処理を経て、エレナさんと梨本さんが心底から仲間になるだけでなく、西武蔵野のセンターと警察との連携が滑らかになっていく印象を受けたのも、なんかすごく納得できてしまった。そりゃ仲良くなるよな…。
地味に梨本さんが初めて「エレナさん」って呼んだのも良かった。
・エレナさんと山崎さん、光と影というか、休職の選択をできなかったエレナさんの行く先が山崎さんなのだろうなと感じてしまい、なんとも苦々しい気持ちになる。だからすぐに「落下防止ネット」に言及できたのだろうし、その上で、四年前の自分は筧さんに手を伸ばせなかったと気づくエレナさんの心情たるやな…。
エンドクレジットにもあったが、悩みや不安や心配事は、ひとりで抱えこんだら碌なことにならんと徹底しなければ…信じられなくても、怖くても、「当然の権利ですが????」って顔をして周囲へヘルプを求める必要がある…心身ともに弱っている人に、それを求めるのは本当に酷な話なんだけど、本人及び周囲が言ってくれなきゃ何もできないんだよな…。
・つーか落下防止ネットくらいは整備しろよ人の命に関わるんだぞと言いたくなるが、もしやアレか「落下事故など起きていないのでネットも不要」って案件なのかこれ。デイリーファーストに対して罵詈雑言叫びたくなるぞ。人ひとりでは止められない、ベルトコンベアさあ。
・五十嵐さんも、それから本社のサラさんだったかも、悪人というのではなく、真面目な(そしてきっと優秀な)組織人なんだろうな、とも思えてしまう。
レイヤーが違うとでも言えばいいかな。「人の心身が絡んでんだぞ!」って原理原則のレイヤーと、「ベルトコンベアを止めて巨大な額の損害が出た場合、自分の評価および会社に関わっているすべての人員に悪影響が及ぶ」って市場経済のレイヤーがあると。本来ならば人命最優先がベース、市場経済には必要に応じて適応すればOKだったのが、だんだんと市場経済のレイヤーでしか物事を考え、判断できなくなってしまった結果が、あの人たち(あるいは序盤のエレナさん)なんだろうなと。
マジックワードに囚われてしまった人たちよな…でもあなたたちくらいの立場ある人が動かないと、もう、どうにもできない現状に見えるよ…。
・爆弾を作った人、ただただ疲れきった様子がもう、頭を掻きむしりたくなる。
借金の返済と、ご母堂のお葬式ですべてが消えたか。そうか……。
・謎解きとしての面白さと、問題発生時にどう対応するかの面白さ、無理に無理を重ねた現場が協力し、正当な権利として「ふざっけんな働かんわ!!!!」を訴える(表現が正しいかわからんが)陽の怒りなど、間違いなく面白いのに、ずっと頭の中に「どうしてこんなことに…」の意識があるの、すごい映画体験である。
・アンナチュラルやMIU404、未見の状態でラストマイルだったので、本当に初見の人たちなのですが。
それでもちゃんと「こんな感じの人なんだな~」がわかる演技・台詞回しと、それぞれの立場から説得力のある関わり方をしていて、群像劇に厚みを増しているのが本当にすごい。ドラマの方もそのうち観たいなあ。
・社長に啖呵切っちゃって、自棄になって「伝言の手間が省けました!!」までぶちまける八木さん、お労しいけどすごく良かった。し、それへの回答が「部長以上の役員みんなで応援に行くぜ!」なの、真っ当な会社で本当に良かった。
・ドライバーの息子さん、親父さんに対してああだこうだ言いながらも、荷物に人が押し出されそうになってるところで駆けつけたり、爆発物だってほぼ確信してるのにとにかく走って回収したり、根が良い人なんだなと…。まさか洗濯機が伏線になるとは。いいお仕事されましたね、本当に。
・ドライバーの親子と、ナナミちゃんとこの親子、どちらも見ていてハラハラするどころの話ではない限界家族だったのですが。表現がひどくて本当に申し訳ないんだが。
だからこそ、最後、12番目の爆発が何とか間に合ってくれたのが本当に…物流の光の面が救ってくれたのが本当に…良かったなと…。ラストマイルの担い手と受け取り手が、笑顔で荷物を交わせることの重さよ。
総じて、間違いなく素晴らしい映画体験でしたね! パンフレットも買っちゃった!
パンフレットは未読なのでこの後読みますが、余韻に浸れると良いな! ……まさかパンフレットで追加で刺してくることはないよねと思いたいのですが、なんとなく、この制作陣は細かいところまで色々と仕込んでくれそうな気がするので心して読みます。