個人的吉原まとめ。吉原の遊女の寿命平均22~23歳が本当か嘘かはあんまり問題じゃないんだけどな…ということで吉原以外の江戸事情がほとんど。大体江戸後期、文化文政の事情です。参考文献書きたいところなんだけどド忘れした、特に座産…
・前提:吉原は「公娼」である
吉原は江戸幕府公認で売上のキックバックが発生する公共施設です。
江戸は近隣の非モテ男が勝手に集まってくるものの、女は地元で結婚して勝手に集まってこないので女衒が各地を回って不幸な女子を吉原に集めることになります。
なお、江戸時代の「女衒」とはほとんど人さらいで暴力で遊女を躾けるのも仕事なので、令和の悪口の女衒とは大分違います。
・江戸時代の非モテとは何か?
江戸時代で非モテとは即ち、「継ぐ田畑がない次男以下の農民」です。
継ぐ田畑のある長男は親戚が嫁を持たせてくれます。
本人の顔面や気立てのよさ、働き者かどうかなどはあんまり関係ありません。
「次男以下」は財産がないから嫁の来手がないので、現代のインセルとは大分違います。
結婚もできないのに長男の手伝いばっかりさせられるのが嫌で江戸に出てきた方がマシ、というケースが圧倒的多数です。
江戸時代の関所は男に緩く、江戸には特に教養やスキルがなくてもできる肉体労働職がたくさんあるので、ある種のアメリカンドリームで男たちは港の荷下ろしや駕籠舁き、物売りなどになります。
怪我や病気で体力勝負の仕事ができなくなったらそのまま死にます。
「次男以下」は武家もやることがないのでここから武家を廃業して商売をやるケースもありますが、武家のプライドがあるのでニートやってた方がマシだったり、親戚とモメてどつき合いが発生したりします。閑話休題。
・江戸の大店の商家では「丁稚」から始めて「番頭」になって暖簾分けするまで結婚できない、40代初婚が当たり前、こんな理由で非モテを持て余している人もいてその辺の長屋の物売りの方が口約束でさっさと結婚していたりして、現代インセルとは本当に違います。
・なら農村で嫁に行けない女はどうしているのか?
嫁がよく出産で死ぬので後妻や妾に入り、「財産のある男」のもとに集まり、余ることはほぼありません。
江戸時代の出産は俵にもたれて座ったまま産む座産で、出産後7日間はまともに横になって寝てはいけないという医学的根拠不明の謎の掟があります。本当です。
タイトルど忘れしましたが複数の本に書いてあります。
江戸時代に完璧な避妊法、そして安全な中絶法はないので常に女はスケベで死ぬ可能性があります。
これは農村でも吉原でも一緒です。
・何か江戸の農村がずっと天明の大飢饉だと思ってる人がいますが、江戸の殿様はちょっと不祥事があるとすぐに御家お取り潰しになってよその殿様の家で余ってる「次男三男」が代わりに来るシステムだから「年貢を取り過ぎる悪代官」は時代劇の悪役、創作です。
実際にはそこそこの余裕があります。
余裕がないと田畑を継ぐ長男とその嫁が育ちません。
農村から「人がいなくなりすぎる」と年貢を取る江戸幕府が困るので、農家の長男にはそれなりに稼がせてやらねばなりません。
・ていうか粉ミルクや離乳食がないので実母以外が乳幼児を育てるのは現実的にほとんど不可能で、女衒は自分で健康管理できる6~10代後半の少女を買うということになり、
「あそこの家の娘がそろそろ売り頃」
と謎のネットワークで聞きつけて江戸から東北に自動的にやって来たりしないので、
「育てたら女衒に高く売れる」
と産んだ瞬間に判断して6年も15年も育てるのは長期的にマイナスっていうか子育てどころかペットも飼ったことないやつの発想やろ。
「そろそろ年頃だけど女衒来ないかな」とか言って2年も3年も待ってる親というのは普通に毒親でカネモチとか貧乏とかいう問題ではないです。
6年も15年も育てりゃそれなりに働いて金を稼ぐようになるのは男も一緒です。
女はルッキズムで値段が決まるが男は「力仕事ができるかどうか」で決まるだけです。
0~5歳時点の男女差など農村では些事です。
この辺で事故ってよく死ぬし。
つまり女衒が買うのは「親に死なれて嫁の行き手がなくなった、親が急な借金を作ったなどのタイミングが悪い女子」です。
長期的な借金があったら子供を作っている余裕などありません。
産んだ端から男も女も関係なく崖の下に捨てるとかになります。
そもそも何日も歩かなきゃたどり着けない遠くの寒村よりも、江戸市中で急に火事で無一文になったり親の博打で借金が発生した娘の方が買い取り査定しやすいです。
・江戸はこういう事情で男の方が多いので「効率よく少ない女を多い男にあてがう」のが性産業です。
吉原以外にも「岡場所」「水茶屋」「矢場女」「湯女」「飯盛り女」「綿摘み」いろいろいます。
基本的に江戸で女が労働するとセクハラオプションがついてくるもので、「水茶屋」はフツーにお茶屋なのだがカワイイ看板娘がいると話題になって人が集まります。
そうなると茶屋でなくても煙草屋でも何でもカワイイ看板娘を置くようになります。
「矢場」はおもちゃの矢を射つ遊技場で一見、健全な娯楽ですがやけにカワイイ女性従業員がいることがあります。
店主の裁量で、客が金を出せばその女の子とエッチできることがあります。
そういうのがアリかナシかは聞いてみるまでわかりません。
岡場所も表向きは「茶屋」と看板を出すものだったようです。
・政府公認の公娼は吉原だけなので、江戸幕府は吉原に客を集めたい。
ということで花魁道中など「ここでしか見られないエンターテイメント」が発達します。
花魁は大大名などのお殿様の相手もし、源氏物語などの古典の教養があります。お話するだけで数十両。岡場所ではこうはいきません。
↑↑現代人が憧れるのはこの部分↑↑
・江戸幕府は吉原で遊んでもらいたい、吉原は常に人手不足、この両方を解決するために市中の違法売春を大々的に摘発します。
岡場所とかいつもそこで経営してるのは知ってるけど「そろそろ行こうか」という気分になったときに摘発します。
江戸市中の違法売春は数年に一度ローラーして厳しく取り締まられています。
逆に「飯盛り女」というのは街道の宿場町に出現する宿屋の従業員兼娼婦で、単に江戸から遠くて吉原と競合しないからあんまり捕まりません。
・しかし違法売春側も
「これは家内制手工業のために女を集めているだけでワイセツは一切ない!」
という見え透いた言いわけをします。
これが「綿摘み」です。
木綿の綿花はある程度ほぐして叩いてからでないと糸や布団綿に加工できない、そのほぐして叩く作業に従事する女子……が、なぜか売春婦を兼ねていることがあるのです。
この見え透いた言いわけを突破するのが、江戸幕府がたびたび発布する謎のお触れ。
「若い女が集まって習いごとをしてはいけない」
「色っぽい常磐津の師匠(三味線や長唄を教える)禁止令」
「茶汲み女は13歳以下40歳以上」
これらのたわごとは一斉摘発のために発布されて、摘発が終わった後に速攻で忘れられ、また摘発するときに似たようなのが新しく出るので「三日法度」と庶民にナメられていました。
・摘発された違法売春婦は吉原の最下層「奴女郎」になります。
お値段格安で経営者の懐が安心。
刑期2年。
うっかり「三日法度」に引っかかった特に売春婦ではない素人さんもここに来て強引に吉原の奴女郎にされて嫁に行けない身体にされるということはありえます。
結果、江戸では「嫁入り前の娘は家の奥に籠もってじっとして、ちゃんとした家柄ある師匠と舞いやお琴やお花の稽古をしてろ」ということになります。
・吉原は身請けされなければ26~7歳が定年です。
「年季が明ける」状態ですが、年季が明けて喜ぶのは客や間夫の嫁に行く約束をしている人、経営手腕を評価されて「遣り手婆」になる人で、どっちでもない人は故郷に帰っても特にいいことがあるわけではないので大半が岡場所などの違法売春に流れます。
故郷が遠い場合、歩いて帰るだけで死ぬ可能性があり、江戸市中から売られてきた人は家族とギクシャクしているので。
カタギ仕事についたとして元々江戸のカタギ仕事にはセクハラオプションがついていて、そこに「元吉原遊女」の経歴があれば何が起きるかというと。
岡場所が摘発を受けてまた奴女郎になって戻ってきて、加齢の分、現役の頃より格下の仕事を格安でやる羽目になります。
「嫁に行く」か「妾になる」か「他の女を売る側に回る」しか完全な足抜けはありません。
・そしていつまでも嫁に行けず妾にもなれず店でバリバリやれずに30代後半を迎えると、江戸の恐ろしいエイジズムで「年増」「大年増」「猫股」と指さされ、江戸の最下層「夜鷹」になります。
夜鷹は売春婦兼ホームレスで自分で持っている茣蓙を敷いて路上で客を取り、「女はホームレスにならない」という現代的偏見が全く通用しない江戸の暗部です。
時代劇では名前だけ出てきてもそれが何者なのか詳しく説明したくないということになります。
若い頃でさえ嫁に行くゴールに到達できなかった人が歳を重ねてもノーフューチャーです。
ここには何のセーフティーもありません。
夜鳴き蕎麦より安く買える夜鷹もいたということです。
男でこの年齢は身体が動くかどうかです。
若い頃と何も変わってないといえばそうです。
吉原の奴女郎すらもう務まらないと見なされるとわざわざ逮捕されることもないので、死ぬまで路上をさすらいます。
何が起きても誰も気にしない。
凍死してても「うわっすげえバケモンみたいな夜鷹が死んでる」で行き倒れとして処理されて終わりです。
なお、吉原から嫁に行ったり妾になったりした場合、
「淫売だったてめえを誰が助けてやったと思ってんだ!」
というセクハラモラハラDVがコンボする可能性がありますが、離縁しても岡場所・夜鷹ルートに入るだけなのでここも修羅道です。
いかがでしたか!
参考になりましたか!
これでも吉原は江戸のセーフティネットだと思いますか!?
なお、この話には「江戸の病人の7割が梅毒患者、治療法はない」というのを書くスペースがありませんでした!
(骨梅毒は墓の骨を調べたらわかるのでこっちは参考文献の名前が出るんだが)