映画違国日記、初日に見ました すみません辛めの感想です
長い原作からエピソードを選んで詰め込んだので、原作にない追加されたセリフが説明的だったり話の展開のために若干不自然なセリフがあるなと感じたのが第一印象 でも作品の根幹には関わらないのでそれは後述する改変に比べればわりと些細なところです
漫画ではどうしても表現しきれない、朝の歌声や槙生の家の物だらけで雑然とした感じ、両親が亡くなって朝も槙生の家に引き取られたので誰もいなくなった薄暗い部屋を片付けるため、ふたりがカーテンを開けた光の美しさなんかはとても良かったです どのシーンも画面が美しかった
あと外見のイメージは似ないものの確かに槙生として存在していた新垣さん、笠町くんだった瀬戸さん、あれは明らかに演技力によるもので俳優さんはすごいな…と思いました
槙生と笠町くんが中華食ってからの帰路の公園でのエピソードも、既存の「男女の恋愛」から自由になった関係と女の性欲を肯定するエポックな話なのにその意味合いがなくなっていて、どういう意図で消されたのかが不思議だったな… 実里さんの自分の内なる空虚との戦いも好きなところなので、たしかにわかりやすくはない感情表現だけどなくなったのは残念 でもまあそこらへんは…私の好みもあるし原作からどこをピックアップするかは尺の都合もあったろうと思う
しかし何よりも決定的に作品の価値を損なっていると感じたのが、朝のクラスメイトで医大志望の千世が医大受験で女性が不正に減点されていた事件を知って激昂し、その後時間をかけて少しずつその傷から立ち上がってゆく心の動きが、原作よりかなりライトな表現に改変されていたところ 原作では大学名は出さないものの明らかに東京医大の不正受験について描かれていて、そのエピソードが実際の事件の発覚からそれほど間をおかず発表されたこと、これまでの作品のテイストから外れるほど明確な怒りの表現(「こんなの人間扱いされてないってことじゃん なんで誰も今まで正してこなかったの 絶対に許せない」)がなされていたことに作者の強い意思を感じたし、あの時一緒に怒ってくれた人がいたことに救われた人は多かったと思う 映画では不正受験の件ですらなく、特別参加授業?(すみません失念…)から性別を理由に外され傷ついた千世が屋上で叫ぶという流れになっていたのですが、なぜか槙生が犬の鳴き声を真似るという無関係な原作のシーンと混ぜられていて、相当に怒り傷ついているはずの彼女が返ってきた犬の声で笑顔になるという訳のわからないシーンになっていて、脱力した… その後のライブシーンも、朝は彼女の怒りの詳細までは理解できないものの自分の行動が何かを変えうるのではと信じて歌ったんじゃなかったの?皆笑顔で随分かわいらしいライブシーンになってたじゃん… 槙生はその話を聞いて「わたしたち全員の問題」だからほぼ知らない朝の友達のために泣きそうになってしまったんじゃなかったの?
原作に救われた人達、それこそ「殺すつもりで」描いた怒りを矮小化された作者はこれを見てどんな気持ちになるんだろうと想像しただけでもかなり落ち込んだ 私は好きな作品が実写化する際はあまり評価が良くない作品ですら好意的に楽しんで周りにちょっと引かれるくらいなんですが、作品の根幹のメッセージ、おそらく作者が大事に描いたであろう価値観を損なうメディア化には失望します 良かったところも十分にある映画でした でもあの改変はあまりに決定的だったな…