【HAPPY-!NG】を通して市川雛菜について考えたこと
初出:2020年6月23日Privatterに投稿
◆はじめに
この文章は、市川雛菜のpSSR【HAPPY-!NG】を読んだ感想と読解の文章です。TRUEまで含めて5つのコミュそれぞれに対して、感想と考えたことを書いています。また、それぞれのコミュの内容をもとにコミュタイトルがそれぞれ何を示しているのかも考えており、最後にそこからこのカードタイトル自体の意味についても考えます。
TRUEコミュ「CherryPick!NG」の読解を最後に追記しました(2020/6/23)。
◆「END!NG」
雛菜はオーディションが終わるとき「終わっちゃった~」と言うし、WING決勝まで行くと終わってしまうのを名残惜しそうにする。「楽しくてしあわせ~」がいつまでもずっと続くことを願っているかのような。このコミュの中でも「ずっと楽しくしあわせにいれればそれでいいんだけどね~」と言っている。
このコミュは、進路調査票という小道具で高校生活の終わり(とその先)を考えるコミュになっている。私もそんなものを書いて提出したような記憶がある。けれど雛菜が言うとおり高校1年生でこれから高校生活が始まるというのにすでにその終わり(とその先)のことを考えなければならないというのはなんだか確かに変なことかもしれない。
◇今と未来の対比
私自身も昔から不思議な感じがしていたのだが、未来に良い結果を得るために今現在やりたいことを我慢して勉学や練習などに時間を費やすというのは、何かちょっと変な感じがする。確かに今努力すれば未来に良い結果を得ることができ、それはそれで嬉しいことかもしれない。が、それは今現在は大変な思いをするわけで今楽しくなれないということであるし、もし良い結果が得られた未来のその時点においてもさらにその先の未来のためにその時点で頑張らなければならないのだとすれば、永久に「今楽しい」は得られないことになる。未来のために今現在という時間を捧げ続け、「今楽しい」が永久に得られないならば、いったい何のために今頑張らなければならないのか? 雛菜っぽくなってきた。……違うかな。
雛菜は「今」という時間に対して独特な態度を見せていると思う。特にWING優勝後のコミュとか。「今ここにいる雛菜が一番しあわせなのがいい」と言ったりする。未来のために今を捧げ続けて結局「今楽しい」はいつ得られるのか、という問いは私自身のものでもあるけれど、これは普遍性があると思う。それに雛菜の考えにも通じてるんじゃないかなという気がちょっとしている。雛菜自身に、今現在を楽しくしあわせにするという視線を感じるからだ。刹那的? 刹那主義? ひょっとするとそうなのかもしれない。いまはまだ、そうかもしれないというところで留めておく。
プロデューサーは言ってないけれど、たとえ高校時代が終わっても楽しいは続いていくよということを、私自身は雛菜に伝えたいと思った。
◇タイトルについて――INGとNG
ところでこのコミュタイトルは、カードタイトルと共通して「!NG」となっている。動詞の進行形を示す「ING」と「NG」を引っかけた巧妙なタイトルで、「ING」と取ればENDING(終わること)、「NG」と取ればENDはNGであるという終わりへの抵抗と取れる。逆の意味になるのが巧妙である。
もう一つ見逃せないのは、進路調査票を折り紙にしてハートを作っているところである。このことが後のコミュに効いてくる。
◆「P-each」
学校をお休みしてお仕事に行く雛菜。駅で電車を待っている間にプロデューサーと果実ジュースを飲むというエピソード。雛菜は白桃、プロデューサーはさくらんぼのジュース。雛菜はプロデューサーの飲んでるものの方がおいしそうに見えると言って一口貰おうとする。ジュースを飲み終わって雛菜は名残惜しそうにする。
◇今と未来の対比再び
雛菜は自分たちが人気になったら今みたいに電車に乗ったりジュース飲んだりできなくなるのかと問いかける。ここにも未来と今現在の対比がある。今はプロデューサーとジュースを飲んでいる。ジュースは美味しい。面白いのは、これが電車を待っている間の時間だということだ。仕事に行くまでの途中の時間である。雛菜の将来という大きな未来に対する今という時間だけでなく、仕事という小さな未来までの途中の時間という今でもある。
また面白いのは、全然人気にならないかもしれないなどと雛菜が言うところだ。雛菜は確実でないことに対して確定的なことを言わないところがあるような気がしている。他人の気持ちや考えていること(自分の気持ちさえも)や、未来がどうなるかということについて、「かもしれない」とよく言っており、そこに「である」を混同させない(ように見える)。(個人的に注目してるのは、雛菜が言う「プロデューサーのことすきかも」と「プロデューサーのことすきだよ」の違い。「すきだよ」はWINGで優勝すると言ってくれる。「かも」と「だよ」はぜんぜん違う、と思う。)
◇雛菜の答え
今現在の楽しいは未来のそれと違って確実だ。けれどジュースは飲み終わってしまう。終わりは必ず来るし、未来は必ずやってくる。どんな未来が来るかは分からないが、未来は必ず来るのである。だからかもしれない、雛菜は次にここに来たらまたジュースを飲もうとプロデューサーに言う。今と同じ楽しいことを、いつかの未来にまたしよう、と。今楽しいことにも終わりは必ずやってくるし、未来は必ずやってくる。ならば未来にまた今と同じ楽しいことをすればいいのだ。
◇タイトルについて
タイトルは雛菜が飲んだジュースの桃peachと、eachをかけていると思われる。Pはプロデューサーのことだろうか。このタイトルだけはどう読んだらいいのかちょっと分からなかった。
◆「XOXO」
学校にいる雛菜からプロデューサーのもとにメッセージが届く。事務所に雛菜の進路調査票がないか、と。
◇「思うとおり」
「なんて書くか考えたのか」の選択肢を選ぶと、雛菜は何を書きたいのか考えていることがあることが分かる。けれど雛菜は、思うとおりに書いたとしても先生に書き直しだと言われるはずだとも考えている。これに大してプロデューサーは、ちゃんと雛菜が考えたことなんだからそれでいいと、雛菜の考えていることをその内容を聞くことなく肯定する。「雛菜がちゃんと考えた」という部分への肯定である。「期限を守らないとだめだ」を選んでも、「雛菜の思うとおり」を書いてもいいという話になる。このことが4つ目のコミュへと繋がっていく。
◇タイトルについて
タイトルのXOXOはHugs&Kissesを意味するのだそう。相手への愛情を示すもので、手紙やメールで使用されるとのこと。Oはハグしてる腕を示し、Xは十字架であり手紙に書かれた十字架にキスをする習慣に由来してキスを示すという。十字架が由来になってることからキリスト教圏で使われるものだということがうかがえる。
このコミュではメッセージのやり取りをしているということと、手紙やメールで使用されるものだということが繋がってくる。
◆「Inter♡iew」
雑誌の撮影とインタビューのお仕事の場面。インタビューを受けているところは雛菜のよそ行きな感じというか少しかしこまった感じのところが見られる。お仕事の場面が描かれるのってこれが初めて? 現場ではこういう感じなんですね。
◇「思ったこと」と「言ったこと」
インタビューでは今後の展望を聞かれる。雛菜は、進路調査のことを思い出す。インタビュアーは「こんなことをしてみたい、とかでも大丈夫」と言う。そこで雛菜は、楽しくしあわせ~でいられるのはアイドルでいることなんじゃないか、と答える。インタビュアーは「それはいいですね」「そういう姿にファンは元気をもらっているはず」と肯定的に受け止めるのだが、雛菜は意外そうな反応を少し見せて、「そのために色々やってみたい」「楽しくて、しあわせになれそうなことなら、なんでも」と付け加える。そしてこの雑誌にまた出たい、と。
インタビュー後、プロデューサーは雛菜を褒める。雛菜は「思ったことを言っただけだよ」と言う。プロデューサーはそれがよかったんだ、と。雛菜は進路調査の話をする。「雛菜の思うとおりでいいんだ」と思った、と。
進路調査票に何を書くかと言う話と、このインタビューの話から伺えるのは、雛菜は「思ったこと」と「言ったこと」の間にワンクッションあるということだ。進路調査票に、雛菜は何か書きたいと「思ったこと」があった。けれどそれを書いたところで先生に受け入れられないと先回りして考えていた。たぶん今までも、「思ったこと」を直接そのまま言わずに、何を言うべきか、何なら言えるのか、何を言えば受け入れられるかを先回りして考えることが何度もあったんだと思う。だから進路調査票に何を書くのかも、インタビューで何を答えるのかも、「思ったこと」をそのまま言ってそれが受け入れられるということに対して、意外な反応を見せたのだと思う。
◇雛菜流の気遣い
「思ったこと」をそのまま言わず、頭の中で何を言うべきか、何なら言えるのか、何を言えば受け入れられるのかを考えることが、たぶん雛菜流の気遣いなのだと思う。雛菜は自分のことを「わがまま」だと言い、そんなそぶりを見せるが、周りを一切考えない人間ではないし、利己的な人間、自己中心的な人間ではない、と思う。ノクチルのサポートコミュでも、透の家に集まった際に小糸を呼ぼうとしていたし、WING編でも審査に突破したときに浮かない顔をしているプロデューサーに向かって「雛菜のせい?」と聞いている。
雛菜は他人のことは分からないし、自分のことしか分からないとはっきり言っているが、これは他人のことを理解しようと努めたことがある人間にしか言えないことだ。他人のことなんて本当にどうでもいいならば、「他人のことは分からない」「自分のことしか分からない」などとそもそもわざわざ言ったりしない。だからおそらく雛菜は、他人が何を考えているのか、他人が何を求めているのか、といったことについて一定程度考えたことがある(あるいは常に考えている)人間だと思う。
そして他人がどう思っているか、何を望んでいるかということに関して、雛菜はそれを自分のこととしてしょい込もうとするところがあるように見える。浮かない顔をしているプロデューサーに「雛菜のせい?」と聞いたり、雛菜をプロデュースすることが楽しくしあわせかどうかを気にしたりしている。雛菜自身がたのしくしあわせ~でいることによって、周りの人間も楽しくしあわせ~にするというのは、他人の考えていることや求めていることを完全には知りえないという限界に対し、他人の思いや望みに対して雛菜自身が感じる責任がなしえる最大限の答えだと言える。だから雛菜はわがままで自己中心的であるように見えて、そうではないのだと思う。雛菜はレッスンの前後や通学前などに事務所に寄ってプロデューサーに会いに来ているが、これは雛菜流の気遣いの表れだと思う。
◇タイトルについて――♡とv
タイトルの「Inter♡iew」、vが♡になっている。メールやSNSなどで、ハートマークが使えない時にvで代用してハートマークを示すやり方がある。おそらくだが、「XOXO」といった記号をメールなどで用いる文化と、vをハートとして用いる文化は重なっている気がする。だからおそらくこのタイトルから、「ハートをvとして読め」という暗示が読み取れる。
ハートは、このpSSRのコミュの中では、「END!NG」で登場した進路調査票のことだ。だからつまり、進路調査票に書かれる答えは「v」ということになる。ではこの「v」は何を意味するのだろうか?
タイトルについてもう1点。ハートマークが入ることによって、interviewという語がinterとviewの2つからできていることが連想されるようになっている。inter-は「間に」「相互に」「中に」を意味する接頭語、viewは「見ること」だ。それに従えば、interviewは「互いに見る」ということになる。インタビュアーと雛菜とが互いに見るということだけでなく、プロデューサーと雛菜とが互いに見るということでもあるだろう。
◆「CherryPick!NG」
おしゃれなカフェで雛菜がスイーツを注文する。フランボワーズのマカロンと、いちごのシトロンとチェリーのと、ミルフィーユとイスパハンと…… 多い。「食べきれるのか」とプロデューサーは聞くが、雛菜はやや驚いた風に「プロデューサーも一緒に食べるでしょ」と答える。「一緒に食べるでしょ」の言い方が、え、当たり前のことじゃん!といったニュアンスが感じられる言い方になっていて面白い。
一緒に食べることに対してプロデューサーは困惑するが、プロデューサーが困惑していることに対して雛菜は困惑している。「俺も一緒に挑戦していくから」というプロデューサーの言葉を雛菜は引用して見せるが、よく覚えていたなと思う(こういうところに記憶力の良さを感じる)。あとプロデューサーの言葉を引用して喋ってるときは眉毛が上がっててキリっとした表情になっているのがかわいい。
「ちょっとずつつまみ食いして、どれがいちばんしあわせか決めるの。甘いものも、お仕事もなんでも!」と雛菜は言っている。雛菜の進路はまだ確定したわけではないが、未来の可能性を広げるために色んなことをやっていこうという未来を感じさせるTRUEコミュになっている。その出発点として甘いものをつまみ食いのように食べるエピソードになっているというところに雛菜らしさを感じさせてほほえましい。
◇タイトルについて
タイトルのcherry pickは、最も望ましいものだけを選んで利用できる他のものを無視することを意味する(『ジーニアス英和辞典』)。ウィキペディアの情報だが、自分の主張にとって都合の良い部分のデータだけを選択的に根拠として取り上げて、主張に反するデータが存在しているにもかかわらずそれを無視するような誤謬でもあるとのこと。
おいしいもの=楽しいことだけつまみ食いするということは今やっていることでもある(ING)が、でもおいしいもの=楽しいことだけつまみ食いするというわけにはいかないはずで(NG)、それはWING編のコミュの中で示されてきた。……ということなのかもしれない。
◆「Happy-!NG」のタイトルの意味
TRUEコミュのタイトルの読み方は実はあまりよくわかっていないのだが、「END!NG」「CherryPick!NG」と、カードタイトルの「HAPPY-!NG」を並べると、見えてくることがある。カードタイトルだけ、「!NG」の前に‐(ハイフン)が入っていることだ。「END!NG」も「CherryPick!NG」も「!NG」の前に直接動詞が来ている。
そうすると、「HAPPY-!NG」の「‐」は、「HAPPY」と「!NG」を接続することを示すものというよりは、何らかの動詞が入るべき空白として読むのが適切なような気がしてくる。では何が入るのか。
動詞は英語でverbであり、SVOやSVOCのように文型を示すときなどによく出てくるように、動詞はVで表される。さてこのpSSRでは、「Inter♡iew」に見られたように、vはハートであった。つまり、あのハートに置き換えられたvは動詞のことだと読むことができるのである。そしてハートは進路調査票である。進路調査票→♡→v→動詞という連鎖が出来上がる。
そうすると、「HAPPY-!NG」の「‐」にはそのまま、進路調査票に関することが入ると読める。進路調査票に実際に何が書かれたのかは分からないが、そこには雛菜の「思うとおり」が書かれるはずで、それは「ちょっとずつつまみ食いして、どれがいちばんしあわせか決める」ということと繋がっている。それはつまり、いろんなことをやってみるということである。進路調査票にはおそらく特定の動詞が入るわけではなく、いろんな動詞が入るのだ。だからカードタイトルでは「-」と何か動詞が入ることを示しつつ、特定の動詞は入らない空白になっているのである。
そしておそらく雛菜は、いろんなことを試すということ自体を今楽しむことができている、と思う。だからそれが、「HAPPY-ING」ということなのだろう。これがまた同時に「NG」でもあるのは、このコミュが最初から示しているように、終わりが必ず来るということなのかもしれない。
進路調査票に対し、プロデューサーは期限を守るようにと雛菜に言っている。雛菜はそれに対して理解を示している。必ず終わりはやってくる。そしていつまでも空白のままでいられるわけではない。そこに何が入るようになるのか。プロデューサーが言うように、楽しみでならない。しかしゲームのプレイヤーにすぎない我々が、その答えを知る日がいつかやってくるのだろうか?
◆追記――TRUEコミュ「CherryPick!NG」の読解(2020/6/23)
ある方のツイートで、TRUEコミュの内容とそのタイトルについて新しくわかったことがある。その方のツイートによれば、雛菜は楽しい部分だけをやっていて、それ以外の部分を無視しているという。これはその通りだと思う。WING編で、雛菜は「楽しい担当がいい」と言っていた。この「楽しい担当がいい」と言っていた段階では、雛菜は楽しい部分だけを選択的にやろうとしている。それ以外の楽しくない(楽しくなさそう)なところは無視している。
WING編シーズン4のプロデュースコミュ「take the cake!」を見てみよう。楽しい部分だけを選択的に行おうとする雛菜の態度をプロデューサーは、「『ここまででいいや』って思ってるんじゃないか」と解釈する。本当はもっと先へ進むことができるのに、どこかで足を止めてしまっているんじゃないか、と。プロデューサーは、こういう雛菜のやり方が「本当にそれが『雛菜のしあわせ』な方なら反対しない」と言っている。こう言うということは、プロデューサーはそうではないと思っているということだ。雛菜が「ここまででいいや」と思って足を止めてしまったその先に、実はもっと強い「雛菜のしあわせ」があるのではないか、と。
だからプロデューサーは「楽しい」と「楽をする」は違う、と言うのである。「楽をする」というのはここでは、楽しい部分だけを選択的に行って、楽しくない(楽しくなさそう)な部分を無視するということだ。それはどこかで足を止めることである。本当は雛菜はもっと先へ行けるはずだ。足を止めたところより先は、楽しくない(楽しくなさそう)なものも待ち受けている。けれどそうした楽しくない(楽しくなさそう)なものも含めてやっていくことで、足を止めたときの楽しいよりももっと強い「楽しい」が得られるかもしれないのだ。だから「楽をする」と「楽しい」は違うのである。ここでの「楽しい」こそが「雛菜のしあわせ」なのではないか、とプロデューサーは考えている。雛菜はこのことに気づく。
雛菜がこのことに気づいた証拠は、WING優勝後のコミュに現れている。「ちょっとくらいなら大変なこと、あってもいいよ~。だって、その方が楽しくて、しあわせ~♡ が強くなりそうだもん~!」と言っているのだ。ここでの「楽しくて、しあわせ~♡」は、一見して楽しそうなことだけではなく、楽しくなさそう=大変そうなことも含んだ上でたどり着けるものになっている。「楽しくてしあわせ~」が高階化しているのだ。
WING編で見られた、楽しい部分だけを選択的にやって、楽しくない(楽しくなさそう)なことは無視する、というのは、まさにCherry Pickingである。チェリー・ピッキングとは、自分の主張に都合の良いデータだけを根拠として採用して、自分の主張に反するデータが存在するにもかかわらずそれを無視する、という誤謬のことである。雛菜は楽しいことだけをチェリー・ピッキングしていたのだ。
だが雛菜はそれだけではだめだということに気がついた。【HAPPY-!NG】「Inter♡iew」で雛菜は「そのために、色々やってみたいと思って~。楽しくて、しあわせになれそうなことなら、……なんでも」と言っている。「なんでも」と言っているということはつまり、楽しいのチェリー・ピッキングはもうしない、ということだ。だから「CherryPick」は「NG」となるのである。
もう一つ。「interview」という語は「inter-view」であり、「互いに見る」ということであった。インタビューはふつう、一方が聞き手に回り、主役である人の話を聞いたりその人をもっとよく理解したりすることである。だがinter-viewであるとすれば、互いが互いを見て、互いが互いを理解し合うということになる。ここには相互関係がある。
この点に注目すると、プロデューサーはただ雛菜を見ているだけの存在ではないということになってくる。実際「Inter♡iew」のコミュの中で、インタビュー後の雛菜に対してプロデューサーは「もっと色々なことに挑戦して雛菜の可能性を広げていこう」「俺も、一緒に挑戦していくからさ」と言っている。挑戦するのは雛菜だけではないのだ。
挑戦するのは雛菜だけではない、そう、まさにTRUEコミュ「CherryPick!NG」で雛菜が言ったのはこのことである。TRUEコミュは、おしゃれなカフェで雛菜がスイーツをたくさん注文するところから始まる。プロデューサーは食べきれるのか、と心配になるのだが、雛菜は「一緒に食べるでしょ!?」と言う。
大量のスイーツを雛菜は「ちょっとずつつまみ食いして、どれがいちばんしあわせか決める」と言っている。あれ、これはまさにチェリー・ピッキングなのでは?と思ってしまう。チェリー・ピッキングは「NG」だったんじゃないのか、と。
そう、チェリー・ピッキングは「NG」なのである。雛菜は、実はプロデューサーに向かって言っている。チェリー・ピッキングは「NG」だよ、と。雛菜の言葉を引用しよう。「えっと~…… なんだっけ? ――『いろんなことに挑戦して雛菜の可能性を広げていこ~!』『俺も一緒に挑戦していくから!』……だっけ~? この間、プロデューサーがそう言ったでしょ?」と。大量のスイーツを雛菜と一緒に食べること、これがプロデューサーの「挑戦」なのである。「あんまり食べたことのないおやつに挑戦しようかな~って!」と言う雛菜の言葉は、雛菜自身があまり食べたことのないおやつを食べようとしているということだと思われるが、プロデューサーがあまり食べたことのないおやつをプロデューサーが挑戦する、という風にも読める。
プロデューサーはコーヒーをブラックで飲むような人間だ。甘いものが苦手かどうかは分からないが、甘くないものでも平気な人間なのは確かだ。たぶんそんなに甘いものを積極的に食べたり飲んだりしないんじゃないかというような気がする。そういうプロデューサーにとって、雛菜が注文した大量のスイーツを一緒に食べるということは確かに「挑戦」になるだろう。だから雛菜は、甘いものも食べなきゃだめだよ、チェリー・ピッキングは「NG」だよ、とプロデューサーに向かって言っているのである。「だからね、プロデューサー、雛菜に付き合ってくれるでしょ?」と雛菜は言うのだ。
WING編で雛菜は、雛菜をプロデュースするプロデューサーに向かって「頑張ってプロデュースしてね」と言ったり、雛菜をプロデュースしていることを褒めてくれたりする。雛菜が頑張るだけでなく(「だけでなく」というよりもむしろ?)プロデューサーが頑張るのだ。ここに雛菜のプロデューサーであるということ、雛菜をプロデュースするということの独自性が現れているような気がする。
雛菜は確かに楽しいのチェリー・ピッキングはやめようという思いにたどり着いた。けれど同時に、雛菜が最初に言った雛菜が楽しくてしあわせ~にしていることで、見ている人も楽しくてしあわせ~になると言ったことはそのまま貫き通している。プロデューサーは雛菜が最初に言っていたそれは正しかった、と認めている。変化したのは雛菜の方ではなくて(だけではなくて?)、むしろプロデューサーの方なのである。
【HAPPY-!NG】「P-each」でも、「周りが勝手に変わるだけで、雛菜が雛菜じゃなくなるわけじゃない」と言っている。雛菜の軸は大きく変わってはいない。雛菜が楽しいのチェリー・ピッキングをやめ、「楽しくてしあわせ~」を高階化させたというのは、雛菜の変化というよりは雛菜の認識の拡大と言った方がいいのかもしれない。楽しくてしあわせ~を求めるという軸は変わっていないのだ。そして雛菜が楽しくてしあわせ~であれば、周りの人間や、雛菜を見ている人たちを楽しくてしあわせ~にできるということも、最初から一貫している。
「CherryPick!NG」で、雛菜は大好きな甘いものをたくさん食べようとしていて、むしろそこで「挑戦」するのがプロデューサーの方になっているというのは、まさにこういうことなのかもしれない。
*Privatterの投稿は削除済み