今週のお便りコーナー
東京都にお住いのペンネーム「現場はもう限界、かかってこいやMAPPA」さん32歳からのお便りです。
シンゴジラやシンエヴァのメイキング見て、3Dでプリヴィズ組んで画面構成する手法を俺もやりてえ!と思ってて
今回の仕事が駅構内という閉鎖空間にキャラ二人だけという限定されたシチュエーションであることから
3Dで全てを作り込んでライティング含め徹底的にコントロールすることがおそらく可能だろうという勝算があり
ゴッソ監督にオススメされたstoryboardProでムービー形式でコンテを切っていく手法にまず挑戦したのが一点。
終電で渋谷に行ってカラオケで5時間粘って始発で駅が開くとダッシュでロケハン。
みそ五十嵐すなこと俺で穿血ごっこして動画と写真を撮りまくり、プリヴィズに組み込む実写素材をストック。
これをコンテの進捗度に応じて都合3回行い、あらかたのアクションは全部自分たちの実写映像で構成。
3Dさんにそれを渡して再現してもらいつつ、既にあった3DLO用のラフモデルをブラッシュアップ。
カメラマップに頼らず全編3DBGで構築することを目標に駅構内及びトイレの完全再現を試みる。
カメラマップは結局美術素材の貼り込みで膨大なリソースを喰う上
いったんアングルが決まると後から変更がきかないので絶対に避けたかった。
美術を嚙ませずに3D上でテクスチャとライティングを完成させ
例えそれでPS3みたいな画面になっちゃったとしてもそれはそれでアリ
という割り切りでモデリングを進める。
が、ここに誤算があり、いくらPS3になっちゃってもいいとはいえ
完成画面に耐えられるレベルの3Dモデルの作成には自分たちが想像していた以上の金と時間がかかったという点である。
3D周りの下準備でスケジュールをほぼ食い潰してしまい、当初の目論見であったプリヴィズで試行錯誤する時間など
とっくになくなっており、そもそもすなこが俺のプリヴィズ構想に内心あまり同意しておらず
2Dコンテで原画レベルの緻密な描き込みをすることでクオリティの担保を図るという
むしろ真逆な思想で仕事をしていたこともあって、とにかくプリヴィズ構想は完全に破綻。
ライティングをどうするのかもあやふやなままとにかく作打ちするも
作画さんに3DLOを渡しきれたのが9月になってからという絶望的スケジュールに。
カメラワーク、キャラのアクション含めすべて実写素材と3Dで構成を固めて
作画さんにはそれをなぞってもらうだけで作画工程を極端に圧縮できるという算段があったとはいえ
L/O期間実質2週間という圧縮を通り越してただの極悪スケジュールになってしまったこと
あらためてお詫び申し上げたい……。
結論としては、3D完全構築プリヴィズ構想をテレビシリーズのスケジュールでやろうとするのがそもそもの間違いで
劇場でやれ!!!!!!!!!!!!!!ということであった。
次はもっとうまくやります。
当初からサイバーパンクと傷物語のパクリと言われる覚悟はしていて
だからこそ五十嵐さんには参加してほしかったけど、結局スケジュールが合わずプリプロ段階までの関わりに。
でもやっぱ五十嵐回見たら俺たちもああいうのやりたいと思うじゃん?
出来上がりの完成度には天と地ほどの差があるけどね。結局画力が足りねーんだわこっちは。
サイパンのデザイン的リムライトから一歩踏み込んで舞台上の光源配置と演出をちゃんと嚙み合わせるという試みは
まあある程度上手くいったとは思うけど、やっぱ試行錯誤する時間が足りなかった…。
実際にどこがどれだけ光ってキャラにどこの光が当たるのか、モデルが完成するまで不透明だったし
そのモデルの完成が遅れに遅れたもんだから、設計上の破綻は随所にある。
リムライトの色味を仕上げで指定せずに撮影で一括したことでこのあたりかなり臨機応変に対応できたから
なんとかなってるけど、ここの判断ミスってたら詰んでた…。助言してくれた監督に感謝。
トイレバトルのキャラの身体から跳ねる水飛沫も、すなこの汎用作画素材を撮影で貼り込むことで
疑似的に傷物語のドラマツルギー戦を再現できるのではという目論見があったが
本当にそれが可能なのかはやってみなければ分からなかった。
手法としてはすなこに15パターンほどの水飛沫作画素材を描かせて(1パターンにつき1k4枚リピート)
さらに左右反転させて計30パターンの作画素材を用意。
キャラセルの輪郭を抽出してマスクを切り、その表面にランダムにパーティクルを発生。
発生したパーティクルは30パターンの作画素材のうちどれかをランダムで表示する。
パーティクルの出現サイクルを作画素材のリピートタイミングに対応させ
かつ左右方向を手付けでざっくり指定することでおおむね自然な水飛沫の跳ね返りを表現。
撮影さんがマジで有能で、ぶっちゃけこの試みは成功だったと思います。
止め絵だけでなく動きまくるキャラセルに追随して常にパーティクルを表示し続け
さらにZ軸の動きに対応して飛沫のサイズ感も調整可能、スロー表現にも対応と
本当に神対応でした…。感謝してもしきれない…。
事前にテストしていたとはいえ撮影期間実質2日しかなかったのに…。
いやーでも光源カゲ付けってマジでめんどくさいですね。
ほとんどのアニメが順光のデザイン影で済ませてる意味をようやく実感したわ。
どこに光源があってこのリムライトは何の光からできてるのか
コンテ切ってる本人ですら混乱するのに他のスタッフが理解しきれるわけがない。
今回の処理演作業の大半がリムライトの指定に終始したのは当然の帰結で
演技がどうとか絵がどうとか気にしている余裕などなかった…。
シリーズ全体のスケジュールの逼迫からろくに作監打ちも組めずに出たとこ勝負だったのに
各作監さんは本当によくやってくださいました…。ありがとうございました…。
まあミスってたらリムライト消して全カゲにすりゃあいいという逃げ道は常に用意してたけど。
この話数、周囲から大変だ大変だと言われてはいたが、自分たちのコンセプトとしては
如何に楽して作るか≒カロリーコントロールを徹底するという意識があり、実際要所で楽できた話数だったとは思う。
CTはstoryboardProの直出しムービーを差すことで俺は一切CTシートを作らなかったし
原図も全て写真LOと3DLOで乗り切ることで(処理演で一番しんどい)原図修もゼロ。
3Dガイドと実写のロトスコで難易度の高い作画はなぞるだけで済ませて
すなこに至っては「俺のコンテをなぞる以外何もするな」レベルで原画マンから自由度を奪い
イレギュラーを徹底的に排除。参加した方々はさぞかし窮屈な仕事だったと思います。申し訳ない…。
でもトイレという狭い空間でアクション設計を破綻させないためには
作画のアドリブを一切許さずコンテ演出が何もかも管理し尽くす必要があって
そうでなければ完成させることは不可能だったと思う。
そんなわけですなこは丸一年かけて超精度のコンテを描き続け、疲弊しきっていたが
実際の処理演してた俺にとってはかなり楽させてもらったと言える。
それでも間に合わないからヘルプでyouイチロー氏を呼ばざるを得なかったが。
単純に自分たちの直原カットが多すぎてな…。100カットLO切るのはさすがに無茶だった。
でもスケジュールやばすぎて人が集まらねえんだ…。
どんなにいいコンテ切っても描く人がいなけりゃ文字通り絵に描いた餅。
こういうところで業界の人手不足を実感しましたね僕ァ…。
でも振り返ってみると楽するためにワークフローを特殊化した結果むしろめんどくさくなった面もあり
原図修をしなくてよかった半面、作画さんに渡す3DLOに光源の指定と大まかなカメラワーク
book分けと作画範囲を指定する作業を全カットやらねばならなかったわけで
それって結局めちゃくちゃ手間だったんじゃね?
当初の予定ではそこまで含めて全部3Dで完成させてどのセクションも迷わずに済む素材回しを目指してたのに
それを待ってたらスケジュール使い潰しちゃったからとにかく未完成だろうが3DLOをばらまく羽目になるという。
しかも3DLOから直接BGを描き出す仕様上、作画のアドリブで原図を描き足したり
キャンパスサイズを変えることは厳禁なのに、結局誰もそれ守ってくれなかったので
作画フレームを本来の3DLO上に位置合わせするという
究極めんどくさい工程が発生し、完全に自分のキャパオーバーに。
これを怠ると3Dとセルがズレまくり事故りまくった画面が大量発生不可避ということでマジで戦々恐々だった。
ていうか本番素材をレンダリングする3D側が作画フレームを同梱してなきゃ
結局撮影はセルの位置合わせできねーじゃん!と気づき
そこらへんは3Dさんに頑張ってもらうことでこっちの負担を低減。
3Dと撮影の頑張りのおかげで、結果的にはほとんど事故らずにテイク1が上がってきて安心しました…。
ありがてえ…。
すなこも言ってたけど、コンテの細密化だったり3DLOの補足だったりで、俺たちどんだけ下準備に手間かけてんだよ
むしろ下準備に時間かけすぎて肝心の実作業の時間を食い潰しちゃってんじゃん!時間が!!!!ほしい!!!!!
というのがここ2か月くらいの心境でした。まあ自業自得ですね。
かかってこいやMAPPAとか書いたけど、この話数に関してはスケジュール遅延の責任は
結構なところ俺たち自身にあるのであんまり他を責めるわけにもいかないっすね。他の話数については知らんけど。
とにかく完成してよかった。皆さんお疲れ様でした!