亜双義一真が亜双義一真でいられたのは十四歳のときまでで、あの手紙が届いてからの十年間、彼は「亜双義一真」ではなく「亜双義玄真の息子」だった
この十年間、彼は「亜双義玄真の息子」として英国に渡り、父の死の真相を知ることだけを使命として生きてきた
だから、一年程度のつきあいの龍ノ介はもちろん、九年くらいのつきあいの寿沙都さんですら「本来の亜双義一真」、つまり使命を帯びていない亜双義一真を知らないんだよ
2-4〜2-5、龍ノ介はなんども亜双義検事について「いつものあいつじゃない」という旨の発言をしては正面腕組み親友面してるけど、「ぼくはほんとうの亜双義を知っている」というのは龍ノ介のうぬぼれに過ぎない
龍ノ介が知っているのは「使命を帯びた亜双義玄真の息子」だけなんだから
本編後、倫敦の闇は晴れ、玄真の汚名も濯げ、「亜双義玄真の息子」だった男はこれからただの「亜双義一真」へ戻っていく。十年ぶりに本来のじぶんをとりもどすことができる
それをいちばんちかくで見られるのはバロック・バンジークスなのよね
だから、これからバロック・バンジークスは龍ノ介も寿沙都さんも知らない「本来の亜双義一真」を知ることになる
寿沙都さん、龍ノ介、バンジークス。三人のなかでいちばん亜双義とのつきあいが短いバンジークスが、もっとも「本来の亜双義一真」を理解している、という事態になるかもしれない