2022年エイプリル・フール「あめデレラ ーAmederellaー」まとめ ※幾つかのシナリオのネタバレを含みます。
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猫は決意した。今年のエイプリル・フールは何もしない、と。
一昨年は草加怜が経営する「草加診療所」を舞台にしたリアルタイム投稿を披露し、去年は草加あめを主人公にして「不思議の国のアリス」のパロディ作品を投稿した。
しかし、今年は止めよう。余裕がない。まだ準備が終わっていないものがあるのだ。そもそも、一昨年・去年・今年と三年連続で4月1日が出勤日になっていた中でよく頑張ったと思う。偉すぎる。
今年はネタ出ししなくていいのだ。驚く側に徹しよう。これで準備に時間を割ける。有難い。本当の本当にそう思っていた。
前日3月31日の朝8時、自探索者について考えながら出勤している時に「あめちゃんって葵君の背中を見つけたら付いて行きそうだな……あれ? これアレか? 『不思議の国のアリス』やれるんじゃないか?」なんてアイデアが浮かぶまでは。
去年は「主人公候補は翡翠ちゃんと葵君の二択」と思って一切考慮しなかったが、あめちゃんも適任かもしれない。でも、どう考えても二番煎じにしかならない。そうだ、『シンデレラ』だ。それならあめちゃんにいい思いをさせてあげられるし、他の探索者も出せる。タイトルは『あめデレラ』で行こう! 語呂が悪い!
……なんてことまで考えてしまったら後はやるしかなかった。
前回同様1日完結。全24話構成で1時間毎に更新と、去年と同じ流れにすることを決めた後は、職場で空き時間を見つけてプロットを半分まで紙に書き、配役を固めた。珍しく定時で家路に着いて文字を打ち出し、あまりにも眠いので一度仮眠を取った後にパソコンを開き、昨年同様にフリー素材のアイコンとヘッダー画像を探す。そして、プロフィール欄の内容を作成しながら執筆を続け、予約投稿を設定した。
去年は前日夜からネタ出しを始めたため物語も急展開になって大変だったが、今年は比較的落ち着いて書くことができた。4月1日まで残り30分の段階で18話まで書き終え、あとは日付が変わるのに合わせてアイコンとヘッダー画像を変えるだけだった。
寝落ちするまでは。
そう、寝落ちした。目が覚めたら朝5時だった。元々身体が第一だと考えていたので、予約投稿ができていれば細かい部分を気にするつもりはなかったが、それにしてもあと10分強起きていればよかっただけに悔しかった。
ただ、過ぎたことを言っても仕方ないので、自宅を出るまでに22話まで書き終えて予約投稿し、残りの数話は出勤途中の電車で書き上げて投稿した。今年は手元にテザリング機能を駆使したタブレットがあったので、一字訂正するためだけにわざわざ帰宅する必要がなくて本当に助かった。
依然として大きな懸念事項は、他のプレイヤーの探索者を使うことを一切告げていないことだ。
ただ、有難いことに前回の『不思議の国の翡翠ちゃん』を見てくださったネット界隈の方々から「面白かったです」「出演していると思っていなかったので嬉しかったです」とコメントをいただいたことを思い出し、何とか自分を奮い立たせることができた。もちろん怒られたらアカウントを爆破して謝罪する覚悟はある。
そんな経緯で「あめデレラ」は完成した。
読んでくださった方々が楽しめたのなら嬉しい。余談だが(22/24)のダンスシーンのイラストはいつでも募集中である。
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あめデレラーAmederellaー
1時間毎に更新される、とある少女のちょっと不思議でおかしな物語。どうぞ最後までお楽しみください。【1日完結/全24話】
※ 関係者の皆様におかれましてはこの場を借りて謝罪いたします。
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【探索者名(配役)/プレイヤー名】
草加あめ(シンデレラ)/ざっそうを愛する猫・イルハさん
空色疾風(黒いネズミ)/ツキナミさん
草加葵(魔法使い1)/ざっそうを愛する猫
霧原かすみ(魔法使い2)/トト丸さん
我家垂蔵(執事)/ツキナミさん
小鳥遊悠(馬車の御者)/ぴーさん
草加深緑(鳩)/ざっそうを愛する猫
里原椿(王子様の従者)/あささん
草加翡翠(婚約者)/ぴーさん・ざっそうを愛する猫
草加怜(王子様)/ざっそうを愛する猫
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私の名前はあめといいます。お母さんと二人でくらしています。
お母さんは家のことを私に任せてくれます。ごはんを作ったりそうじをしたり服をととのえたりするのは私のお仕事です。ねむくなったら「ともだち」とクローゼットの中でねています。それが私にとってのいつもどおりです。(1/24)
今日の朝、お母さんから「ぶとうかいのじゅんび」をたのまれました。でも、私は「ぶとうかい」が何かよく分かりません。いっしょにくらしている「ともだち」に聞いてみたのですが、黒い手をひらひらしただけでよく分からないようです。何をすればいいんだろう。(2/24)
そんなとき、黒いネズミさんが近くを通りかかりました。ネズミさんは「きれいな服を着ていくパーティーのことですよ。温かいご飯を食べて、ダンスを踊るんですってー」と、てもとの機械をカタカタさせて教えてくれました。お母さんの服はどれもきれいだから、とくにきれいなものをえらびます。(3/24)
私はお母さんの服があるお部屋に行って、いちばんきれいな服をえらびました。
不意に、コンコンとノックの音が聞こえてきました。だれだろう。ふだんはほとんどだれも来ないのに。げんかんのとびらを開けると、黒いぼうしをかぶった男の人と、つえを持った女の人が立っていました。(4/24)
「師匠、この子ですよ。ずっと気にかけてましたよね」
「気にかけてねえよ、一言余計だ」
「何の、ごようですか?」
「……あめ。舞踏会に行ってみたいとは思わないのか」
男の人がたずねてきます。あたたかいごはんはお母さんのだし、ダンスはよく知らないので行きたいとは思えません。(5/24)
「一度、行ってみたらどうだ? いつもどおりだと分からないことにいっぱい出会えるからさ」
男の人がそういうと、女の人はつえをふりました。すると、私の着ていた服がきれいな服になりました。いつの間にかクツもはかされて、かみもしばってあります。
「でも、お母さんのじゅんびが……」(6/24)
「それは私たちに任せてくれるかい?」
「……そういうわけだ。行ってこいよ。せっかくの機会だ」
どうしようかなやんでいる私の背中を「ともだち」がおしてくれました。私の足が数歩前に出ます。
「……は、はい」
意を決して外に出ると、すでに大きなかぼちゃの馬車が用意されていました。(7/24)
「お手をどうぞ。足下に気をつけて」
馬車の中からやさしそうなおじさんが現れて、手を差し出してくれます。
「あ、ありがとうございます……」
かたくて大きい手で引っぱってもらい、私は馬車に乗りこみました。そのとき、馬車をうんてんする男の人が、肩にハトを乗せているのが見えました。(8/24)
「それじゃ、掴まってくださいね。飛ばしますよーーー!」
ハトを肩にのせた男の人はそう言うと、たづなを強くふりました。馬車がすぐに速度を上げて、どこかに向かって走りはじめます。馬車に乗るのは初めてでした。ゆられてイスから落ちそうになる私を、おじさんが支えてくれました。(9/24)
ようやく馬車が止まりました。目がぐるぐるします。おじさんに手を引かれて馬車を下りると、そこは大きな大きなお城の前でした。こんな大きなお家は見たことありません。
「ようこそ。遠いところからよく来てくれましたね」
やわらかいかみの色をしたお兄さんが、とびらの前に立っています。(10/24)
「こ……、こんにちは」
「こんにちは、可愛らしいお嬢さん。どうぞ中に」
お兄さんがとびらを開ければ、中はとても広いことが分かりました。おおぜいの人がいて、いろんなところにたくさんの食べ物がならんでいます。みんな、それを自分のお皿に入れて食べているようです。でも、私はどうすればいいんだろう。(11/24)
「どうしたんですか? 何か困っていますか?」
私の様子をふしぎに思ったのか、白いかみの女の人が私に話しかけてくれました。
「えっと、これって食べていいんでしょうか……?」
「もちろんですよ」
女の人は、いくつかの食べものをお皿にのせて私にわたしてくれました。(12/24)
「い、いただきます」
おそるおそる口にした食べものは、これまで食べたことがないほどおいしかったです。なにより、口の中があったかくなります。これが、ネズミさんの言っていた「温かいごはん」なんですね。
「おいしいですか?」
「は、はい!」
「よかった。喜んでもらえて嬉しいです」(13/24)
「ここでしたか。そろそろダンスが始まるそうなので、迎えに来ましたよ」
おだやかそうな男の人が、白いかみの女の人に声をかけました。
「おや、すみません。話し中でしたか」
「だ……だいじょうぶ、です」
「気つかなくて申し訳ない。ところで、あなたもこの後のダンスは踊るんですか?」(14/24)
ダンスはあまり見ないし、おどったこともない。そう答えたら、女の人はおどろいてしまいました。
「そ、それはもったいないですっ! ぜひ踊りましょう!」
「でも、おどり方なんてよく知らなくて……」
「『男の人に合わせて体を動かすだけで十分です』って以前私も教えてもらいました!」(15/24)
「そ……そうなんですか?」
「そんなことを言ったこともありましたね……」
おだやかそうな男の人は、にがわらいをうかべています。
「ただ、あなたのペアになってくれる方を探さないといけませんね」
「あっ、そうですね! どうしましょう。三人でもよければ一緒に踊れるんですが……」(16/24)
「さすがに三人は格好悪すぎるだろ。よく考えろよ」
とつぜん話に入ってきたのは、さっき出会ったぼうしの男の人でした。
「あれ? 何でここに……?」
「……あいつに飛ばされた。『師匠がエスコートしないで誰がするんですか!?』だと」
男の人の服やかみもきれいになっています。(17/24)
「お相手がいるようでよかった。それでは私たちはこれで」
「また会えたら会いましょうね!」
おだやかそうな男の人と白いかみの女の人は、手をつないで行ってしまいました。あとは、ぼうしの男の人と私の二人だけです。
「……どうする? 無理はしなくていいけど」
「や、やってみたいです」(18/24)
「ここに来る前はやりたくなさそうだったけれど」
「……えっと、『せっかくのきかい』ですし、それに……」
とっさに、さっき言われた言葉をつかってしまう。ただ、理由はきちんと別にある。
「あなたは、私を名前でよんでくれたから。だから、もしおどるなら、あなたといっしょがいいです」(19/24)
それを聞いた男の人はため息をつきました。
「……おい」
「ごめんなさい……わがまま、でした」
「わがままなわけねえだろ。それくらい」
男の人はそう言って、私の頭をなでてくれました。ざつなように見えて、やさしい手つきです。
「葵、だよ。俺の名前。あめが呼ぶなら別に構わない」(20/24)
「あおい、さん?」
「……踊るんだろ。ほら、行くぞ」
男の人……あおいさんは、私に手を差し出します。その手をつかんで、いっしょに歩きます。
奥のほうでは、いろんなひとがダンスをしていました。さっきお話しした男の人と女の人も、ぎこちなさはあったけれど、とてもうれしそうです。(21/24)
私とあおいさんも、他の人たちにまざっていっしょにおどりはじめます。二人で向かいあって、歩くテンポをゆっくりにしました。
私は何とか、あおいさんの後についていきました。あおいさんは、私のことを待って動いてくれます。それだけなのに、何だか心があったかくなった気がしました。(22/24)
ゴーン、ゴーンと鐘の音が鳴りひびきます。そういえば、家のお仕事を何もしていないことに気づきます。お母さんに怒られてしまいます。
あわてて帰ろうとして、ふだんはかないクツがぬげて階段をふみ外しました。追いかけてきたあおいさんが私の手をつかんでくれたので、落ちずにすみました。(23/24)
「何やってるんだよ。怪我したら危ないだろ」
「ご、ごめんなさい」
「……ほら。そんな慌てなくてもいいから。帰るぞ」
あおいさんに手を引かれて、私は馬車に乗ってお家に帰ります。
これでまた、いつもどおりにもどります。でも、どうかこの楽しくて温かい時間が少しでも続くといいな。(24/24)
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目が覚めたら、知らないところにいた。あわてて体を起こすと、白い天井やかべのある部屋にいることがわかった。たぶん、ここは病室なんだと思う。
でも、なんで私は病室にいるんだろう。(04/08)