とうらぶ二次創作短編小説
『三日月受難の日』
本文は追記から
※弊本丸が元ネタの小噺
※三日月・鶯丸・初期刀組が登場
※ドタバタ日常回
〜三月半ばのとある日〜
その日の本丸はやけに騒がしかった。
鶯丸「まったく、大包平が来たわけでもあるまいに」
今日も縁側でのんびりと茶を啜る鶯丸。不意に、そのすぐ後ろの障子が勢いよく開け放たれた。
「……………………」
半月ほど前に修行を終えたばかりの山姥切国広が、凄い剣幕で立っている。ぐるりと外を見渡してから、近くに居た鶯丸に声をかけた。
山姥切「三日月宗近を見なかったか」
鶯丸「いや、知らないな」
山姥切「そうか…」
鶯丸「大包平にも聞いてみたらどうだ?」
山姥切「………………邪魔して悪かった」
なんとも言えない表情になりながら、山姥切国広は障子を閉めて去っていった。
鶯丸「今日は随分と客が多いな」
というのも、先程から鶯丸のもとには入れ替わり立ち替わり人(刀)を探している者が立ち寄ってくるのである。そしてその誰もが同じ相手を探していた。
加州「三日月〜!どこ行った〜!?」
歌仙「三日月はどこだ!?」
蜂須賀「すまない、三日月さんを見ていないか!?」
陸奥守「三日月ー!居たら返事せぇ!」
その必死さが愉快になった鶯丸は、毎回同様の答えを返していた。
加州「いや大包平は探してないから!」
歌仙「その、言いにくいんだが…大包平は、まだ…」
蜂須賀「おじいさん、大包平さんはまだ居ませんよ」
陸奥守「ほんなら聞いてくるわ」
三者三様、いや五者五様の反応に、鶯丸は満足げだ。
鶯丸「やれやれ、忙しない事だな。一体何をやらかしたんだ?」
どこに向かって言うでもない素振りで尋ねる。
「それが俺にも分からんのだ」
足元から声が返ってきた。縁側の下から這い出てきたのは、渦中の三日月宗近だ。
三日月「すまないな、匿ってもらって」
鶯丸「礼には及ばない。そういえば、通販のカタログに珍しい茶葉が載っていたな」
三日月「はっはっは、これは参ったな」
冷や汗マークを付けながら、しかし穏やかな表情のままで縁側に腰掛ける三日月。
鶯丸「身に覚えが無いなら、逃げ隠れする必要も無いと思うんだが」
三日月「いやぁ、あの五振りに猛烈な勢いで詰め寄られてなぁ。つい逃げ出してしまった」
鶯丸「そうか。まぁ、ほとぼりが冷めるまでは隠れていたほうがいいかもしれないな。話し合いは茶でも飲みながらのんびりやるもんだ」
三日月「しかし話し合うと言っても、何が原因なのかすらさっぱりなんだがなぁ」
三日月は困ったような顔で腕を組み首を傾げている。その姿を横目に茶を飲み干した鶯丸は、懐から平べったいケースを取り出した。
鶯丸「原因はこれじゃないか?」
三日月「それは……確か、しーでー?と言ったか」
鶯丸「残念、恐らくこれはデーブイデーだ」
発音については多目に見て頂きたい。彼らは御長寿である。さらに言うと、正確にはDVDではなくBlu-rayであった。
鶯丸「さっき、茶を取りに行く途上の部屋で、机の上に置いてあったのを見つけた。つい先程まで上映会でもしていたような様子だったな。5つの湯呑みと茶菓子が残されていた」
三日月「その…でーぶいでー?とやらが、俺が問い詰められている原因だと言うのか?」
鶯丸「そうなんじゃないか?俺もよく分からんが」
そう言いながら、鶯丸はケース入りの円盤を検める。百円ショップにでも売っていそうな、一枚だけしか入らない薄いケース。ディスクは無地で、たった一文だけ記載されていた。
『大侵寇の記録』
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その日の朝のこと。
山姥切「そういえば、三日月が来た時にこんな物が届いていた」
加州「何それ?」
山姥切「分からん…何かの記録のようだが」
山姥切国広の手には、件の円盤があった。
加州「というか、三日月来たの一ヶ月も前なんだけど。何で今になって?」
山姥切「色々あって忘れていたんだ」
加州「忘れてたならしょうがないかー」
山姥切国広と加州清光はとりあえず、モニターのある部屋に移動して円盤を再生してみることにした。
加州「なんかチャプターが一杯あるんだけど」
山姥切「初期刀候補の五振り分あるみたいだな。極の差分もあるのか」
加州「ちょっと待って俺の極が見えてる!薄っすら見えてる!ネタバレじゃん!」
山姥切「すまん、ネタバレ厳禁派か」
加州「いや俺はそうでも無いけど。全国の加州清光の中には居るかもしれないでしょ、ネタバレだめな奴。そいつがこれ見たら発狂するかもな〜、防ぎようがないじゃんこれ」
山姥切「アンケートで指摘しておくか」
加州「アンケートもあるの?」
山姥切「いや、ない」
軽口を叩き合いながら、これは五振り全員で見たほうが良さそうだ、よし上映会をやろう、と決めた二振り。加州は他の三振りを呼ぶために本丸巡りへ、山姥切はお茶とお菓子を用意するために厨房へ向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
かくして初期刀候補の五振り、即ち山姥切国広・加州清光・歌仙兼定・蜂須賀虎徹・陸奥守吉行が一堂に会した。場所は大きいモニターがある部屋に変更になっていた。
蜂須賀「この顔ぶれで集まるのは初めてな気がするね」
歌仙「そういえば僕たち、意外と揃って何かしたことは無かったのか」
陸奥守「わしが来るの遅かったき、そのせいやか?」
世間的にはセットの扱いをされがちな面々だが、この本丸では珍しい組み合わせだった。しばし和やかな歓談の場が開かれ、話題も一段落というタイミングで声を上げたのは加州だった。
加州「はいはい注目ー。そろそろ本来の目的である上映会をやりたいんだけど」
陸奥守「そうや、上映会!忘れるとこじゃった」
蜂須賀「確か、三日月さんが来た時に送られてきた映像記録なんだよね?」
歌仙「はて、三日月が来たのはひと月も前のはず…なぜ今になって」
加州「そのやり取りもうやったから」
山姥切「忘れててすまんかった」
山姥切が円盤をプレイヤーにセットし、読み込みを待つ。
山姥切「そうだ、先に聞いておくのを忘れていた。あんたたち、ネタバレは大丈夫な方か?」
蜂須賀「俺は問題ないよ」
陸奥守「見たら見たでそれなりに楽しめるき、気にせんぜよ」
歌仙「ものによるかな。小説はできればまっさらな気持ちで読みたいね」
加州「刃生のネタバレは?」
歌仙「刃生!?」
ほどなくしてチャプター画面が表示された。毎回最初に表示されるのは「加州清光」の項だ。それを見て歌仙も納得した。
歌仙「あぁ、極の姿という意味か…それなら別にいいよ、演練でも見かけるし」
加州「演練ねー、あれも割とネタバレだよなー」
各々自由に寛ぎながら、上映会は開始された。
〜〜〜〜〜〜〜〜
一通りの上映が終わった後、部屋は重苦しい空気に包まれていた。五振りは無言で顔を見合わせ、思いが一つであることを確認し、無言のまま立ち上がって部屋から駆け出した。用意された茶菓子はほとんど減っていなかった。
三条派の部屋で一悶着が起きるまで、あと5秒。