【小話7】
猛毒瓶2つを入れた鞄の口が閉じないことに、私は閉口していた。
たった瓶2つだけなのに。この鞄バグってる。と思ったけれど鞄に対して失礼な態度を取ると鞄さんのお怒りにふれるかもしれないので口を閉ざした。
偶然「毒液」を手に入れた私は、リカさんという方に猛毒瓶を調合してもらった。
まだ杖じゃなくて枝を持っていた頃のことだ。
ただの往復さえドキドキするような王都への道中で、最悪それを投げれば逃げることはできるというのはとても心強かった。
殴ってもせいぜい2、駆け出しの魔術師などそんなものと言われても、よってたかって介護してもらわなければいけないのはちょっぴり心苦しい。
他にもっとすごい敵にかかりきりになることだってあるかもしれない。
だから、多少値段が張っても、いざというときの猛毒瓶というのは命綱となり得たのだ。
しかしひとつ重要な問題があった。
重い。
重いのである。
私の鞄にはせいぜい猛毒瓶は8つしか入らないのだ。
8つの猛毒瓶だけ持ってる魔術師って嫌だけど。
「一個今使って…いやこれは売って…誰かが助けてくれるかもしれないし…いや…」
エネミー前にめちゃくちゃ悩んだ。
変身バンクを待ってくれる敵に対する申し訳無さに似ていて、
へへ、すいませんね、ってちょっと笑っといた。通じたかどうかはさておき。
結局その時は通りすがりの方の力添えでエネミーを倒すことが出来たものの、
重量制限の壁はかわらず立ちはだかっていた。
「強いから重いのか、重いから強いのか…」
重いから強い…
何気なくぼやいた自分の言葉で、はっとした。
鞄さんも、中にものを入れて重くすればするほどに強くなるようだった。
つまり、やはり重さは強さなのだ。この世界においては。
「つまりこの世界で最強は……力士の可能性が…?」
まさかね。
私は首を振った。でもそうだったら面白いとは思う。
魔王を重量で倒すという発想。伝説の勇者が巨漢だったというのはかなりキャッチーだろう。
ともあれ、緑ール(※ミッドリールのこと)で新しい杖を手に入れたことで
より重くなってしまった旅の荷物を減らすため、猛毒瓶はひとつは売り、もう一つは戦いの中で遠慮なく投擲させてもらった。
毒をうけて苦しみながらしぼんでいくエネミーに、オツカレと思ってしまったし、あの毒をホイホイ持って歩ける錬金術師は絶対に敵に回したくないと思った。
たぶんちょっとでもかかったら点滅しながらノイズ音発生させて歩くことになると思う。
だからこそ知恵でありスキルなのだろうけど。
たとえ毒であっても、死ぬときはなるべく苦しみたくないものである。
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一方そのころ、夜空に一筋の流れ星が落ちた。
王都のどこかで、力士の冒険者が生まれしようとしていたというのは、また別の話。