金カム178話。回想回続く。維新の三傑と長谷川写真館急襲。
前回に引き続き、キロランケがアシリパ他同行メンバーに過去を語る回想回。
今回でも話が終わりません…読者が生殺しですnd先生。
回想の舞台は、長谷川がキロランケ・ウィルク・ソフィア3人の記念写真を撮影しながら、「維新の三傑」について語る所から始まる。
前回のラストでキロランケとウイルクの指名手配書を見た長谷川は、妻・フィーナに、しばらく実家に帰り自分が行くまで「絶対に戻って来ないと約束してくれ」と言い含める。そんな事態を知らず、長谷川の元に向かうキロランケとウイルク。ソフィアが先に来て待っているところを見ると、もしかすると男二人と彼女では潜伏先が違うのかもしれない。彼らと入れ違いに、赤子を抱いて郊外へと向かうフィーナ、そして彼女とすれ違う謎の黒い一団。
長谷川宅を訪れたウイルク達に、長谷川が「もうここに来てはいけない」と、ウイルク達を立ち去らせようとするが、そうする間もなく何者かが写真館の入口に訪れる。応対する長谷川の様子を物陰から様子を窺い、相手が「オフラーナ(秘密警察)」だと察したウイルク達は即座に行動開始。建物が包囲されている状況を確認、ソフィアが小銃(どこから出した)で入口にいた男を殴り倒すと、キロランケが男を引き込み、ウイルクが座らせ拳銃を突きつけて尋問を始める。だが男はウイルク達の事は知らなかった。長谷川は日本軍のスパイで、オフラーナは彼を捕まえに来たのだ。
「おおかた他のスパイがロシアの秘密警察に捕まって、長谷川さんの情報を吐いたんだろう」と語る現在のキロランケ。
写真館を包囲するオフラーナと交戦を始める三人。尋問していた男を人質に取るウイルク、援護して冷静に捕り手に発砲するソフィア。長谷川はキロランケを二階に呼び、カメラ機材と三脚台の中に隠していた機関銃を組み立て、窓からキロランケに応戦させる。
ウイルクの「ひとりも逃がすなッ」に応え、外に飛び出し負傷して逃げる敵を追うソフィア。だがその最中、落ちていた手配書でウイルク達の正体を知って戻ってきてしまったフィーナに悲劇が。
回想がまだ中途なこともあって、前回で生まれた風説への判断含めざっくり断片的な感想。
・前回の描写から、長谷川はおそらく諜報員(スパイ)として市街の写真を撮っているんだろうとは思っていたし、今回は下手すると一家全滅家に放火、と覚悟してたけど。フィーナさん…なんか、撃たれた位置的に赤ん坊のオリガも危うい印象。
オリガ=スヴェトラーナ説も一瞬考えたが、舞台の現在が1907(or年明けて1908年)年、回想内が1891~94年?で、1904年の日露戦争開戦前にほとんど成人した姿で写真に納まるのは無理、という判断に至りこの仮説は放棄。
・ソフィアが、最初物陰に隠れてた時はなんか可愛い顔だったのに「オフラーナ」の一言で豹変し、いきなり銃床で殴ってくるあたり「ほとんど杉元じゃないか」と思う切り込み隊長っぷりだし、ウイルクも顔色一つ変えずに拳銃のグリップで尋問相手をガシガシ殴る。キロランケも機関銃を容赦なくぶっ放す。よく訓練され、戦い慣れている感。完全に歴戦の戦士。
大久保利通の「目的の為に手段を選ばない姿勢で冷酷に取られるが、強い意志で決断し行動できる人」というのがキロランケのイメージするウイルクに被せられている、というのが。「ひとりも逃がすなッ 逃がすとすぐに仲間を連れて追ってくる」という冷徹な姿勢、網走監獄に攻め込んだ時の鶴見と一緒じゃないか。
・前回辺りからちらちら聞かれる「ソフィア=アシリパの実母」説について。
確かにソフィアとアシリパの些細な表情や態度の類似、そしてソフィアに重ねられた西郷隆盛像の「誠実で義理と情があり、軍を指揮する才能に長けて人望のある親分肌」という長谷川の解説が、アシリパの印象と一部被ってくる部分を今回も描いて来ている風なのは感じる。しかし一方キロランケの観測として、ソフィアがウイルクに幾ばくかの好意を寄せている様子なのに対し、ウイルクの態度がソフィアに「革命の同志」以上の感情を持っていない風に見受けられる。
(キロランケがウイルクに「あんたが『一緒に来てほしい』といえば 彼女はくる」と言うが、ウイルクは無表情のまま。彼女に何の感情も無いのか、それとも何か別の意図があるのか。)
他にも色々理由があって直接の「娘」説については私は否定的な予想をしているけれども、その辺については記述を別にしたい。
ではこのアシリパとソフィアにかかるオーバーラップ的な描写は何なのか、という事を考えて、「この回想はキロランケの記憶をベースに描かれたもの」という視点から現在辿り着いているのは、キロランケ自身がアシリパとソフィアを重ねて見ている表れであり「最終的にアシリパをソフィアの後継者、それも民族独立でキロランケと目的が一致したリーダーにしたいと考えている」ということを表しているのではないか、という疑いである。
杉元がのっぺら坊に話した「不殺のジャンヌダルク」のような存在ではなく、自ら銃を取り戦い仲間を率いる『革命の戦士』。血筋の問題ではなく、より実質的な、精神面・行動面も含んだソフィアの後継者。ウイルクのように、ソフィアのように、革命のために堂々と銃を手にする民族独立運動のリーダーとして、アシリパの行く末を導きたいのではないか。今回の殺伐とした対オフラーナ戦描写、そしてそれを良くなかったこととは思っていない様子のキロランケの姿を繰り返し見ているうちに、そんな印象を受けた。
だとすると、アシリパの対人不殺を一番破らせたいのはキロランケ、ということになる。義弟にこっそり捕虜を殺させようとした尾形どころの騒ぎではない。
もっとも、この回想の描写総てをアシリパに伝えているかどうかは判らない。最後のコマの悲劇が、ソフィアの現在に影を落としているであろうことも、おそらくは次回に示されることになるだろうと思う。正直、自分でもいささか怖気のする想像なので、あまり当たって欲しくない気もする。
ソフィア、お腹周りがぼってりして見えるのが気にかかってはいますけどね…危険を伴う逃亡・潜伏生活中に妊娠して身動きの取れなくなるような判断や行動を取る人に思えないし動きも妊婦に見えないし、ロシアンタイマーと区別が付かないのがなんとも。nd神の留め足描写だという気がしないでもない。
日本語を長谷川に教わりながら、日本に渡ることをソフィアが迷う(この時点では3人とも、追手を逃れるために日本に渡ろうとしている?)のは、ロシアへの愛着が強い故か、まだ戦い続けたいという意思があるからなのか。
・対オフラーナ戦、フィーナとすれ違って向かってくるのが最低7人。うち写真館内部で人質になったのが1人、入口前で倒れてるのが1人、やや離れたところに居てソフィアに窓から撃たれたのが1人、キロランケが機関銃で倒したのが2人、肩を撃たれた所を逃げようとして飛び出したソフィアに撃たれたのが1人。…最低一人、動向が不明。
・長谷川=鶴見?説について。
富士額や眉の辺りが似ているけれども、鼻やあごの線は差があるため、本人ではなく「鶴見の身内」なら可能性があるかな、と思っていたのだけれど、今回見直して目や鼻の描き方の違いが結構気になるのと、各パーツの位置に差がある(長谷川は鶴見より、顔のパーツが中央寄りにある)感じなので、前回読んだ時よりはややネガティヴな判断をしつつある所。
ただ、鶴見にも現在『金塊騒動のきっかけとなったアイヌ人惨殺事件の5~6年も前(1896年頃)に、なぜ月島獲得の為に行動を起こしたのか』という謎があり、長谷川がこの事件を生き残って日本に帰国した場合ここに何かしら関与した可能性が否定できないので、今後の動向がかなり気にはなっている。まずは次号。
・前回ハーフ&ハーフだった白石が全部丸坊主になってしまってる(´ー`) 多分単行本修正案件ですよね、これ。