2019/9/8(日)藤巻先生講演会の覚え書きです。物作り全般の話もこれまで作った作品についての話もあまりにも面白かったです……! メモが取り切れなかったので、事実誤認があったら申し訳ありません。ご参考程度に!
【第一部・トークショー】
・週間連載で、月火水木金土日とあって日曜日が締め切りだとすると、大体のスケジュールは、
月:打ち合わせ
火~木:ネーム
金~日:作画
藤巻先生はネーム3日くらい。2日は考えて、1日~1日半手を動かす。
黒子初期の頃は打ち合わせして1日でネームを考えて担当さんに見てもらって、半分くらい没→直す→没→直すで木曜くらいにネーム完成。
黒子後期になってくると「こういうのを描くと直しになるだろうな」などが分かってくるので、もう少し省力化されていた模様
週間7日間をどう使うかは作家によって違う。
藤巻先生作画は「ネームで大体出来上がっているので、あとは全力で描くだけ」
藤巻先生「この1週間を275回繰り返すと、『黒子のバスケ』ができます」(全30巻……!)
藤巻先生「1週間で19ページ描くと1ページいくらで原稿料がもらえます。本を出すと印税が入ってきます。お金がもらえるってことなので、価値を生まないといけないんですけど、漫画の「漫」って適当ってことで(漫ろ/そぞろ/みだりに、みたいな意味合いか、編集さんが補足してました)落書きの延長。遊びを全力でやる。普通は落書きは遊びだけど、たまにいるんですよね。遊びに命をかけちゃう人種が」
「今思いついたので喋るんですけど、漫画を描くということは、公園でみんなが大道芸をやっているようなもの。やったらお金がもらえるけど、隣の人と同じ大道芸をやっても見向きもされない。差別化をして、お客さんにきてもらわないといけない。好きな漫画があると「それ」を描きたくなるけど、同じでは意味がない。」
漫画家になる人ってどんな人? 必要な特性は? お客さんから出た意見に対して、
藤巻先生「絵が上手い。大事ですね。絵が上手いに越したことはない。
想像力が豊か、色々なものに興味がある。必要です。
すみっこぐらし(学校ですみっこのほうで絵を描いている)すみっこではないほうがいいと思う。
ドMであること。自分はSです、どっちかっていうと」
藤巻先生的に漫画家向きの特性は、
(1)自分の世界を持っていること。
好き・嫌いをはっきり言えること、「何でも好き」より自分の意見があること。
絵についても最初は模写から入っていて、「どう同じ絵が描けるか」だったけれど、だんだん「どう人と違う絵を描けるか」模写より自分の絵を模索するようになっていった。
(2)バランス感覚
凄いことを主役がしたときや、破天荒な行動をしたとき、それが世間一般からズレていることを指摘したりするキャラを配置するような、「普通の感覚」。
売れている人は結構まともな人が多い笑
上手に立ち回れるし、どれだけ「ズレているか」が分かっている。
(3)努力
努力が8割。自分の世界を持っているとか、バランス感覚はそれぞれ10パーセントずつくらい。
先天的なセンスとかより、知識や技術を磨くことあってこそ。絵やお話、色遣いなどはたくさんの勉強の積み重ねのたまもの。身につけていけるもの。
藤巻先生「主人公チームの(誠凛の)ユニフォームは最初変な色だったけど、初代担当に「もっとちゃんとした色にして」と言われて赤・白・黒になった。その3色にしたのは、錬金術の世界で大事な色らしいということを、タイガーウッズの験担ぎの話から知っていたから」
何を考えて描いているか? について。
藤巻先生「僕は少年漫画を描いているので少年誌の理屈なんですけど」
(1)打ち合わせ
藤巻先生的には流れ、その週の見せ場、引きくらいは決めておきたい
(2)ネーム
藤巻先生が最優先しているのは「読みやすさ」。
絵の構図、吹き出しの配置、台詞のひらがなカタカナ漢字なども読みやすさを意識して決めている。
コミックスでは台詞の修正は病的にやる。
あと吹き出しをミリ単位で直したりする(位置? 大きさ? メモしそびっている)
コマ割りのリズム感を大事にしている。
コマの大きさイコール重要度。いい感じに強弱がついているか、本をめくったときに大コマのほうがインパクトがある(めくり)のでその配置など。
理屈型と感覚型で言ったら理屈型。
基本全てのコマの意図を説明できるくらいの意図をもって描いている。
尋ねられたらこのためのコマです、って答えられる。
(3)作画
どれだけ魂を込めて絵が描けるか。
静かなところなどから描いて、エンジンが掛かってきたら決めコマを描いたりする。
藤巻先生は人物を描くときは当たりをとって、大きめの絵のときは目から描くことが多い。
試しに、とホワイトボードで描いて下さった黒子さんは、
目→顎(輪郭)→耳→鼻→口→髪の順。
スポーツを扱った作品が多いので、全身を描くときは重心に気を使っている。
例えばまず顔の位置を決める。この時点で藤巻先生は絵の完成図は見えていない。
当たりを取りつつ、重心がそれっぽくなかったら当たりを微調整しつつ、自然なポージングを作っていく。
走ってきて止まってジャンプするっていうのを描くとき、まっすぐしゃがませるのではなく、エネルギーの動きによって重心を変えたりする。
「絵が上手くなったけどどうやって?」と訊かれることがあるけど、単純にPDCAサイクルを繰り返してきた。
藤巻先生「当たり前じゃね?」「プランはぶっちゃけどうでもいい。やって、どうしたらよくなるか考えて、改善して。自分は絵がコンプレックスなので、何でこんな下手なんだ? というのをチェックする。自分の癖などを自己分析して、週間19ページ毎週それを全力でくり返したら、そら上手くなる」
「才能って言葉は好きじゃない」
編集さんから、もうそこそこ上手くなったからいいや、的な気持ちにはならないのかと訊かれて藤巻先生「絵がコンプレックスなので、「わりと上手くなったからいいんじゃね?」という瞬間はない」
【第二部・質問コーナー】
問:作画について
「自分のところまでゼブラのGペン、製図インクで描いて、PCで取り込みをする」
問:キャラの作り方
「出産型かな。全く別人を作るというより、作中で人物がいうことは自分自身が思っていることが多い。自分がやったこと、アルバイトなどの中で観察した人から膨らませることが多い。ここにヤンキーの人がいたら申し訳ないんですけど、基本ヤンキーが嫌い。だからヤンキーを描くときはテンプレ気味になる」
問:面白いキャラを作るメソッドがあれば教えて下さい
「ギャップ。突拍子もなさすぎない程度に意外性を作る。逆にひとつの方向に特化する、突き抜けることもある。例えば赤司のイメージはキング。王様、その要素をひたすら強める作り方をした。ギャップはあまり重視していない」
問:黒バスは連載終了したけれど続いていくのか
編集さんと「黒バス2的なこと?」「続編ってこと?」と言い合ってから、
藤巻先生「集英社がやらせてくれたら。考えてはいる。いつだかは分からない」
編集さん「続編は絶対にやらないという作家さんもいるけど、絶対にやらないというわけではない?」
藤巻先生「うーーーーーん、そうですね。続編というものにいいイメージはないので、この「黒バス2」なら自分も好きになれるかな、と思ったらやると思います。とりあえずやるか、という適当な気持ちではやらないと思う」
問:売れる売れない関係なしに描きたいもの
「バトルやファンタジーをやりたい。ドラゴンボール世代だから。ただそれがあまり得意なジャンルではないことを自覚もしている。ジャンルとしてそれを描いていたことはバスケにも活かされている」
問:第一部で誠凛のユニフォームの変な色の話がありましたが、実際元々どんな色だったのか?
エメラルドグリーンみたいな色
問:作画のアナログ・デジタル
キャラのペン入れまでアナログ、アシスタントさんのベタやトーンなどはデジタル。
基本アナログの味が好き。Gペンの、生と同じいい意味でのズレやルーズさが出るようになったらフルデジタルを考えなくもないけど、周囲のフルデジタルのプロが最終的に「一番はアナログ」といっているのでしばらくはないかな
問:作画にかかる時間
下書き1ページ一時間、ペン入れ1ページ一時間が基本。
マジでやばいときは下書き20分、ペン入れ20分くらいが最速。
そういうマジでやばいときはゾーンに入っている。
作画中はイヤホンで音楽を聴いているけど、その音が聞こえなくなる。
問:黒バス各校にイメージカラーなどはあるのか
「あるっちゃある。ないっちゃない」
各校キセキの世代というのがまずいて、ユニフォームのカラーはその色との兼ね合い+チームの雰囲気で決めている。
黄瀬のユニフォームが黄色だったら全身真っ黄色になっちゃうでしょ
問:全コマ意図を持って作ったようなネームが没になったら辛くないですか
没はショックはあんまりない。意図を持って作っているからこそ、担当さんも意図をもって直してくれるものに対して、違うと思ったら違うと言うし、それで(直して)もっとよくなるなら御の字。自分の人格を否定されているわけではないし。
問:プロになって身体の変化はありましたか
ペンだこ、ゴルフだこ(笑)、腰痛、腱鞘炎
問:スポーツ倫理学は勉強していましたか
ないです。スポーツを勉強していたように見えるなら、自分がスポーツをちょろちょろやっていたので、自分がこう思うということが反映されているからかも
問:登場人物の対比はあるか
「あります」
人物同士が話さないと話が進まないので、話し相手を作ってやる必要がある。
例えば青峰は部活に出ない、じゃあ「部活出ろよ」って言うやつが必要、となる。
対比については意図しているときとしていないときがある。
問:黄瀬率いる海常が2年3年は勝利しますか
2年3年のことはナイショ。
連載中も誠凛が勝つか負けるかはどうしようかって結構考えていた。
流れは大体決めているけど、より面白くなるなら変えても構わないと考えていた。
藤巻先生の机には「進行より心情」というメモ書きがある。
このキャラはこういう展開をしたら不自然、というときは、ストーリーの進行をこうしたいということよりキャラクターの心情を優先させるという意味。
どうしても不自然でもその行動を取らせなければならないというのであれば、サブキャラクターを使ったりしてそれをする状況を作るようにする。安易にやらせてしまうことはしない。
問:キャラクターの名前の付け方
分かり易さを意識している。
凝った名前は覚えづらい。キャラクターをなんとかして覚えてほしいので、それを考える。
名前に色がついてますよ、こいつ重要なので覚えて下さいね、と思っているので下の名前はそれを邪魔しないように普通めに、などを意識している。
問:連載が決まらなくて不安なときはどうしていましたか
不安がピークになるとベッドで泣いていました。
とにかく描くしかない。
問:お話は最後まできっちり決めて描くか
お話は組み立てすぎない。キャラクター次第。描いてみたらこうなった、はままある。
とりあえず方向のみ決める。
最終回は決めたくない派。ジャンプでそこまで描けるか分からないし、「ここ」と決めてしまったら、もっと面白く発展できるのにそっちに行けないかもしれない。
問:マンガを描くのは好きですか?
「好きです」。きっぱり、早かった
ただ絵とお話なら話を作りたいタイプ。ネームにウェイトを置いている。
問:黒子以外のキャラクターを主役に黒バス世界を描くなら誰がいいか
「誰っていうか、誰でも描いてみたい。黒子視点は結構描いたので、逆にそれ意外の話は全部興味ある」
問:質問メモしそびれ 何のために描いているか的な問い……?
絵は描きたいけど、描いたあとのチェックの段階はかなりキツいので、漫画を描くのはしんどいところもあるけど、しんどいのを乗り越えて喜んでもらえたら幸せだから描いている
問:話を作るとき冒頭と引きの繋がりを意識するか
話を初めで振って、最後で引く、とかは言ってしまえば定番。分かりやすい、基本の親切設計。なので意識している。
問:一番好きなキャラを教えて
元気なやつが好き。主人公がしっとりしたやつが続いたので、火神とかそうですけど、作中で叫んだりストレス吹っ飛ばしてくれるやつ
問:藤巻先生のキャラクターは目が印象的ですが、好きな目は?
目は重要だと考えている。
例えば黒目の焦点がどこを向いているか、コマによってはミリ単位でズラすとどこ見ているかわからない気持ち悪い表情ができたりする。
目とセットなんですけど眉毛は表情が出るので結構頑張っている。
好きな目は紫原の伏し目がちな目。理由はないけどなんとなく好き。
紫原は打ち合わせの段階では、「こーゆー目のやつ出そうと思うんですけど」と目だけ描いて伝えた。「は?」って言われましたけど。
問:描きやすいキャラと描きにくいキャラ
感情表現の豊かさによる。主役達は無表情で、ちょっと眉が違うとかだけで別人みたいになってしまうという意味では描きにくい。喜怒哀楽が豊かな人はどんな表情でも「そのキャラ」という感じで描きやすい。
問:新作を作るときはいつもどこから作るか
描きたいワンシーンから。黒子であればパスシーンから作った。
こういうシーンが描きたい、から膨らませることが多い。
キャラもセットである場合が多くて、黒子なら「こういうキャラがこういうパスをしたら面白いだろうな」とか。
問:次作のキーワード
今興味あるキーワード、この間の打ち合わせで出たのは「サーフィン」。「サーフィンどうすか、って」。ただ実現の可能性は相当微妙