【小話4】
旅の荷物の整理は重要事項だ。
観光であっても、なるべく荷物を少なくするほうが旅慣れているとはよく聞く話。
けれど、その荷物の重さを逆に活用している人がいるというのは、この世界で冒険を始めてからはじめて知ったことだった
私は正直、旅の荷物の整理は上手じゃない。
相方であるイズちゃんは軽装備の職業なので荷物がコンパクトだが、
自分の方はというと……いつのだったかよくわからないクエストのチラシが鞄の底に丸まってるタイプだ。
だから、荷物が多いというのは旅には不利だと思っていた。
彼の名前は――いや、実は名前を聞いた覚えがない。
だから勝手に鞄さんとよんでいる。
鞄で戦い、鞄で身を守るから鞄さん。わかりやすくて良い。
鞄さんは道中エネミーの攻撃にあう私達を助けてくれ、その鞄の有能さを教えてくれた。
影が街道を横切ったかと思うと、真っ赤でがっしりした巨大な鞄がエネミーを押しつぶしていた。
「鞄殴りだ」、と彼は述べた。
付近で「ちびオオカミ」と言われているオオカミ型のエネミーに囲まれたときは、
「防御をするときはカバンに隠れてやり過ごせばいい」と、私を鞄の中に隠してくれた。
鞄に隠れるとは。
聞けば、この鞄の中には住み着いている住人もいるらしい。
その住人にはお会いできなかったが、ここは野菜が意思を持つくらいの世界だ。
きっとフェアリーとか、お野菜とかが住んでいるのだろう。
想像したら可愛らしくてちょっぴり頬が緩んだ。
率直に言って、魔法使いのたぐいの方だと思っていたが、あくまで商人だとのこと。
そも、鞄の素材自体もとても硬いのではないだろうかと思うのだけど、持ち上げられる彼の筋力がすごいと思う。
ただの商人じゃない、ぜったい。
結果にコミットしているか、そうじゃなかったら鞄のほうが意思を持っているか。
そういえば鞄の中が異空間になっている物語ってあったな。
そういうやつかもしれない。
と…脱線。
ちなみに、あとから風のうわさで、「鞄の魔術師」が初級冒険者を助けたらしいと聞いた。
絶対あの人だと思う。
鞄殴りってすごい。
あらためてそう思った。