シナリオ『目覚めの声』
・一から書いたシナリオだったので、同卓PL向けに公開した方が便利かなと思っての投稿です。
・しかし、恐らく立春探偵でしか回せないシナリオですが、改変、シナリオフック、アイデア、着想などに使って頂くぶんには構いません。元のシナリオの作者が水城である事だけ表記頂ければ幸いです。
――――――――――
本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc.
;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」
――――――――――
『目覚めの声』
――目覚めよ魂、その声で。
(ヨグ=ソトースの化身として目覚めさせようとする声)
(引き戻そうと現世への覚醒を促す豊後さんの声)
■概要
――――――――――
ヨグ=ソトースの化身(門の守護者/タウィル・アト=ウムル)は、気まぐれに新しく作り出そうとしている化身の依り代として出自からして親和性の高い佐倉吹雪を選んだ。
佐倉は夢を介して侵食されているのでここのところ眠いが、夢自体は覚えていない。完了寸前に気付いた佐倉は《夢》の呪文で干渉し、自分の夢の世界に引きこもって自己防衛した。自分の精神力だけでは跳ね除けられない(POW抵抗に勝てない)と悟った佐倉は豊後敦に助けを求める。自分の夢に豊後にも干渉してもらい、疑似的に過去の自分と話してもらう事でタウィルに抗う精神力を何とか得ようと思ったためだ。
豊後は夢の中で昔の佐倉と対話し、彼を勇気づけ現世へとどまりたいと強く思わせ(精神ポイントが加算され)れば佐倉を助ける事ができる。対話(RP)中心のシナリオである。
コンセプト:
佐倉が2卓目で言った「ねぇあっちゃん、俺が怪物になったとしても、それでも友達でいてくれるかなぁ……」のRPを回収したい。自分で言ったんだから佐倉は責任取ろうねぇ……。
今の豊後さんに色んな年代の佐倉と話して欲しい。
※シナリオ中の台詞はあくまでも一例。臨機応変のこと。
■導入
――――――――――
佐倉が来る予定の日、珍しく『ごめん寝坊した! 今起きた、遅れる!』という連絡がある。急いで走ってやってきた佐倉は眠そうだ。ここのところ確かに眠そうな様子はあったが寝坊したのは初めての事だ。
「締め切り近かったからかと思ったけど違うのかなぁ」申し訳なさそうに言う佐倉に他に心当たりは無さそうだ。その日は特に何もなく、適当にRPをして閉じる。
しかしそんな事が何回か続き、佐倉は医者にも行ったが異常ないと診断される。強いていえばストレスかもしれないのでよく休むように程度だ。
とうとう事務所で一瞬寝落ちしかけた佐倉は気弱に謝る。
「ごめん、迷惑かけてる。俺治るまでは午後からとかにするね。それとも、来ない方がいいかなぁ……」
「お客さんが来るかもしれないのに人の職場で寝そうになってるのはアウトだよね。うん、やっぱこれはダメだよ。人としてナシ」
「……あっちゃんに会えないの、寂しいなぁ」
■電話
――――――――――
それから数日。
佐倉が異変を察して自己防衛のため呪文により眠りにつく直前に、豊後に電話をかけて助けを求める。時間がないので簡単で、取り乱しているのか言っている事がやや支離滅裂だ。
「あっちゃんごめん、助けて」「俺、気付くのが遅くて、もう時間がないの」「自分の家にいる」「もう呪文は使う気なかったんだけど、これしかなくて」「頑張るけど、すげー怖い。きっと俺、一人じゃもう起きられないと思う」「巻き込んじゃうけど、でも、ごめん。お願い、敦さん、助けて……」
※佐倉のステータスからMP-8・SAN-1。
■佐倉の家
――――――――――
佐倉の家を訊ねると、鍵はかかっているがスペアの鍵を渡してあるので開けられると思われる。
ワンルームの部屋には目立つ家具は机と本棚くらいしかない。そしてベッドでうなされながら寝ている佐倉がいる。枕元にはスマホがあり、通話を終了した画面のままだ。何をしても彼は起きない。
掛け布団をめくると右手が淡く光っていた。(めくらない場合〈目星〉や佐倉の様子を窺うという宣言で光に気付く)。なんだか認識が歪むような、右手の実態が本当にあるのかと、不安が掻き立てられる印象を受ける。正気度ロール0/1。その手は胸元にかかるペンダントを強く握りしめていた。
机には急いで出したように乱雑にノートが残っている。本棚の一部が少し崩れていてそこから引っ張り出したのだろう。辞書や翻訳関係の本なども一緒になっている。
ノートには付箋が貼られており、そのページに《夢》の呪文の書かれている。佐倉が翻訳して要点をまとめているので読むだけで呪文は習得できる。
〈目星〉でそのページの端に分かり難く『ごめん』と書き込まれている事に気付く。ボールペンのインク溜まりの渇き具合からしてこれは直近に書かれたものではないだろうと思った。(島の時の書き込み)。
《夢》※悪夢の亜種とする。
術者が自分もしくは対象にした人物に好きな夢を見せる事が出来る。呪文を唱えると対象にされた者は眠りに落ちる。もしくは《夢》により眠っている者に干渉すれば、その者が見ているのと同じ夢を見る事が出来る。術の対象とするにはその者の名前を知っていなければならない。近距離にいる者ならば一度に複数人にかける事が可能。コストMP-8・SAN-1。
ノートを読み上げると自然と歌うような祈りのような旋律が口から零れた。不思議な香りが辺りに漂ったように脳が錯覚する。やがて、眠気が襲って来た探索者はそれに身を委ね、眠りに落ちるだろう。
■夢の中
――――――――――
それぞれの年齢の佐倉と話す。精神力ポイントを設定。これが最後のPOW抵抗ロールのポイントにプラスされる。
※佐倉は年相応の対応をするが、記憶は現在のもの。多少当時の豊後と辻褄が合わなくても、補正して喋る。ただし今起きている事にはわからないと答える。これについては現在の佐倉しか答えられない。
※夢はあくまで佐倉が設定し、それに豊後が干渉している状態なので主導権は佐倉にある。
※空間から出ようとすると端からループしている。正気度ロール0/1。
※ここでココフォリアに佐倉の精神力ポイント入力ラベルを増やす。
佐倉が嬉しいと感じたら+1。クリティカルな台詞が入ると高いポイントが入る。他適宜佐倉の感じ方によりポイントの配分を決めること。目安は1シーンにつき5ポイントくらい。
各シーンに例としてクリティカルの台詞を設定するが、あくまでRP方針に困った時のためであり、これでなくてはいけない訳ではない。
・小学校低学年佐倉
目を開くと、外だった。緑が多いそこがどこかはすぐにわかった。公園だ。見覚えがある、というどころではない。子供の頃に通い詰めた、と言っても過言ではない程に長い時間を過ごした場所だ。その公園のベンチに座っている状態であなたは目が覚めた。
唐突に、てんてん、と足元にサッカーボールが転がって来る。「ごめんなさーい、ひろってー」どこか聞き覚えのある、しかし長い間耳にはしていない、甲高い子供の声がした。ボールから目線を上げると小学校低学年の子供が息を弾ませて駆け寄って来ていた。佐倉吹雪だ。あなたの記憶にある、あなたが出会った頃の子供の佐倉の姿だった。
「あー、あっちゃんだー!」佐倉は無邪気に笑っている。「ねぇ、ボールちょうだい」と言って両手を差し出す。拾って欲しいという事らしい。受け取った佐倉はしかし、遠くで遊んでいる子供の方へと投げると戻る様子はなく、あなたの座るベンチの隣に当たり前のように、飛び乗るようにして腰かけた。どこから見ても天真爛漫といった様子で、懐かしさを覚えるだろう。
〈アイデア〉で当時の風景だとわかる(今は撤去された筈の遊具がまだあるなど)。また、この佐倉は豊後の今の姿に違和感を覚えていないように見える。
「俺と話してくれたら、たぶん、なんかうまくいくから」今の状況についてもどかしげに少ない語彙で伝えようとしている。まるで現在の佐倉が、当時の佐倉をインターフェースにして話しているようだと感じるかもしれない。
「会ってから一ヶ月くらい……?」「サッカーはべつに嫌いじゃないよ、嫌いじゃないけど……」「うまく言えない」
「そーだあっちゃんこれ!」佐倉ポケットから簡単にラッピングされたクッキーを出した。中には10枚ほど入っている。「この間あっちゃんの家のお菓子くれたから、おかえし! かーさんが焼いたクッキーだけど」「なんか、裏の字がよめないお菓子くれたじゃん」
「ねぇ!」思い付いたように佐倉は声を上げる「さくらちゃんって呼んでみて、一回でいいから」「いいじゃん呼んでよ~!」「ふふ、へんなかんじー」佐倉は口元を押さえながらこそばゆそうにきゃらきゃらと笑う。「やっぱりさくらでいいや」「呼んでみてほしかっただけだよ。一回でいいから」
「そういえばあっちゃん誕生日いつ?」「あっちゃんのことなら何でも知りたい!」「もう過ぎてるじゃん、どうして教えてくれなかったの!」「来年! 来年はちゃんとやるからね!」「ほんとにほんと?」「だって、ずっと祝えるかわからないもん……」「次は? その次は? あっちゃんはずっと俺といっしょにいてくれるの?」
「ありがと、俺はもうだいじょうぶ」「だから、次おねがいね」そう笑った佐倉を最後に視界がホワイトアウトしていく。
Cポイント:さくらちゃんと呼んでもらう+3。
・中学生佐倉
白く塗りつぶされた視界に目を閉じ、再び開くと、しかし場所は変わっていなかった。あなたは公園のベンチに腰掛けたままだ。
「あっちゃーん!」目の前に立っている人物から声をかけられた。同じく聞き覚えのある、しかし先程よりは少し低くなった声の佐倉吹雪だ。
「ね、似合う?」彼は学ラン姿であなたの前でせわしなく動いている。正面と背中を交互に見せたりと落ち着きがない。「制服出来たから早く見せたくて。どーかな?」
「歳が離れてるから一緒には通えないけど、でも同じ制服なんだなーって思うとなんか嬉しいな」「ねえ中学ってどんなかな」「あっちゃんは中学の頃どうだったの、そういえば俺と会った頃だよね」
「俺、あっちゃんに会えて良かったなぁ」「じゃなきゃもっと捻くれてた気がするし」「でも俺は良かったけど、あっちゃんは……どうなのかな。良かった……のかな」佐倉は不安そうに、訊ねると言うよりは独り言のように呟いた。
「あっちゃんと話せて良かった」「ね、お願い、俺を助けて欲しい」そう、少し寂し気に微笑んだ佐倉の顔が霞みながら意識が途切れる。
Cポイント:佐倉に会えて良かった+5。
・高校生佐倉
カランカラン、という音であなたはハッと目を開いた。後ろでドアの閉まる音がした。辺りを見回すと、見覚えのある地元の喫茶店だ。先ほどの音はあなたが入店し、ドアの鐘が鳴ったものだろう。
その店内の窓際の席に、高校の制服に身を包んだ佐倉吹雪が座っている。あなたが余り見ないような、つまらなそうな冷めた目で意味もなく外を見ている。
あなたが近付いて声をかけると(もしくは佐倉がふとあなたを見付けると)、先ほどまでの表情とは打って変わってわかり易く顔がほころんだ。
「あっちゃんだ!」「なんで居るの!?」「わー座って座って」「久しぶり、どうしたの、あと半年は会えないと思ってたのに」「不意打ちだよ、すっごい嬉しい」
メニューを広げて一緒に覗き込むようにする佐倉。「飲み物どうしよっか。選べる? 俺と一緒にする? それとも違うもの選びたいかな」「ご飯ものは無理に選ばなくていいからね」
「あっちゃん、なんか今日は元気そうだね。顔色いいもん。えへへ、よかったぁ……」
「あっちゃんに会えないとつまんない」「高校は……ううん、なんでもない」「へーき、うまくやってるよ」
佐倉はよく言葉を飲み込んでいる気がする。「なんでもないよ」とすぐにごまかしている。
「ごめんね、ちょくちょく意味の無いメールしちゃってさ! 迷惑だったら言ってね!」そう笑う佐倉の表情は、どこか無理をしているように感じる。
「嘘……」「あっちゃん正気?」「自分で言うのもなんだけど俺結構ヤバいと思うんだけど……」「え~、マジかぁ……」「俺はあっちゃんがいないとダメだけど、あっちゃんは俺がいなくても平気でしょ」
「寂しかったけど、あっちゃんに会えたからもうちょっと頑張れそう」テーブルに視線を落としながら呟いた佐倉の声が溶け、再び目の前は白く染まった。
Cポイント:佐倉の依存は隠さなくても良い+5。
・着地前の佐倉
あなたが4度目の覚醒をすると、そこはよく見知ったという言葉では足らない場所だった。あなたの城である探偵事務所の、事務机に座っている状態だ。と、おずおずと控えめに事務所の扉が開かれた。
「あっちゃーん……」と、明らかに元気のない様子の佐倉吹雪が入って来る。〈目星〉に成功すると佐倉の首元にペンダントの鎖が無い事に気付く。
※これは『犬神筋』の事件の日だ。豊後敦の当時の台詞は【】で表記する。
【最近いそがしいのか?】「うーん、うーん」と言おうかどうか悩んでいる様子でその辺をうろうろしている。が、改めて向き直ると「あっちゃーん、そのー、相談があるんだけど、いっかな~?」と切り出してきた。
【なんだ改まって】「うーん、どっから言ったらいいもんだか~」まだ気後れがあるのか佐倉はわざとふざけた空気を作った。「いや~でもこうやって俺がここであっちゃんに相談するのなんか変な感じだよね~」「あっ大丈夫? これ依頼料発生しちゃったりする?」【馬鹿か】「えっ、バカって何よ~。俺真剣なんですけど~」【じゃあいいから話してみろ。お前と俺の仲だろう】ぐっと言葉に詰まったあと真剣な面持ちになって「わかった。実はちょっと実家の周りに変な奴らがうろついててさぁ」
佐倉の言葉に、これはあなた達が最初に体験した"妖怪"の事だ、と気付く。あなたは改めて佐倉の言葉を聞き、この相談が本当の事を話していなかったのだなとわかった。
同時に、全く同じあの日の再現という訳でもないようだ。あなたの反応に合わせて佐倉の言動もあの日とは変わっているからだ。「あっちゃんどうかした?」思案していたあなたの様子に佐倉は窺うようにそう言った。
「監視カメラの設置とか、あっちゃんそういうの詳しいから、頼めないかなぁと思って」何も無ければ似たようなやり取りを繰り返しました。
「相談乗ってくれてありがと」「やっぱりあっちゃんが一緒にいてくれると、いつだってすごく心強いね」佐倉がへにゃりと笑うと、もう慣れた白さが目を焼いた。
Cポイント:嘘を吐かなくていい+3/紅茶を淹れてもらう+3。
・現在の佐倉
あなたがまたかと目を開けると、そこは見慣れはしないが少し前までいた部屋だとわかる。佐倉の住むアパートだ。
〈アイデア〉か〈目星〉で崩れた本棚も出しっ放しだった机上のノートも綺麗に片付いている事から、ここがまだ現実ではないのだと判断できる。
そしてベッドを見やると布団が丸まって、時折震えるように動いていた。微かに押し殺した佐倉のすすり泣く声が聞こえる。話しかけるとビクッと反応しておそるおそる布団から顔だけ出してあなたの方を向いた。「あっちゃん、助けに来てくれたんだ……」そう言った佐倉は頭から布団をかぶりくるまった状態のままベッドの上に座り直した。その言葉から今現在の佐倉だと分かるだろう。
「まだここは夢の中だよ」「わかんない。でもこのままだと取り返しがつかない事になる気がして。なんか、声が聞こえて……」「とりあえず自分の夢に逃げ込んだんだけど、いつまでもつかわからないし、このままの状態で夢から覚めるのはヤバいと思う……」「あっちゃんが来てくれたら何とかなると思って呼んだの。巻き込んでごめんね」「たぶん俺の心が折れちゃダメなんだよ。だから、あっちゃんさえいてくれたら、どうにかできるんじゃないかなって……危ないところに、わざわざ呼んでごめん、ごめんあっちゃん……」「でも俺、怖くて……」
佐倉は布の間からチラリと見える左手で、震えるほど強く布団を握りしめている。〈目星〉でなんとなく布団の中が光っている気がする。
「これは……」「わかんない、どうしよう、俺、俺じゃなくなっちゃうかもしれない」「怖いんだよ……あっちゃんに、どうしても、どうしても聞きたいんだけど、でも、聞くのが怖くて……」そう言いながら佐倉は泣いている。
意を決した佐倉がくるまっていた布団をゆっくりとはいだ。その右腕が、二の腕の辺りから球体の集合した悍ましい不定形のシルエットの肉塊に変化していた。その球体は虹色に輝き絶え間なく大きさと形を変え、お互いに引き合い融合したり、また分裂したりを繰り返して、渾沌と、永遠に泡立っている。
常軌を逸した形へと変化しかかった姿の佐倉はぼろぼろ涙を流しながら問いかける。「ねぇあっちゃん、俺が怪物になったとしても、それでも友達でいてくれるかなぁ……」
正気度ロール1/1D6。(※佐倉もここで変化したショックの正気度ロールを振る)。
Cポイント:友達だと肯定する+5。
【斜め上からの発想】
佐倉の変質した右腕。それは彼の家系を犬神憑きにした不可視の怪物――その更に上位の、親である強大で悍ましい神が佐倉を乗っ取ろうとしているのではないか? 咄嗟に閃いたのは余りにも飛躍した想像だったが、探索者にはそれが真実に思えてならなかった。
■対面
――――――――――
と、空間が揺らぎこの夢に異変が起きようとする雰囲気がはっきりとわかった。世界が細かな白い塵のようになって溶けてゆき、目の前の光景が塗り替わる。とうとう夢の呪文に何者かが干渉したのだろう。
そこは時間と空間の中で数え切れないほどの攪乱や混乱が起き、運動や持続として人間が認識しているものは一切感じられなかった。気が付かないうちに、時代や場所といったものになんの意味もない、時間の外側、あらゆる宇宙、あらゆる事象の外側に位置する果ての深淵にいるのだと否応なく理解させられた。
そして目の前には、識別できない色の空からの不可解で矛盾する方角に漏れ出した光を受けた、無色のローブで全身を覆った異形が佇んでいた。こちらを見やる気配はするものの、ローブには覗き穴が見付からない。恐らくは見る必要もないのだろう。輪郭がはっきりとは定まらないが身の丈が人の半分程で、人間の形状をどこか僅かに先行するか、類似したものじみていた。
その異形から畏怖は感じても、恐怖や悪意は感じない。今の所は。佐倉は怯えて右手をあなたに伸ばしかけ、変質したそれにハッとしてから慌てて遠慮がちに左手であなたの袖口をいつものように掴んだ。
「ようやく来たか」と、ややあって、その異形が音声も言葉も無しに、探索者達の心に話しかけてきた。受け取ったそれが言葉の形で精神的に通訳される。
「(誰だと聞かれた場合)私はタウィル・アト=ウムル。案内者にして門の守護者」
目の前の存在はあなたには興味がないとでもいうように、佐倉の方を向いた。「汝は選ばれたのだ。歓迎しよう」
その語りかけに、隣にいた佐倉があなたから手を離すと、胡乱気な足取りでふらふらと目の前の異形へ向かって歩き出す。佐倉の瞳はどこも見ておらず、意識が無いように思えたが足は勝手に進んでいく。(反応が無ければ引き留めるか訊ねる)。
手を掴むなどすれば簡単に佐倉の足は止まる。
「何故止める」目の前の異形は相変わらず精神への放射という形で話しかけて来る。
「気まぐれだが、『門にして鍵』は新たな化身を欲している」「その者は器として選ばれた。『門にして鍵』の一部を流し込むには適した成り立ちをしている」
「心配はない。その者がいなくなった事すら汝は知覚できまい」
「その者が器になり『究極の門』をくぐれば、そのようにこの時空間ごと書き変わる。この者は元から依り代であり、化身であり、地上には存在し得なかった。そのように認識が改変される。そう変わったことすら汝は知覚できない。だから何も問題はないだろう。それでなにか困ることがあるか?」
あなたの意思を問うように異形がローブの、ヴェールの向こうからあなたを見たような気がした。
全ての時空の佐倉の存在ごと世界の認識が改変される。つまり今まで全ての記憶・時間・空間・平行世界までもの佐倉もみな改変され抹消される、いや、最初から存在しなかったということになると。目の前の異形は告げている。
それと同時に、これは脅しや皮肉などではない、純粋な疑問で聞いているのだ、とあなたに伝わってくる意思からわかった。
・豊後さんに佐倉を連れて行かせたくない理由を答えてもらったら(+5ポイントしてから)抵抗ロールへ。
このPOW抵抗は25。つまり佐倉は自力では自動失敗になるので豊後さんに助けて貰わなければ(大量のSAN値を引き換えにしなければ)絶対に勝てなかった。
(※佐倉のPOWは12。+13ポイントで成功率50。+23ポイントで自動成功になる) 式はRESB(12+■-25) 【POW抵抗】
失敗した場合、成功数に足りなかった出目ぶんの佐倉のSAN値と引き換えに成功になる。(成功率80%で92で失敗した場合、佐倉のSANから-12して成功とする)。
抵抗勝利で意識が戻る。
佐倉の意識がはっきりと戻り、瞳が強い意思を宿し、そしてしっかりと口を開いた。
「いやだ、俺はそんな訳のわかんないところ行きたくない! ここからいなくなったりもしたくない! 俺は俺のままでいたい! 俺は、あっちゃんとずっと一緒にいたいの……!」
「あれ、俺、一体……」無意識だったのか、叫んだ佐倉がハッと呟いた。そして泣きながらあなたの袖を掴む。「あっちゃん~~~」
異形が今度は佐倉へと問いかける。「究極の門が開かれるのは一度きり。二度とは開かれない。いいのか?」対し佐倉は「行きたくない!」と、全力で訴えた。
「人間はこの先を必死に望むものだったが」不可思議そうな空気を出す異形は、しかし頷いたような気がした。
「だが、そうか。汝が恐れるならば前進する必要はない。さすれば無傷のままで、来た道を引き返すことができる」「汝らの世界へと帰るがいい」
その意識の放射を最後に、また目の前がほどけて白い無数の塵のように分解されていくのがわかった。夢も、あなたの意識も。
■あなたの声
――――――――――
目覚めると、そこは佐倉の部屋だった。本棚が乱雑に崩れ、机にはノートが置かれたままだ。今度こそ現実世界で目が覚めたのだとあなたはわかる。そして佐倉が寝ていたベッドがもぞもぞと動いた。佐倉も目を覚ましたようだ。
「……あっちゃん、おはよう」若干呆けたように佐倉は呟いた。「俺、目が……覚めたんだよね」「今回ばっかりは本当にもうダメかと思った……」
「一人だったし、なんか怖くないのにヤバいやつみたいな感じだったし、本当にもう、二度とこの俺は目が覚めなくて……俺じゃないものとして目覚めるしかないんじゃないかって。怖かった。凄い怖かったよぉ……」
「ごめん、もう二度と敦さんに俺の夢の中に来てもらうつもりは無かったんだけど。でも助けに来てくれてすっごい嬉しかった」
「あっちゃんの声、全部聞こえてたよ。あれのお陰でこっちに戻って来れたの。《夢》の呪文使う時ね、もう目が覚めないかもって思ったからさ。あっちゃんありがと、本当にありがとう……」
たとえ怪物に目覚めさせようと導く声が、宇宙の果てから呼ぼうとも。
あなたの声が聞こえる限り、あなたと生きるこの現実で目を覚ませる。
――クトゥルフ神話TRPG『目覚めの声』。シナリオクリア。
■正気度報酬
――――――――――
佐倉を連れ戻した 1D8+xD3
二人でたくさん話した +1D6
自動成功ボーナス +1Dy
x=佐倉へ適切な言葉(抵抗ロールに追加されるポイントが1度に3以上の台詞)をかけた回数。
y=佐倉のPOW抵抗が自動成功以上だった場合のみ、余分になったポイントの数値分をyとする。
※実卓ではポイントが想定よりかなり上がったため正気度報酬は若干削りました。