唐突に🐬🌸の死ネタの話をするけど、🐬は🌸が亡くなってもそんなに悲しまなさそう。
病室で彼女の最期を看取った時もいつものように穏やかで、むしろ愛おしそうに薄っすらと微笑みを浮かべてすらいる。逆に🌸が亡くなった知らせを受けた🐙や🦈の方が苦しそうなぐらいだった。葬儀でも普段通り涙一つ零さずに完璧に喪主を務めあげる。
番を失うことは人魚にとって何よりも耐え難いことだと聞いていたけれど特にそんなこともなく、自分自身でもこんなものかとちょっとがっかりしつつ🌸が亡くなってからも普段通りの生活を送っている。朝いつも通りの時間に起きて、朝食を作り出社し、🐙と🦈と働いて帰宅する。夕食を作り、紅茶を飲みながら恋愛モノのドラマを見て、眠りにつく。そういう日々を何か月か繰り返していると、そのうち見ていたドラマが最終回になった。
🌸とは唯一ドラマの趣味が合わなかったけれど、これはその中でも飛びぬけてつまらないドラマだったな、とエンドロールに入ろうとする画面を見ながら思う。🌸しか本気で愛したことがない🐬には、他人の恋愛を見て何が楽しいのかわからなかった。このドラマを毎週欠かさずに見ていたのは、🌸が死ぬ直前まで毎週楽しそうに見ていたからだった。
エンドロールに入って、ハッと🐬は我に返る。一人では広すぎる薄暗いリビングで、ドラマの内容にしては大げさなBGMが流れていた。
🐬は🌸が亡くなってから普段通りに過ごしていた。取締役である🐬よりも早く出社する🌸に併せて早い時間に起きて、二人分の朝食を作り、もう🌸はいない経理部に度々顔を出し、寄り道もせずに帰宅する。二人分の夕食を作って、紅茶を二杯淹れて、対して興味のない恋愛ドラマを見て、ベッドの右端に寄って眠りにつく。🌸がいなくなってから、🐬は徹底して「今まで通り」の生活を繰り返していた。
このドラマの後は、何を見たらいいんだろう。🌸が選んでくるドラマはいつも🐬は興味がわかず、ジャンルも俳優もバラバラで共通点がなかった。🐬には次に🌸が見たがるドラマがわからない。
急に知らない海原に投げ捨てられたような、そんな足元がおぼつかない不安感に襲われる。🌸はもうこの世界のどこにもいないし、笑いかけてくれることも永遠にないのだということをその時初めて、唐突に理解した。目をそらし続けたことで、戻ることも進むこともできないところへ迷い込んでしまったことに、身動きが取れなくなってからようやく気付いた。
世界がぐらりと歪んで、溶けて、ぼろぼろと涙になって零れ落ちていった。ぐぅ、と呻き声を漏らし、眉間を押さえて俯く。過呼吸のように嗚咽を零しながらバランスを崩した身体を支えるためにローテーブルに手をつくと、🌸の為に買った白いパールのティーカップが倒れて二つに割れた。
エンドロールが終わる。