クレヨンしんちゃん 激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者 感想
子どもにはウケていたので「見ない方が良い」とは思いません
むしろ是非見ていただきたい
ただ個人的にはかなり「ウーン」な映画であった
まずかなり不満なのが設定。
明らかに破綻している
しかもこれが序の口でもっと不満を持ったのが展開だというのだからつらい
まず設定を見ましょう
ラクガキングダムと言うラクガキの力で存在している城の住人たちが最近の子どもがゲームやタブレットで遊んでばかりでラクガキが減ってエネルギー不足で困っているから子どもにラクガキをさせようと武装蜂起するというのが今回のストーリー
で、この設定がまず明らかに嘘なんです
「空にラクガキングダムがある」ファンタジーだからこれは良い「ラクガキングダムの力の源はラクガキ」これも良い
「最近ラクガキが減っている」これは嘘
明らかに嘘
紙の消費量が減っているかどうかは分かりません
しかしちょっと大きな都市なら確実に落書きは存在しています
また、冒頭で示された通り最近は3Dアートが出現していますしタブレットでラクガキしている子どももいます
だというのにそれらはラクガキとして作中では認めないのです
壁や紙に描かれたラクガキのみが力をもっている
ラクガキングダムの力の源は「自由で型にはまらないラクガキ」
「自由で型のはまらない」筈が発表媒体を選別している
明らかな論理破綻だと思います
で、それ以上に「これはちょっとなあ」と思ったのが本作が言う「自由」についてです
明らかにこれも破綻しています
冒頭、しんのすけが落書きを地面にします
ひろしの脱いだズボンの絵です
それを地上を監視していたラクガキングダムの人間たちが見て褒めそやします
「なんて自由な」と
で、その絵、滅茶苦茶上手いんですよね
ポケットに皺まで描かれてて一発描きで
幼稚園児が描いたとしたらかなりうまい絵だと思います
正直しんのすけは僕より絵が上手いと思いました
所がその後、ラクガキングダムの宮廷画家が川の端で写実的に川を描いている老人や似顔絵師の絵を見て「違う違う」と言います
彼らの絵はラクガキではないと示されるのです
で、その人はぼーちゃんが描いた石の絵をみて「なんと自由な」と顔を赤らめます
自由とは何なのか
川を描いている老人は何故川を描いたのでしょう
それは老人がこの構図で川を描きたいと思ったからです
そして老人が何故その色を使いその筆を使うのか
それは老人がそう描きたいと思ったからです
老人の絵は写実的でした
何故でしょう
それは老人がそう描きたいと思い努力して描けるようになったからです
つまり絵には自分の好きな物を描くために線や色や方式を選び取るという悦びがあるのです
この悦びは自分の「自由」な気持ちがあるからこそ得られるものです
だというのに本作ではそれを徹底的に否定します
例えばラクガキングダムの兵隊が子ども達を捕えてラクガキを描かせるシーンがあるのですがまさお君は漫画のキャラクターをかなり上手く(やはり僕より上手くw)描きます
それに対して兵隊は怒ります
それではラクガキにならないと
しかし本作に出てきた実際に幼稚園児等の子どもに描いてもらったラクガキは何らかのキャラクターであろう物ばかりです
お化けの絵、動物の絵、ロボットの絵
恐らく絵本やテレビ、動物園などで見たものをイメージして描いた物でしょう
これとまさお君の絵との違いは何でしょう?
何故、ファンアートがラクガキではなくボーちゃんの石の絵や子どもたちの元ネタがあるであろう絵がラクガキなのでしょう?
そしてしんのすけの絵は何故ラクガキなのでしょう?
作中、しんのすけは明太子を描くのですが中々言われないと気付かないレベルです。これを見てラクガキングダムを救う勇者だとしんのすけは判断されます
しかし冒頭のズボンはかなり上手く描いていますしななこお姉さんはちゃんと五頭身の女性だと分かるように描いていますしぶりぶりざえもんはそらで一発で描いています
チョコビも箱こそ歪んでいましたがキャラクターはちゃんと描いています
また飛行機や戦車も飛行機や戦車と分かるようにバランスよく描いています
具体的に言うと戦闘機の尾翼を描いています
クライマックスには超巨大なぶりぶりざえもんを地図の確認も無しに描きます
明太子以外の描写からしんのすけは極めて画力が高いことが分かる
だというのに冒頭まさお君と違ってしんのすけの絵は素晴らしいラクガキだと褒めそやされます
これは一体どういうことなのか
これを解明するヒントはひろしにあります
酔っぱらったひろしに描かせた絵はラクガキと判断されています
そこから考えるにおそらく作中のラクガキは「通常の思考の欠落した、または超越した絵」なのだと思います
しかしその定義のなんと自由の無いことでしょう
自由な型にはまらないラクガキのはずが気持ちを、思考を限定している
要は「絵に貴賎がある」と言っている
アニメで!
自分たちの描いた絵にはパワーが無いと言っている
そんなはずはない!
絵を描くとは素晴らしい物なのです。素敵なことなのです
好きなものを自分が好きな形に描くというのはとんでもなく難しく、だからこそ素晴らしいことなのです
だというのにその素晴らしさを「最近子どもが壁にラクガキしないような気がする」というあいまいな理由で否定しているように本作は見える
本作に出てくる自衛隊のカッコイイこと!本作の背景の綺麗なこと!動いて見えること!
この絵に力が無いはずがない!素晴らしくないはずがない!
あなたたちは間違いなく素晴らしい!
だから何と言うか非常に「気に入らない」んですね本作
嘘以外の何物でもない上になんて悲しい嘘をつくのか!
あと重要なのがスタッフがこの嘘に明らかに自覚的なことです
アニメの会社なら美大出身の人ぐらいいるでしょう
それなら子どもの絵に傾向があり何歳ぐらいの子はこういう絵を描くという話を習っているはずです
だから本来「型にはまらない自由な」筈の子ども達の絵が実はある傾向が察知される似たような絵ばかりになるという事を知っているはずなのです
だというのに子どもの絵は型にはまらない自由な絵だと言う
ここら辺後で話すことにもつながりますがご都合主義的なんですよね非常に
それと論理破綻に関してはまだあってラクガキングダムでは普通の住人たちはちゃんとラクガキなんですが王様以外の幹部たちはスタッフの描いたデッサンのちゃんとした人たちばかりなんですよね
兵隊たちはペンを擬人化した感じなんですが明らかにプロが描いた物で幼稚園児が描いた物よりはデッサン力のある作画になってます
これって多分全部ラクガキにするとかえって作画が大変だから幹部たちや兵隊はちゃんと描いたんだと思うんですよ
けど「ラクガキって素晴らしい」が言いたいだろう本作で「ラクガキだと描きにくいからちゃんと描こう」って感じのキャラが出てきたら萎えるというか…
しかも兵隊が子ども達に描けと渡すのはスケッチブック
型にはまらない自由なラクガキを欲しているのに平々凡々とした物に描かせようとする
明らかに「型にはまらない自由な」の意味を突き詰めていない
と言うのがあって設定は明らかに破綻しています
ただこれは「なんかなー」って感じでそれ以上に駄目だったのが展開だと思います
面白くない
話が取っ散らかってる上ご都合主義的なんですよね
ラクガキングダムの侵攻に対してしんのすけは紙飛行機にされて森に飛ばされます
そこから春日部まで頑張って戻った後に色々あってなんやかんや解決しましたよというストーリーなのですが森に飛ばされたしんのすけが苦労するのは「森にいる、移動しなければならない」であって「敵と戦わなければならない」じゃないんですよね
だからすごくもどかしい
しかもこの森のシーンが長い
多分ブリーフとニセナナコとぶりぶりざえもんとの関係性が描きたかったのでしょう
けどそのためにやることが長々と旅をするというのは…
で、まあユウマという少年の助けを借りて春日部まで戻ってきます
戦車と戦闘機を描き戦いを挑みますが戦車と戦闘機が自壊します
作中なんでかは示されません
尾翼もちゃんと描かれた幼稚園児が描いたとは思えない上手い飛行機だったので画力が原因ではないでしょう
では何が原因か
ご都合主義以外ないですよね
本当に「うーん」という感じ
しかも戦闘機が飛び立つ場面めっちゃくちゃ作画が良いんですよ
明らかに本当にやりたいことが見えるんですよ
「本当はグリングリン飛行機飛ばしたい!」って情念が見えるんですよね
なんだか可哀そうでした
で色々あって春日部を制圧したしんのすけですが空からラクガキングダムが降ってきます
しんのすけが助けた民衆たちはラクガキングダムを止められなそうなしんのすけを罵り逃げ出します
ラクガキをしてくれたら城が浮くからラクガキをしてくれと言われても無視です
正直空から城が降ってきたらそらラクガキなんてしてるより逃げるだろと思うのですがかなり悪し様に描かれます
対してしんのすけは城を止めるべく巨大なぶりぶりざえもんをラインパウダー(学校とかで白線を引く道具)で描きます。
それに対してユウマはタブレットで上空の地図を見ることでそのことに気付きスピーカーでしんのすけに助けてもらったんだから逃げずにラクガキしろと民衆を怒鳴りつけます
結果民衆は帰ってきて楽しそうにラクガキをして巨大なぶりぶりざえもんが完成し城を空に押し戻すことができましためでたしめでたしと物語は終わるのでした
な訳あるか!
なんでラインパウダーが都合よくそこにあるの!?
なんでスピーカーの音そんなに鮮明で皆聞いてるの?
なんでスピーカーで怒鳴っただけで都合よく民衆がいう事を聞いてくれるの?
なんでタブレットの地図機能でしんのすけのが巨大なぶりぶりざえもん描いてること分かったの?
リアルタイム機能なの?
なんで城が落ちてくるのに皆楽しそうなの?
なんで巨大なぶりぶりざえもんは最後消えたの!?
大人の都合以外のなんなんでしょう?
恐らく魂のこもった言葉が民衆を動かすというお約束をやりたかったのだと思います
しかしそれは嘘だろうと
それを言ったら「死にたくない!」「逃げよう!」だって魂が極めてこもっています
彼らの魂の叫びを打ち砕くほどにユウマの心は綺麗だと言いたいのでしょう
しかしユウマはしんのすけを連れてきた以外だと兵隊と同じく民衆にラクガキを求めただけで何か高潔な行動を物語上していないから説得力が出ないんですね
設定で嘘をつかれて展開でも嘘をつかれるのは…
ってかんじで本作は辛かったです正直
ただ良い所も沢山ありました
一番はしんのすけの描いた飛行機が飛び立つ作画です
これがおそろしくカッコイイ
あと自衛隊もものすごくカッコイイです
本当にクレしんスタッフは自衛隊好きだなあと苦笑しましたW
そして写真を絵として認識している事、色々な絵を紹介しようとしている所
冒頭の3dアートなどでも分かりますが子ども達にアートの面白さを見せようとする意図は伝わってきました。クレヨンもタブレットも指もカメラも刷毛もスプレーもラインパウダーさえも画材になり得るというのを見せたのは良いことだと思います
あと子どもたちにはギャグが受けていました
これは本当に大事なところで、だから本作はあくまで「個人的に「うーん」」であって「見ない方が良い映画」とは思いません
子ども向けの作品ですから子どもの反響が一番でしょう
そして重要なのが「描かされることのつらさ」を描いたことです
多分これが一番描きたかったでしょうしそれは成功していたと思います
描くことの素晴らしさは「・・・」でしたが
さて総評
明らかに設定が破綻していてストーリーもご都合主義の塊です。絵に貴賎があるとした本作はあまり好きな映画ではありません。しかし子どもに対して絵の入り口になるような要素を様々用意したこと、子どもにウケる楽しい映画にしたことは良かったと思います
以上ですありがとうございました