シンエヴァンゲリオン感想 カヲシンのなかよくなるためのおまじない
『破』で「愛に性別は関係ないさ」と加持はシンジに唇を近づける。「アーッ!」と拒絶していたそんなシンジは、約14年後同性のカヲルに愛を与える事になる。
なかよくなるためのおまじないだ。
無限のループが嫌で終わらせたいというのは大義名分でカヲルはシンジからの愛を欲していた。
直前のゲンドウとアスカも1人じゃないことをシンジに教えられ救われていく。カヲルも1人が嫌なのだ。
新作を9年も待たされてアガペーの化身だと思っていたカヲルが「シンジを幸せにする事で自分も幸せになりたかった」というと、打算的で突き放したように聞こえるが、元々カヲルはテレビ版漫画版共に自分の幸せの為にシンジに自身を殺させてきた自分勝手な少年だ。殺させる事でシンジから愛を掻っ攫ってきた。
カヲルの本質はシンジに似て寂しがりやで愛されたがりなのである。
彼らの最初の出会いがいつなのかは明言されないが、我らが思い描くカヲシン、イマジナリーカヲシンの出会いはテレビ版24話の「歌はいいね」である。友達と呼べる人がいなくなったシンジ、元から友達がいないカヲル。シンジはカヲルであり、カヲルはシンジだった。1人だった彼らは「2人」になり、翌日カヲルは愛を奪い去る。
その後カヲルは悠久の輪廻の中で拗らせたのだろう。単推し同担拒否になる。
イマジナリーカヲシンはテレビ放送からゲームやグッズ展開などで盛大にやらかし続け、しまいには貞本氏が過呼吸の応急処置とはいえキスさせるまでに至っていた。
今更違う人を好きになれない。
そしてカヲルは一人ぼっちのシンジが好きなのだ。「幸せにしてみせるよ」の表情がアフレコの直前に嫉妬の表情に変更されたのも頷ける。シンジが1人でなければカヲルは「2人」になれない。カヲルはシンジがつまらない女と「2人」になることは絶対に断固許さないのである。
『Q』では自らの手でぼっちにしたシンジをカヲルはべらぼうに甘やかす。なんでも全肯定してくれる美少年。まさに天使だ。
しかしその裏でカヲルはシンジに「触れ合いたい」という気持ちをピアノでぶつけ、そして求める。カヲルは「2人」を永遠の物にしようとする。
我らの心の置き所、漫画版「STAGE.26 ねじれた夜」のカヲルの台詞「生温かで ドロっとしてて気持ち悪くて ゆっくり胸をしめつけてくるような… あれが 「好き」ってこと?」。
トウジ達が実際生存していたにも関わらず、それを開示しなかったカヲルの「好き」はもはや人間的だった。
この仮初の天使の「好き」はなんなのだろう?
カヲルのモデルになったと言われている幾原邦彦氏初監督作品、劇場版『セーラームーンR』。これは庵野氏が劇場に3回も赴き、幼少期の衛を演じた緒方恵美女史をシンジ役に抜擢するきっかけになった作品だ。
映画にはフィオレというキャラクターが登場する。彼はカヲルと共通点が多い。宇宙からやってきて一人ぼっち、両親を亡くした同じ一人ぼっちの衛と友達になる。なんならカヲルと話し方さえも似ている。
幼少期の衛に愛のメタファーである花を貰って、お返しにいっぱいの花をあげると約束したフィオレが地球に帰ってくると、衛はうさぎを愛していた。動揺したフィオレはうさぎから衛を略奪しなんやかんやあるのだが、これはもうほぼ新劇のカヲルである。
前前前世でシンジに殺してもらい、今世で「約束の時」をしようと地球に飛来したらレイと抱き合っている。
幾原氏はフィオレに対してこう言っている。
彼は“愛は求めるもの・奪うもの”と思っていた。それをセーラームーンが“愛は与えるもの”と体現した。
https://cho-animedia.jp/article/2017/07/02/2874.html
フィオレは"愛"っていうものは自分が相手に対して注いだ熱量がそのまま返ってくるものだと思っているんです。でもそれって"愛"じゃなくて"恋"なんですね。https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1498901892
幾原氏の言葉を借りると、カヲルのシンジへの「好き」は愛ではなく恋だ。
一人ぼっちのシンジにカヲルは優しく話しかけ、ピアノの連弾に誘い、一緒に星を見て、S-DATを直し、世界の状況を教え、DSSチョーカーを肩代わりし、甘い言葉を囁く。計画が頓挫したと分かると最後の悪あがきに、これ見よがしにシンジの目の前で死んでみせた。
DSSチョーカー捨てろと皆思っただろう。カヲルは捨てるわけなかったのだ。あれは愛の保険なのだから。
挙げ句の果てに彼は使徒である。
NHK 『全エヴァンゲリオン大投票』での石田彰氏のコメント「無償の愛の権化のようなモンスターは、どんなに普通の人間に見えても、やはり人ではなく、使徒以外の何者でもないのです。」も、「おばあちゃんのふりした狼さんは、人間に見えても、赤ずきんちゃんを食べようとする、悪いやつ」。つまりカヲルは救世主シンジを独り占めして人と使徒の戦争に勝利しようとする敵であり、シンジを欲するのは謂わば使徒としての本能なのだ。
シンジはそんな同性、愛強奪魔カヲルに最高の愛を与える。なかよくなるためのおまじないは、ずっと「2人」だよの約束なのだ。