イベントコミュを読んで思ったんだけどデレステ新アイドルの黒埼ちとせと白雪千夜って未来を失った者と過去を失った者なんだ……
黒埼ちとせは自分は長くないと言う。それがどれほど本当かは分からないけれどもそのように自分を認識しておりそのことはちとせにとって重い事実であるようだ。千夜の話によればちとせは19歳だが休学をしていたからいま高3である。初日のトレーニングでも倒れたからかなり病弱であるらしい。黒埼ちとせには未来がない。
一方白雪千夜は家族がいないようである。千夜は「私は何も求めない。いつか燃えてしまうなら」と言う。たぶん火事にあったのだと思われる。思い出の物も家族と一緒に失ってしまったのかもしれない。白雪千夜には過去がない。
白雪千夜はN特訓後親愛度MAXセリフでこう言う。「戯れに飽きて、辞めることになったら。そう考えている私の心の内、お前に分かりますか?」ここでいう「戯れ」とはちとせが千夜を引き連れてアイドルを始めたことを指していると思う。だから千夜はちとせの戯れに振り回されて望んでいないものをやり、それを好きになったとしてもちとせが飽きてしまえばそれを辞めざるをえない、そんなことがいままで何度もあったのではないか、そう思っていた。
イベントコミュを読んでみるとそれは違うのではないかと思う。千夜は火事にあっていた可能性がある。だから今でも自分が好きになったものや大事に思うものを全て失くしてしまうことを恐れているのかもしれない。
千夜はちとせの望むことをしようとする。ちとせの望みを叶えようとする。主人公はちとせで自分はその主人公を支える存在だと、そう思っている。それは独りになってしまった自分を救ってくれた黒埼(の娘)への恩返しでもあるだろうし、独りになってしまった自分のそばにいてくれたちとせへの愛着や恩義でもあるだろう。
でもまた別様にも考えられる。千夜自らが主体的に何かを愛し欲望するとしても、その対象はまたある日突然失われてしまうかもしれない。ひょっとすると自らが主体的に欲望することを断念するというのは、そうした喪失に対する防衛なのではないかとも考えたくなる。自らが何かを愛したり欲望したりしなければ、愛したり欲望したものを失わずに済むからだ。千夜は夢を見ない。趣味が睡眠でちとせいわく「早起きなんて苦手」なのに。
ちとせは夢を見る。しかも1人分ではなくそれ以上の夢を。「眠りについたら、もう目覚めない」幼いころにそんな恐怖を抱いたちとせは月光浴が趣味で夜はあまり眠らず散歩に出かけるのに。
ちとせは生まれた家柄も容姿も良い。望んだものは何でも手に入ったという。それこそアイドルになるということも。でもたぶんそうやって叶えられる夢は1人分のものだろう。自分のことなら自分の名前や容姿や能力でどうにかできる。
でもちとせが夢見ているものは、そうやって自分の手の届く範囲で自分にどうにでもできる望んだとおりになる範囲を超えたところにある。それは千夜の未来だ。それはちとせ1人ではどうすることもできない。ちとせ自身のことではないし、千夜の未来を見届けることもできないからだ。
ちとせは、自分は長くないと言う。でも千夜には未来があると言う。ちとせだけが知っている千夜のかわいいところをみんなにも知ってほしい、千夜を「私の僕ちゃんじゃなくしてあげて」と願う。眠っても夢を見ることがない千夜のかわりに、眠ることに恐怖を抱いていたちとせが眠らずに夢を見るのだ。でも何でも望み通りになるちとせが見るその夢は、ちとせ1人だけでは望み通りに叶えられない。
たぶん、だからアイドルになったのだろう。ちとせと千夜が1人と1人、主人と従者ではなく、アイドルとアイドルとして。そしてちとせだけでは叶えられない夢を叶えるための第3者の存在を求めて。
アイドルとしてプロデューサーに見出され、こうしてデレステで描き出されるよりも前の2人の生活へと思いを馳せたくなる。表舞台のスポットライトに見つかることなく、ひっそりと静かに暮らす2人。
ちとせと千夜の名前は、それぞれ自分の持っていないものを表しているのではないかと考えたくなる。ちとせは千歳、長い未来の時間を。千夜は夢が花開く場所であるはずの夜を。千夜には未来がある。夜はちとせのものだ。自分ではそれを持っていなくても、互いが互いの欠けているそれを持ち合わせている。ちとせが夢を見るのであり、たとえ「灰色」であっても「現実を塗り替えていく」のが千夜。対極の2人。
その”2人”の物語はここで終わる。これからはアイドルとしてプロデューサーやファンとともに物語が動き始める。でもその物語がこれからどうなるのかは、まだだれも知らない。