「カタシロ」の終盤を書き起こしました。セッション終了後、KPとSKPには言ったのですが、葵君は記憶を失った状態なら身体を提供するでしょうが、記憶がある状態ならトウヤ君を手にかけます。※シナリオのネタバレを含みます。
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医者『さあ、話をしようか。何から聞きたい?』
葵『そうですね。まずは、トウヤ君は元気なんですね?』
医者『ああ。この状態で元気と言えるかどうかは分からないがね』
葵『……聞き方が悪かったです。トウヤ君は無事なんですね?』
医者『ああ、今まで君と話していただろう?』
葵『……これは、どういうことなんですか。あの、えっと、脳幹とでも言えばいいんでしょうか、あの姿は一体何なんですか』
医者『トウヤはね、身体の原型が留められないくらいの重症を負ったんだ。でも、脳だけは保存することができたんだ。私は、ある種族との交流があってね。だから今、この状態だ』
葵『彼は、トウヤ君は、そのことを自覚していないんですね』
医者『目が見えない、身体の感覚もない。ただ、話ができて、耳が聞こえる。今はそれだけの状態だ』
葵『じゃあ、その、隣に置いてある俺の身体はどういうことですか』
医者『今、ここにあるのは、君自身の元の身体だ』
葵『……なるほど。……今の俺の身体がどうなっているか、というのは聞かない方がいいですよね』
医者『聞きたく、ないのか?』
葵『あまり考えたくはないと思っています。それこそ、先生とお話しした思考実験のようだ』
医者『ああ、随分怖がっている面があったからな。まあ、でも……検討は付いているんだろう?』
葵『……何となくは』
医者『安心してくれ。脳はちゃんと君のものだ』
葵『……これを俺に見せて、どうしようって言うんですか。先生』
医者『そうだな。単刀直入に言おう。トウヤのために、君の身体が欲しい。君の身体を譲ってはくれないか』
葵『そう、ですね……先生は、息子さんを助けたいと思っている』
医者『もちろん』
葵『でなければ、こんなことはしないでしょう』
医者『ああ』
葵『俺の身体を提供して、息子さんは確実に治るんですか?』
医者『ああ。君の身体と息子との適正率は98%だ。きっとこの子に馴染んでくれる』
葵『ちなみに、息子さんは今おいくつで?』
医者『19だ』
葵『それじゃ、もう一つだけ質問が。やっぱり聞いておきますよ。今の俺の身体は、どうなっているんですか。これから使う身体だ。ちゃんと聞いておきたい』
医者『君の身体は作りものだ。人形。機械で出来ている』
葵『……分かりました。いいですよ。俺の身体を提供します』
医者『本当か?』
葵『病気になった時に診てもらう奴が、医者から技師に変わっただけでしょう?』
葵『言ったでしょう、先生。俺は黙秘をするんですよ。記憶はないけれど、きっと俺はそうします。何となくだけど、その確信はあります』
医者『ここでも、意見はどれも変わらなかったね。僕は自白をし、君は黙秘をする。テセウスの舟のように、君は乗っている人間が君であればそれでいい、と』
葵『そして、手術は成功するんでしょう? なら、あとは提供する側の人間の問題だ。俺に今、権利があるっていうんなら、俺は受領する』
医者『……君には、権利がある』
葵『そもそも、本当に俺の身体を強引にでも奪う気があるんだったら、そうできたはずだ。それなのに、しなかった』
医者『お見通しか。……そうだな、じゃあ、君の身体をもらうよ。本当にいいんだな?』
葵『ええ、いいですよ。強いて言うなら、トウヤ君には申し訳ないですけど。何しろ、十歳も違う身体ですから』
医者『……ありがとう』
葵『……ただ、そうですね。彼と一緒に、会って話をするのは、彼にとっても……いや、俺はともかく彼にとっては気持ちいいものじゃないでしょう。そこらへんはうまくやってくださいよ、先生』
医者『分かった、上手く話をつけておく。……本当に、ありがとう』
葵『お礼を言われるようなことは、何も。それに、ひょっとしたら、記憶が戻った後の俺だったらどう言うか分かりませんでしたしね』
医者『……そうか』
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エンディング描写後の一幕
猫「……KP、二つ確認が。今いるのは自分の家ですか?」
猫「できれば、どこかしらのホテルがいいなと思っています。今失踪中なんです、彼!」
KP「なるほど! でしたら、ホテルです!!」
猫「ありがとうございます!!」
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葵『……ったく、面倒なことに巻き込んでくれやがって』
葵『まあ、命が取られなかっただけマシか。別に、一度拾った命だ。いや、二度拾った命か。身体くらいどうだっていいさ』
葵『俺にはやることがあるからな』
葵『例え人間の身体だろうとそうじゃなくても、それができれば問題はない』
葵『……にしても、ここも嗅ぎつけられるのも時間の問題か』
葵『……次は北、だな』
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そんなわけで後日談。
葵君のシナリオ踏破数は、今回のセッションでKPCを含めて24回。いろいろな体験をした中に、実は「カタシロ」にピンポイントで刺さるセッションがあったんですよ。
何もできず、ただ「殺してくれ」と呻くだけの「自我のある生首」との邂逅です。
その処遇については他PCとのPvPに発展したのですが、当時の葵君は自らナイフを手に取りました。望まれているなら、既に汚れている自分の手で終わらせる。それが、神話的事象に巻き込まれた末の彼の決断でした(結局、その決意が果たされることはありませんでしたが)
だから、記憶がある状態の葵君ならトウヤ君を殺すでしょう。彼がいつか現状を理解した時、あの生首と同じ状況になることが分かっているからです。
ところが、今回の葵君には記憶がありません。まっさらです。神話的事象に呑まれる前の彼ならどうするだろうと頭を巡らせた末、「記憶があってもなくても、彼は『自分にできることをする』だろう」という考えに思い至りました。
記憶がある状態なら、トウヤ君の命を絶つことが「自分にできること」で、
記憶がない状態なら、トウヤ君に身体を提供することが「自分にできること」なのです。
あと、自分の命を救ってくれた先生に対する恩義もちょっとくらいはあったかも知れません。これぞ刷り込み効果。
なお、記憶が戻ってホテルで目を覚ました葵君は闇葵君なので「そんなこと(トウヤ君が生きるか死ぬかなんて)どうでもいい」→「面倒なことに巻き込んでくれやがって」という言い方になったのでした。もちろん、自分の身体が人間のままだろうが機械になっていようが構いません。何者かに追われていることも理解しているでしょうが、それが自称弟子だろうと元相方だろうと、それ以外の誰であろうとも一向に構わないのです。
三度目の生を受けた彼の目的は既に決まっていて、それ以外のことに関わり合っている暇はないのですから。
ちなみに、闇葵君が「北に行く」と暗示したのは、某都道府県が神話的事象にたくさん見舞われている土地(猫の所感)だと思ったからです。試される大地。わくわく。
――――さて、これにて葵君とはしばらくお別れです。どうかお元気で。また会える日を願っています。
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