さめ・ルクバトルSS ( https://note.com/yosetsu/n/n96983e8cdf48 ) で夜宙ルクが勝った場合のIFエンド(バッドエンド注意) #さめのうた #夜宙ルク
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部屋が突如として無重力空間へと切り替わる。うたとルクの攻守が逆転した。うたは無重力下で思うように動けない。何より思ったように距離を詰められない。ルクも無重力下で動きが鈍っているのは同じだが、ルクの攻撃は星と閃光が主体で体勢や距離の影響が少ない。剣撃が重要な攻撃手段であるうたはそれを封じられ、ルクの攻撃を避ける難易度も上がり、氷の魔術を防御に使わざるを得ない状況になっていた。
うたが近づこうとする動きをルクは最優先で潰す。閃光も連発はできないが当てれば致命傷だ。閃光で意識を逸らし星の軌道で撹乱する。星や閃光がうたの体をかすめ、そのたびにその部分が焼け焦げただれていく。
「ほら!さめくん!受けに回っても勝てないよ!」
「…これならどう!?」
うたが足元に氷塊を作り、その氷塊を足場に跳躍する。無重力化での身のこなしに慣れ、まっすぐ慣性的に体が動く。しかしその動きは、重力下でのうたの動きと比べると止まっているように見えるほど遅い。
「いい的だね!」
ルクが閃光を放つ。左右から星が遅いかかる。うたはそのすべてを的確に防御した。
「やるね」
うたが氷塊を蹴り近接戦の間合いに入る。そのまま上段から剣を振るう。ルクが左手で障壁を作り防御する。うたの斬撃は衝撃を砕き、ルクの体を再び斬り裂こうとする。しかしうたの剣は腕を斬り落とす前に止まった。ルクの左手がうたの剣を掴んでいる。ルクの右手がうたの腹部にかざされる。ゼロ距離の閃光を防ぐことはできない。
うたが体をひねって躱そうとするが、ルクの方が一瞬だけ早かった。迸る光の束がうたの脇腹に穴をあける。
「かは…っ…」
うたが吹き飛ばされる。しかし無重力空間はうたが倒れ込むことも許さなかった。投げ出された四肢に向かって正確に星が撃ち込まれる。血しぶきが球体となってあたりに浮いている。
ルクは剣を投げ捨てると、再び操作パネルに触れる。部屋に重力が戻る。うたの体が地面にぶつかる。あたりの床が血に染まった。
「俺の勝ちだね、さめくん。そのまま逃げかえって、上の人間に伝えなよ。夜宙ルクは強すぎます、倒すことは不可能です、って」
うたは息も絶え絶えにかろうじてルクを見上げている。ルクとうたの目が合う。うたが絞り出すような声で告げる。
「もう手遅れだよ。何もかも」
突如としてうたを中心に魔法陣が展開する。緑色の光を放つ円が多種多様な文様と幾何学的な図形を伴い成長し拡大していく。それは紛れもなく転移魔法だった。
「まさか…増援か…」
転移魔法は基本的に、転移者の記憶を頼りに転移先と接続する。だからこそ、ルクはアストリアに来るのがさめのうただと分かっていた。知らない場所に行くためには、術者が転移先の座標を正確に特定しなければならない。高速で航行するアストリアの座標の特定は通常は不可能だ。道しるべとなるものでもない限りは。今うたの足元に展開する魔法陣は一人分の転送には大きすぎる。これはうたが帰還するためのものではない。だからこれはうたの元へと増援を送る魔法陣だ。他でもないさめのうたの魔力反応めがけて、複数の増援が転移しようとしている。勝ったとはいえ深い傷を負ったルクにとって増援は死を意味する。防ぐ方法は一つしかない。
「本当に、手遅れみたいだね」
ルクが右手をかざす。魔法陣の完成が近い。うたがルクを見つめて、そして、笑った。ルクが唇を噛む。一筋の光がうたの胸を貫く。魔法陣が消え、うたはその場に崩れ落ちると、動かなくなった。ルクの顔を一筋の涙が伝った。
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もずの前には5人の戦士が立っている。それぞれの足元に魔法陣が展開し、魔力の流れとともに魔法陣に光が満ちていく。転送が始まろうとするまさにその時、魔法陣は音もなく消失した。
「もず殿、これは…」
リーダー格であろう男がもずに尋ねる。
「なんで…?なにがあったの……?」
もずは混乱した表情で魔導書を見つめている。
「魔力追跡が…消えた…?」
もずがつぶやく。少しの静寂ののち、リーダー格の男が口を開いた。
「つまり、うた殿は…」
「そんなわけない!!そんなわけないよ!!きっとアストリアに妨害されてるんだ!それかもずの術式が間違って…!」
もずが泣きそうな顔でまくしたてる。
「しかし、その可能性は…」
「うるさい!黙って!今直すから!!待ってて!!」
もずが懸命に魔導書を操作する様子を、戦士たちは黙って見ていることしかできなかった。10分が経ち、再び男が告げる。
「もず殿」
「待って!もう少しだから!!」
「我々は一旦引き上げます。転移可能になったら連絡してください。すぐに駆け付けますので」
行くぞ、と仲間に合図し、戦士たちは去っていった。もずは余計なことを考えまいと何度も魔導書を見返した。間違っているところはどこにもない。魔力反応は途絶えたままだ。
もずが魔導書を睨め続けてどのくらい時間が経ったか分からない。ただひたすらに魔導書を見つめ続けていた。その時、もずの目の前に魔法陣が現れた。
「うた様!?」
もずが魔法陣に駆け寄る。魔法陣は光を放ち、さめのうたを残して消えた。地面に横たわるうたは穏やかな顔で眠っているようだった。
「うた様!起きてください!!うた様!!」
もずがうたに触れる。服が所々焼け焦げほつれているが、体に目立った外傷はない。もずがうたを揺り動かす。手に伝わる感触がおかしい。まるで人の形をした肉塊のようだ。頬にそっと手を当てると、ひんやりと冷たかった。
「うた様…」
はらり、とうたの胸の上から何かが落ちる。白い薔薇が一輪、床に落ちていた。
「うた様……」
もう一度敬愛する主人の名を呼ぶ。もう返事が返ってこないことをもずは知っていた。
「ルク…」
白い薔薇を持ち上げて再び胸の上に置く。かつて友人だった名前を一度だけつぶやいた。
「…う、あ………」
もずの目から涙が溢れる。どうして、というもずの問いに、答える者は誰もいなかった。
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