日本でもファリムとボンギル(from 破墓)の関係性に萌えを感じた方が結構いらっしゃるようで笑ってる😂
二人に関してより解像度が上がるかも?と思う情報をずらずらと(ほんの少しネタバレになる内容を含みます)。
・ファリムとボンギルは巫俗(韓国のシャーマニズム信仰)世界の人たちです。
・巫堂(ムーダン)になる人はなる前に「神病(または巫病)」に遭います。神病とは霊感のある人が色んな霊(雑鬼または雑神と呼ばれる悪霊)に取り憑かれ、原因の分からない病気や不幸(親族の死、金銭問題、憑依など)に遭うことを言います。
・神病になっても対処せず放置したら死の危機にまで至ると言われています。親族に移ったりもします。(「親族の◯◯が巫堂になるのを拒んだのがお前に移ったみたいだ。もうお前が巫堂になるしかない」的なセリフは巫堂の過去エピソードで結構あるある)
・神病になった時の対処法は色々ありますが、代表的なのは儀式によって強力で善良な神様を自分の中に受け入れて(降ろして)守ってもらうということです。この儀式のことを「신내림(降神)」または「내림굿(降굿)」と言います。굿(グッ)とは巫堂が行う神事の総称で様々な種類があります。
・巫堂(厳密には降神巫)とはこの신내림を経てなります。神様を降神させ神事を行ったり、人々の未来に関して助言したりする巫俗の一般的なシャーマンのことです。巫堂になったら自分の神様を祀る神堂を持ち、過去の人生とはお別れして巫堂として生きなければなりません。
(ちなみに巫堂は殆ど女性なので、男性巫堂の場合は博数(パクス)または博数巫堂と言って区別したりします)
・ボンギルも野球選手時代に神病を病んで、元々は巫堂(博数)になる運命だったけどファリムと出会って助かったという裏設定があります。「ファリムの隣にいれば大丈夫。怖いものなし」と言ってるくらいですから、言葉通りファリム(ファリムの中の神様の力)が守ってくれてるんでしょう。
・ちなみにボンギルのように経文を読み祈祷する人のことを韓国では「法師」と言います。(日本の宣伝資料では祈祷師になってたかな?)굿において経文を読むことで神が降りてくる天からの道を開いてくれる人です(他にもボンギルが劇中で行ったように様々役割がありますが)。巫堂より数が圧倒的に少ないので굿がある度に取り合いになるとか。ボンギルはイケメンでもあるから巫堂オンニたちの間で取り合いになってるとファリムも言ってましたね笑
・巫俗の世界に入るには当然修行が必要です。この時の師匠巫堂のことを신어머니(神母)または신아버지(神父)、弟子のことを신딸(神娘)、신아들(神息子)と言います(他にも同じ師匠を持つ神姉妹、神兄弟など)。ボンギルがファリムを先生と呼ぶのは신어머니と신아들の関係だからです。
・신어머니・신아버지が儀式を行う際、衣装などのお支度は全部弟子である신아들・신딸が担当します。ボンギルがファリムの靴紐を結ぶシーンが入ったのはそれをはっきり表すためです。굿판(굿を行う場所)に行けば実際にこのような光景を見ることができます。男女なのは珍しいですが。
(ちなみにこのシーンに異性(恋)的な意味が込められてるかという質問に監督は「わからない(観客の解釈に委ねる的な)」とお答えされました)
・ファリムにももちろん師匠である신어머니がいらっしゃいます。劇中でも少し触れられてましたね。病院シーンで登場する妊婦の巫堂もファリムがオンニ(お姉さん)と呼んでいるのでおそらく同じ師匠を持つ신언니(神姉)です。ファリムが日本語を話せるのは師匠が日本と縁のある方だったからだそう。
・ファリムとボンギルは3歳差で、ファリムが90年生まれの午年、ボンギルが93年生まれの酉年です。(病院シーンでいざとなったらボンギルの代わりに死んでくれる)鶏が出てくるのはそういうこと。
・ちなみにな話ですが、韓国の干支には動物以外に毎年5つの色(青・赤・黄・白・黒)が組み合わされて、例えば今年は青い辰の年です。で、ファリムは白い午年、ボンギルは黒い酉年。実際の韓国の歴史として白い午年の女は気が強いとされ(全く根拠はない)中絶手術をするか赤ん坊の内に殺しちゃうことが多かったです(その結果として白い午年の人の性比が女性100に対し男116.5という恐ろしい数値になりました)。幼い頃から「お前は白い午年だから~」って散々厳しく言われて育った人も多いです。だいぶ有名な話なので意図的に90年生まれに設定されたんだと思われます。
・ファリムとボンギルが外車に乗りブランド品を身にまとってるのは監督の調査によるもので、実際に最近の若い巫堂はそういう人が多いらしいです。稼ぎがいいですからね。「元野球選手で全身に太乙保身経のタトゥーを入れた巫堂」も調査中会った人の中にいたとか。
(ちなみに監督の前作である『サバハ』でも外車に乗りブランド品を身にまとった巫堂が出てきます。『破墓』は監督のオカルト三部作の第三作目の作品で、一作目の『プリースト 悪魔を葬る者』、二作目の『サバハ』全てお勧めです)
・ファリムとボンギルで日本に出張に行くこともあるらしく、編集段階でカットされたようです。他にもファリム&ボンギル関連で蛇足すぎてカットしたシーンが多数あるとか(円盤に入れて欲しい…)。巫堂がアメリカや日本など海外から依頼を受け出張に行くのも実際によくあることらしいです。
・映画の前半に出てくる儀式でファリムが刀を投げたのは結界を張るためで、自分の顔や太ももを包丁で切ったり火に手を突っ込んだりするのは「私には神様が宿ってる(からこんなことをしても大丈夫)」を表すためです。良い子は真似しちゃダメ。
・ファリム役のゴウンちゃんは実際に数カ月間修行を積みました。ファリムに換えの包丁を渡してくれた方が本物の巫堂イ・ダヨンさん。後半に出てくるファリムのお祖母様役の方がイ・ダヨンさんのお義母さんで巫堂歴43年のゴ・チュンジャさん。お二方がゴウンちゃんの師匠(?)に当たります。他にも映画内の儀式に関して様々なアドバイスを頂いたそう。
・病院シーンで3人の巫堂は相当訛りの強い方言(それぞれ異なる地方)で喋っています(翻訳がどうなったかは分かりませんが)。これは도깨비 놀이(ドッケビ遊び)という済州島の굿の一種で、憑依を解くため美味しい食べ物を用意しドッケビ(霊)のフリをすることで誘い出すという伝統儀式です。方言で喋るのはドッケビは大体地方の山奥に住んでるから。
・ファリムは元々ゴウンちゃんに任せることを念頭に置いて作られたキャラクターです。
・ファリムとボンギルは儀式に必要な道具(=巫具)の一部を服の中に入れて持ち歩いてるという設定があります。
・ファリムとボンギルの関係性は韓国でも大変人気で、続編の予定があるかという質問に監督が「書けないことはないけど、それは『破墓』より面白い物語じゃなきゃいけない」というお話をされたことがあります。
・ボンギルの全身に入ってる経文は「太乙保身経」といって道教の天帝(最高神)である太乙様に捧げる経文で、悪霊から我々を守ってください的な内容になっています。法師が最初に習う基礎的な経文の一つでもあるらしいです。
公式でその内容を公開してるのでよかったら→https://x.com/showboxmovie/status/1765670871455465574
・お祓いシーンでファリムが口に入れてるのは馬の血です。降りて来てくださった神様をおもてなしする(神の代わりに食べる)意味が込められています。
・結界を張る時に使った馬の血は韓国の悪霊は馬の血が大の苦手で厄除けの効果があるからです。(劇中のとある理由があったため効くかはわからない状況でしたが)。
韓国のあの黄色い紙に赤い文字が書かれた御札(=부적/ブジョッ/符籍)を書く際に馬の血を絵の具に混ぜて書いたりもします。巫俗関連のお店には必ず置いてあるもの(生の血は中々出回らないので普通は粉末状に加工して売られることが多いみたいです)。
・もち米は古くから毒を排出し厄運から身を守ることに使われてきたものです。
(作中の内容とは関係のない話ですが、韓国では冬至の日に小豆のお粥を食べる古くからの習慣があります。冬至は一年で最も日照時間が短く、悪霊が現れやすいと言われていて、馬の血は中々手に入らないからそれと似た色の小豆粥を食べることにしたという風に言われています。小豆だけでなく中にはもち米で作ったお餅も入っていて大変美味しいです。一部は悪霊を追い払うという意味を込めて家の外にも掛けました。都会では中々できないけど田舎では今も掛けてるかも?)