最近のニラ七の、合成音声カバーのマスタリングの考え方をまとめてみました 音量と音圧について悩んでいる方の参考程度になれれば幸いです(ホントに参考程度です)
※あくまで界隈(合成音声カバー)内の方向けに、ニラ七が聞きかじった情報をちょっと整頓してちょっと検証してみた結果を自分なりに考えてみたものです。文章の構成の都合上言い切り型の表現を用いますが、私は音について分からないことの方が圧倒的に多いし、本職のミックスエンジニアの前でこんな解説を見せようものならおそらく八つ裂きにされますので、あくまでひとつの参考程度に捉えていただければ幸いです。明らかな間違いがあればご指摘ください。
【要点だけまとめろという方へ】
ニラ七が考えたなんとなくいい感じのマスタリング の項と、 Integrated lufsのはかりかた の項と、ここまで読んだけどよく分かんないよという人向けのすごく簡潔な結論 の項をお読みください。
【ニラ七が考えたなんとなくいい感じのマスタリング】
・Integrated lufsが-14LUFSを満たしている
・自分の意図するダイナミックレンジが保たれている
Integrated lufs❓-14LUFS❓ダイナミックレンジ❓なんのこっちゃ わかる言葉を使え、しばくぞ
ざっと解説します。
【LUFS】
ラウドネスの単位です。
ラウドネスっていうのは人間の感覚上での音の大きさのことなんですが、なんとラウドネスメーターを用いることで数値として表すことができます。
※追記 この記事でLUFSをマイナスでしか表現していないのには理由があります。LUFSの正式名称はラウドネスフルスケールといい、計測器の最大値を基準値とするため、マイナスで表します。例えば-10LUFSの音源より-6LUFSの音源の方が音がでかいです。
【LU】
世の中にはLUという単位があります。LUFSは絶対値なのに対してLUは相対値で、ラウドネスの差を表したりするのに使われるそうです。-10LUFSの音源と-6LUFSの音源の差は4LUです、とか。
LUとdBは一単位あたりの大きさが等しく、LUFSとdBの一単位あたりの大きさも同じ(らしい?)です。つまり-13LUFSの音源を1dB下げるとだいたい-14LUFSになります。音量調節の際に参考にできるかも。
【ラウドネスノーマライゼーション(LN)】
LNは、Youtubeやニコニコといった動画共有サービスや、SpotifyやApple Musicといった楽曲配信サービスに搭載されている機能のことです。異なる音量感の作品を、作品の平均的なラウドネス(Integrated lufs)を計測し、揃えることでだいたい同じ音量感に調節してくれます。これによってリスナーは、作品毎に音量をちまちま調節する必要がありません。
人間の耳は大きい音をいい音と錯覚するので勘違いされがちですが、LNは音量のみをいじるため、音質や音圧の劣化はありません。
サービスによって基準値は異なります。以下、我々が作品を投稿する機会があるであろうサービスたちのLN基準です。
Youtube:-14.0LUFS
ニコニコ:-15.0LUFS
bilibili:無いらしい
Twitter:多分無い
Utaloader:多分無い
TikTok:コンプレッションで音量揃えてるらしいので、これに限っては音質や音圧の変化があるかも。
例えば、YouTubeでIntegrated lufsが-6LUFSの音源を投稿すると、Integrated lufsが-14LUFSになるように変換されます。
ちなみに、Youtube・ニコニコはLN基準を下回るIntegrated lufsの音声にはLNを適用しないため、音量の小さすぎる音声をアップロードすると他作品に比べて音が小さくなってしまいます。
LNの音量のみを下げるという仕組み上、いい音に聞かせることを目的に過度なクリッピングをし音圧を稼いだ音源は、各プラットフォームのLN基準を考えてマスタリングした音源と比べると、抑揚がなく、ピークが歪んで聴こえるのみとなります(これの可否については、少し下にスクロールして ダイナミックレンジ の項と、海苔波形は悪なのか という項にて詳細を記述しています)。
ただ、LNのおかげで音圧を無理に稼がなくていいとはいえ、なるべく他作品と遜色ないようにしたいし、必要なコンプレッションはしたいよね〜ということで、最低でも各サービスのLN基準を満たせるようにマスタリングしていきたいところ。
よく見るとYoutubeとニコニコのLN基準が違います。
より精密な表現を追求するのであれば、YouTube仕様とニコニコ仕様でそれぞれ音量上げして、動画もYouTubeバージョンとニコニコバージョンでそれぞれ出力して……という工程を踏まなければならないのですが、今回のテーマ的には、相当癖のある曲で投稿するサービスによって工夫しないと音がおかしくなるとかじゃない限り、そこまで深く考えなくて大丈夫だと思います。
【ダイナミックレンジ】
曲中の大きい音と小さい音の幅のことです。ダイナミックレンジが広いほど抑揚が生まれます。
表現の目的やジャンル的に音圧ギッチギチな楽曲ならまだしも、バンドサウンドや生楽器を多く用いる楽曲では、ドラムの音が聞こえたり生楽器ならではの抑揚を感じることができる必要があります。かといってダイナミックレンジが広すぎると小さな音量の部分が不明瞭に聞こえてしまうので、適度なコンプレッションは必要になってきます。
自分が必要だと判断したところまでのダイナミックレンジは保ちつつマスタリングしていきたいところ。
【Integrated lufsのはかりかた】
①Youlean Loudness Meter 2をDLする(Pro版は課金が必要ですがIntegrated lufsの計測は無料です)。
②DAWを開いて、マスタリング済音声を貼る(かマスタリングプロジェクトを開く)。
③マスタートラックのミキサーにYoulean Loudness Meter 2を刺す(他にプラグインを刺している場合、一番下に刺してください)。
④音声の初めから終わりまで通しで再生。
⑤Youlean Loudness Meter 2の画面のINTEGRATEDっていう項目に表示されるのが、そのマスタリング済音声のIntegrated lufsです。
※なんかRXのスタンドアロン版に音声を再生する手間を省いてIntegrated lufsの計測ができる機能があるっぽい?よくわからないですが、持ってる方は試してみていいかも。
最低でもこのIntegrated lufsが-14(ニコニコのみに投稿する場合は-15)を満たしていて、自分の想定している抑揚が保てていれば大丈夫だと思います。
【海苔波形は悪なのか】
全くそんなことないと思います。
ダイナミックレンジの項にて先述しましたが、EDMとかハードめなメタルとかそもそもがラウドなジャンルや表現者の意図によっては海苔波形が必要になると思いますし、ジャンルに限らず海苔波形の音の感じが好きなのであれば海苔波形を作り続けて問題ないと考えます。
ただいくらパッツパツの海苔波形を作っても、Youtubeやニコニコに上げるのであれば自動的に音量は下げられるので、音を大きく聴かせることだけを目的に海苔波形をつくるのはあまりよくないと思います。
日本の商業音楽業界ではLNの仕組みが正しく周知されていないが故に未だに音量を大きく聞かせるための海苔波形の楽曲が多く、プロのエンジニアが海苔波形作ってるなら自分も海苔波形じゃないとダメかなぁなんて思うかもしれませんが、そんなことはないんじゃないかな〜というのが私の考えです。
【ここまで読んだけどよくわかんないよという人向けのすごく簡潔な結論】
とりあえず何も気にせずマスタリングしましょう。ただし、考えなしに音圧や音量を稼ぎすぎないようにしましょう。考えありの場合は大丈夫です。
またその際、特に意図が無ければIntegrated lufsが-14LUFS未満にならないように注意したほうがいいです。ただし、-14LUFSドンピシャを狙わなければならないわけではなく、自分の好みの抑揚の程度によって-14LUFSをオーバーしていても構いません。
【主な参考元】
ニコニコのLNの仕組みと、LNに対応するミックス・マスタリングの留意点についてまとめられている動画 https://www.nicovideo.jp/watch/sm36282792
マスタリングにおいて過度に音圧を上げることによる弊害をわかりやすくまとめられている記事(星の形の例えが非常にわかりやすいです) https://soundevotee.net/blog/2017/01/23/things_about_loudness_you_should_know_before_mastering/
ダイナミック・レンジの話 の項 https://pspunch.com/pd/article/dr_meter/
【おまけ:自分のYouTubeの動画にどれだけLNが適用されているのか見てみよう】
<表示の出し方>
①WebでYouTubeを開く。
②任意の自分の動画を再生する。
③YouTubeの動画音量を100%にする(本体や再生機器の音量ではなくYouTubeの動画音量)。
④再生されている動画の適当な場所で右クリック。
⑤「詳細統計情報」の項目を左クリック。動画上にいかにもな感じのウィンドウが出たらOK。
<見方>
※韮音嗣2周年に投稿したチャーリイのUTAUカバーを例としています。
Volume/Nomalizedという項目を見てみます。
……100%/48%って書いてある。
左側(100%)は、今再生している動画の設定音量を示しています。表示の出し方の項にて動画音量を100%にしたので、100%になっています。
対して右側(48%)は、本来の動画の音量の何%の音量でこの動画が再生されているのか、を示しています。本来の動画の音量というのは、できた動画をYouTubeにアップロードする前の動画の音量です。この動画はどうやら、動画の音量を100%にしても、本来の動画の音量の48%までしか出ないようです。
少し右側を見ると、括弧内にcontents loudness 6.4dbと表示されています。contents loudnessは、本来の動画の音量から、LNによってどれくらい音量が変化したかを示しています。
-14 + contents loudnessで、その動画のだいたいの本来の音量がわかります。この動画の場合は-7.6LUFSくらいです。
ちなみに、contents loudnessがマイナスになっている時は、その動画の本来の音量がLN基準からどれくらい小さくなっているかを示します。ラウドネスノーマライゼーション(LN) の項で述べた通り、YouTubeではIntegrated lufsが-14LUFSを下回る音源には何も補正が入らず、小さいままになってしまうので注意。