pSSR【カラカラカラ】樋口円香の話(【HAPPY-!NG】市川雛菜の話もします)
私は樋口円香についてはそこまで分かっていないので、【カラカラカラ】の4つのコミュについての論点はうまく掴めないのですが、Trueコミュの「エンジン」は面白いなと思いました。
仕事終わりにPが運転する車の中のPと円香の会話のコミュです。Pは円香が初対面の人には丁寧に接するということについて感じ入るものがある様子です。そこでPが何を感じたのか、それを言い当てようとする円香。Pはそれを制します。そしてPは、円香に嫌われたままだとしても信用してもらえるように努力すると言いますが、円香は自分はそれほどのことをしてもらう存在なのかと疑問に思います。その理由をPは答えようとしますが今度は円香がそれを制します。相手の言おうとすることを互いに制する二人。ここに対比があります。そしてPは、答えようとしたその理由について、いつか分かるときがくると言い、それまではここにいてほしいと言います。それに対する円香の答えが「あなたがこの車を止めるまで」でした。コミュのタイトルは「エンジン」。
円香のWING編では、Pのことを「高燃費」と言ったり、オーディションの控え室の息苦しさを話すコミュのタイトルが「二酸化炭素濃度の話」だったりと、エネルギーの燃焼のモチーフが出てきます。「エンジン」はここに連なるものであるように思われます。面白いのは、この「エンジン」が円香のエンジンのことだと思っていたらどうやらそうではないというところです。
このコミュはPが運転する車の中での会話であり、そこで円香は「あなたがこの車を止めるまで(それまではアイドルとしてここにいよう)」と言っています。ここで「この車」とは今2人が乗っているその当の車のことでありながら、そこにアイドルという仕事をやっていくということが託されているように読めます。そのアイドルのエンジンを燃やしているのは円香当人ではなく、車を運転しているPの方です。普通アイドルというものはアイドル当人が頑張るものですが、ここではPに向かって「頑張ってね」と言っているように読めるのが面白いわけです。
で、そこで思い出されるのが市川雛菜のpSSR【HAPPY-!NG】のTrueコミュ「CherryPick!NG」です。「!NG」は進行形/動名詞の「ING」であり、禁止を示す「NG」のダブルミーニングになっています。チェリーピッキングというのはつまみ食いのことで、都合の良い事実だけを論拠として取り上げて都合の悪い事実を無視する誤謬のことでもあります。それについて「ING」であり「NG」だとする。
「HAPPY-!NG」では雛菜は将来の進路に悩んでいましたが、いろんなことをとにかくやってみようという結論にたどり着きます。そうした結論にたどり着いた雛菜に向かって、Pは「俺も一緒に挑戦していくからさ」と言っています(「Inter♡iew」)。そこで出てくるエピソードがTrueの「CherryPick!NG」です。
「CherryPick!NG」は、おしゃれなカフェでのPと雛菜の会話です。雛菜はけっこうな量のスイーツを注文し、Pは食べきれるのかと心配します。そこで驚く雛菜。「プロデューサーも食べるでしょ」と。雛菜はプロデューサーの言った「俺も一緒に挑戦していくからさ」という言葉を引き合いに出します。つまり雛菜はこう言っているわけです。雛菜は将来のためにともかくいろんなことをやってみることにする。一見嫌そうなことであってもやってみることにする。Pも一緒に挑戦していくと言った。それはPも、一見嫌そうなことをやってみるということだ。それは今ここで言えば、大量のスイーツをPも食べるということだ。雛菜はこう言っているわけです。
ですから「CherryPick!NG」というのは雛菜に向かって「つまみ食い(良いとこどり)はだめだよ」と言っているだけでなく、というよりもむしろこれはPに向かって言っている言葉になるわけです。「むしろ」というのは、ここでは雛菜は自分の食べたいスイーツを大量注文して、自分が食べたい分だけ食べるつもりだからです。Pはブラックコーヒーとか飲んでいますし、おそらく甘いものが大好きという感じではないと思います。そういうPにとって、これだけの量のスイーツを食べるということは「挑戦」に違いないはずです。そういうわけで雛菜もまた、Pに向かって「頑張ってね」と言っているように読めるのです。(というかWING編で雛菜は実際に繰り返しPに向かって「頑張ってプロデュースしてね」といったことを言っています。)
面白いのは、円香の「エンジン」も雛菜の「CherryPick!NG」も、どちらもアイドルの側にあるものというよりはPの側にあるものであるように(も)読めるところです。円香も雛菜も、Pに向かって「頑張ってプロデュースしてね」と言っているように読めるのです。そこが面白い。頑張るのはアイドル自身であるという先入観にくさびを打ち込んできたわけです。そもそも雛菜を始めとしてノクチルメンバーの物語からは「頑張る(努力する)」ということの意味の問い直しが感じられますよね。あと「天塵」においても円香がPに問いただすPの側の責任のことも思い出されるところです。
ノクチルのpSSRは【カラカラカラ】円香と【HAPPY-!NG】雛菜しか持っていないので、透と小糸がどんな感じかは分からないのですが、こういうところにもノクチルの特徴みたいなものを感じるような気がします。