Aconite 現行未通過×
I’d rather have a broken arm than a broken heart.
- Christie Brinkley
___カランコロン…
扉を開けると共にベルが鳴り、地下への階段がティモシー オブリガートを迎え入れる。
カツン、カツン、と靴を鳴らして1歩、また1歩と下っていけば、そこから顔を覗かせたのは質素なバーカウンターだった。
「いらっしゃいませ」
店内には陽気なジャズとバーテンダーが見守る中、ティモシー・オブリガートはカウンター席へと腰掛ける。注文は、と問われれば「強めのものを3人分」と静かに返す。
早くこの国から出なくてはならないことは理解していた。
無論、近日中には飛行機に乗る。
「寒い所に行きたい」なんて漠然とした事を言う奴がいるもんだから行先には困ってしまった。
……まぁ、一先ずは国から出ることをだけを優先した結果近場のカナダになったのは、妥協点と言えるだろう。
スッ、と3つのカクテルグラスがカウンターに並ぶ。1つは左隣へ、1つは右隣へ、最後の1つは自分の元へと手繰り寄せられる。
黄色く光るそれらは、やけに眩しく感じられた。
____乾杯。
いつもと違う軌道を描きながらグラスは口へと運ばれる。これだけ甘ったるかったら彼奴も大喜びだろう、とつい隣を見やって。
すぐに視線を戻す他なかった。
▲▼▲▼▲▼
__夜の街を歩く。
煙草を吸おうと奮闘するが、片腕には全てがもどかしい。やっと火のついたそれを肺に下す。
煙を吐いて。彼奴はよくもこんなもの吸えたもんだ、と。早々に足で火を消してしまう。
…これからは所謂"放浪者"として色々な街を回る上、言うまでもないが今後の渡米予定は無い。
人間はどうしても忘れてしまう生き物だ。
だから。
俺らが生きた土地で飲むには十分過ぎる夜だと思った。
ただ、
それだけ。