【♡まっクろはムウサぎ♡】七草にちかとWINGの話。七草にちかの要求と声。
WING編プロデュースしながらSSRのコミュを読んでいて、そうなのかと思ったところがあったので、メモ的な感じで残しておきます。
SSRのコミュ「あたりますね」「もっとあたりますね」「あた」では、にちかはプロデューサー相手にトゲトゲしていて、かなりイライラしているのが伝わってきます。なぜか事務所でレッスンしていて、普通に仕事しているプロデューサーにうるさいと言ったりしていて、私は正直かなりわがままだなと思いました。イライラしている理由は分かりませんが、イライラしているときはこんなわがままも言いたくなってしまうのは仕方ないことだと思いますが、こうしたわがままを言ってしまうところが描かれているところはポイントなのかなって思います。
この「わがまま」、プロデューサーにちゃんと見ていてほしいというか、プロデューサーに相手してほしいというか、そういう甘えみたいなものも感じますし、実際そうなのではないかなと思います。これがにちかについてよく語られるところの、父親がいないのでプロデューサーを父親のように見ているみたいなことはのかどうかは分かりませんが、3つ目のコミュ「あた」で、にちかが務めているアルバイト先のマネージャーが「家族にはなってあげられない」と理解を示していたところにあるように、家族というのはキーワードになるところであるとは思います。
にちかはプロデューサー相手にさまざまなわがままを言ってきますが、私が思うに、そのわがままはプロデューサーに宛てられた要求であるというところがポイントで、言っていることの内容にはないように思います。子供のわがままってそういうことがありますよね。ああしてほしいこうしてほしいって言いながら、その要求を聞いて実現すると、そうじゃないこうじゃないって言ってくるみたいな。じゃあどうしろって言うんだって思いますが、こういう要求は、要求の内容が問題なのではなく、相手に要求が宛てられているというところの方が重要になってくるところです。
私が念頭に置いているのは、精神分析家ラカンの要求の概念で、これは欲望や欲求とも区別されるものです。欲求はだいたいは空腹とか睡眠とかそういう身体の生理的な欠乏によるものですが、要求はそうした欲求に還元できないものです。というのも要求は、他者に宛てられたお願いの言葉で、ポイントは他者に宛てられているということと、言葉で発せられているというところにあるからです。
子供が「お腹すいた」みたいなことを言ってきたとして、なんらかの食べ物を与えたとします。そのとき「これは嫌だ」とか「あれがいい」とか「違うのがよかった」とか言って反発することがあります。じゃあ仕方ないといってその子供の言うことを聞き入れて望むものを与えたとき、また再び文句が飛んでくることがあります。じゃあどうしろって言うんだって思うところです。ここで重要なのは、子供は単に欲求を言葉で発しているだけではないというところです。言葉で発せられた願い事は、その相手に宛てられていて、その願い事の裏には単に欲求を満たすこと以上の何かが込められています。それは、その他者の現前です。これが欲求から区別される要求で、それゆえ要求は愛の要求であるとも言われます。にちかがプロデューサーあいてにあたってわがままを言っているのも、こういう要求であると考えることができます。
こんなことを考えながら読んでいたので、「あた」でフロアマネージャーが「家族」って言葉を出してきて、その後姉はづきとの幼少期のエピソード(そこでも子供の要求の話になる)が出てきて、Trueコミュが「家」で家族の話になっていて、全部掌の上だったのかってなりました。
ここから関連して、もう一つの話です。
要求は言葉として発せられているというところにポイントの一つがあります。で、にちかと言えばお願い事は言葉で言えというスタンスのある人だということがWING編と朝コミュで描かれています。そしてお願い事以外でもいろいろと言葉で発するところが描かれています。一番印象的なのが、283プロに研修生として所属することが決まった後に屋上で叫んでいた場面ですよね。にちかが言葉を発するということについてとてもよい読解があります。
笹草「「反響」から「共振」へ - 「反射」をキーワードに読む七草にちかW.I.N.G. 」
https://note.com/sasa_gusa/n/n7adf8dd00327
今回は要求という線から、こちらの記事に書かれていることとは少し違うことを思いついたのでそれをメモしておきます。ポイントになるのはWING編の3つ目のコミュです。
冒頭から、八雲なみのスカウトの伝説について語るにちかのモノローグが挿入されます。それはこう語っています。
「大通りの、たくさん人が行き交う中の、そこだけ。そこだけ、特別に見えたんだって」
「スポットライトが当たって、カメラが回って、それで、コンデンサーマイクが拾うみたいに――」
「聞こえてきたんだって、声が。――――その、特別な女の子の声が」
八雲なみの声が人が行き交う雑踏の中で突然聞こえてきたということが印象的に語られています。そこで雑踏の中に立つ七草にちかの姿が挿入されています。個人的に重要に思えるのが、この後です。このモノローグは姉はづきに向って語られたものであることが分かります。
「ねぇ、お姉ちゃん聞いてる? なみちゃんのスカウトの話、すごいよね…………!」
ここではづきはにちかの話を聞いていないようです。八雲なみは雑踏の中にいてもその声が届くのに、にちかの声は姉はづきにも届かない。にちかの言葉=要求は居場所を失っているように思えます。Trueで語られているように、お母さんは入院しているようですし(おそらく長期療養か繰り返しの入院)、お父さんも亡くなっています。はづきも忙しくしています。にちかは自身の要求の宛先を家族の中に見つけられていないのではないか、という気がしてきます。
確かに要求は、すでに見たように答えることの不可能なところまで連れていかれるものですが、完全に聞き入れることが不可能であるからといって、完全に無視するのがよいものでもないものです。重要なのは、要求は聞き入れられつつ不可能なポイントまで連れていかれるというところにあります。
要求がいったんは聞き入れられることによって、他者の場に要求した主体の居場所が作られます。これがまず重要です。で、その要求の果てにたどり着くのが、他者にとっての不可能のポイントです。要求を完全に聞き入れることができるわけではないというところで、他者が完全な存在ではないということが示されるわけです(他者が完全だと主体はその他者に完全にコントロールされてしまう)。この2つのことがポイントになってきます。
そう考えると、にちかが屋上で叫んだり壁に向かって悪態をついたりするとき、にちかは言葉=要求の宛先を持っていないように見えてきます。あるいは八雲なみの声が聞き届けられたように、自分の声が聞き届けられるべき場所を求めているように見えてきます。
言葉=要求の宛先を持つということは、居場所を持つということだと考えられるので、にちかは自分の居場所を持てていないように思えます。八雲なみのスカウト伝説の声のことを考えると、にちかがアイドルに(とりわけ八雲なみに)憧れるのは、自分の存在の居場所を見つけたいからなのではないか、という風に思えてきます。自分の居場所というのは、一番身近なところでは家族とか友人とかそういうところから作られると思うのですが、にちかはいきなり「人ごみ」から出発しており、そういうところから身近なところの自分の居場所=要求の宛先を失っているのではないか、と考えたくなってしまいます。
でもこう考えると、にちかに必要だったのは本当は要求の宛先=自分の居場所であって、必ずしもアイドルではなかったのか?という風に思えてきてしまいます。そんなことはない、と否定的に答えるのだとすれば、この推論には足りない部分があるかもしれません。
ただやはり【♡まっクろはムウサぎ♡】では、要求の宛先としてプロデューサーを見つけることができたところが描かれているように思えます。そういう要求の宛先としては、アルバイト先の大人は不適当だった。フロアマネージャーはかなり理解がある人で、とても良い人だと思います。そういう宛先としては自分は不適当であるというところまで理解している。
プロデューサーはその話を聞いたうえで、自分をそうした要求の宛先として利用していいという旨のことをにちかに伝えています。これはいわば「家族」とも、仕事仲間とも異なる形で、アイドルとプロデューサーという関係を描き出そうとしているのかなという風に思えて、そこがとても良いなと思ったところでした。
「あた」の最後では、特に用もなく呼び出されて、実際に来たら本当に来たんだって言われるっていうところが、個人的に好きなポイントです。これぞまさに「要求」っていう感じで。にちかの声は届くし、にちかの居場所は確かにある。八雲なみみたいな「特別」なアイドルにならなくたって……