RWO(ラクシア・ワールド・オンライン)
藤白水蓮の、もう一つの始まりの物語
キャラメイク前日譚みたいなもの。キャラシが出たのでだれでもOKです
「ラクシア・ワールド・オンライン?」
『そそ。大体一年前くらいかねえ?フルダイブ型のVRMMORPGって体で発売したんだけど、それこそス◯ッチとかプレ◯テ5とかを思い出すよーな、物売るってレベルじゃねー勢いで店の在庫が消し飛んだゲーム』
「……それ元ネタ何だっけ?プレス◯2?」
『んにゃ、惜しい。3だよ、わしら生まれちょるで』
「そんな最近……そうでもないな?んで、それがどしたん」
そう返して、傍らのタンブラーに入ったりんごジュースを一口飲む。
私、藤白水蓮は自身をゲーマーではない……と思っている。
確かにそこらの学生や社会人に比べたらゲーム経験は豊富であり、たった今通話に使っているのもゲーミングPCにインストールされたストリーマーなんかが使うチャットアプリではあるが、通話相手である親友の汐屋亜虹(ゲームオタク)やこのPCを組んだ弟(パソコンオタク)が身近な比較対象として存在するために、謎の言い聞かせを自身に課しているのだった。
『いやね、どーやら近々十分量が再販される予定があるらしいんだわさ。じゃけん嬢ちゃん一緒に始めなーい?ってお誘い』
「ふーん……?」
ブラウザの検索窓に【ラクシア・ワールド・オンライン wiki】と打ち込んで検索をかけると、有名なゲーム攻略系企業や有志作成のサイトがいくつかヒットする。
だが詳細を調べてみると、王道ファンタジーRPGらしいということが分かる他は、せいぜいチュートリアルのちょっと先くらいまでの情報しか出てこない。まるで意図的に隠されているかのように。
「全然ネットに情報ないじゃん。本当に人気作?」
『そのはずなんだけどにゃー。でも裏を返せば、攻略情報見ちゃいがちな現代で貴重な初見プレイが出来るってことじゃろ?いーじゃん……♪』
「……一理ある。じゃあまた魔法系のサポ職やればいい?」
この汐屋亜虹という女はゲーム側からよほど冷遇されていない限り近接火力職を好む性質にある。介護プレイが必要なほどではないが、二人でパーティープレイを効率的にこなそうと思えばもう一人は遠距離魔法職に落ち着くのが自然である。
そしてゲームをコミュニケーションツールの一つとして割り切っている私は、自らそのポジションにつくのが平常だった。
『それなんだけどね。せっかく色々できるみたいだから今回くらい好きにやったらどーよ?』
「好きに、って……二人とも脳筋ゴリラになったらどーすんのさ」
『そん時はそん時じゃのぅ。技能とジョブを組み合わせてビルドするみたいだし、流石に被らんて』
「はー、ふーん?そういうこと……」
『あと、みーちゃんの理想ビルドってやつを見てみたいにゃ~』
結局それが本音なんじゃねーですかね、お前さんや。
「わかったわかった。ちゃんと買えたらね」
『やっぴー。そんじゃよろしく~。またの~』
「あいよー」
さてと、いくつ予約を入れておこうかな。
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あれから近くの家電量販店3店舗とネットショップ2店舗で予約を入れていたためにさほど苦労なくゲームを手にする権利を得た私は、初期ビルドについて頭を悩ませていた。
なぜならこれまでのMMORPGといえば、せいぜい10個もないジョブから1つを最初に選び、レベルを上げていくとジョブごとのスキルが手に入るようなものが大半で、仮に使用スキルを選ぶ自由度があったとしてもいわゆる強スキル・弱スキルで分類できるためにテンプレ構成がある程度決まっているものであった。つまり自分だけのビルドは存在しないと言っていい。
しかしラクシア・ワールド・オンライン――通称RWOでは、(wikiによると)20以上の種族、21の技能、50近くの初級職、さらには戦闘特技やら流派やらを組み合わせることとなる。上級職なんてのもあるらしく、その上も示唆されているとなればそのパターンは膨大になる。ある程度のテンプレは当然あるだろうが、よほどのことがなければ世界に一つのビルドをプレイヤー各々が誕生させることになるだろう。
キャラメイクとは終わりなき挑戦の始まりであり、スタートは徹底的にと意気込む彼女にとっては、高まる期待とともに大きな壁として立ちはだかっていた。
攻略サイトとにらめっこして数時間後、どうしようもなくなって悔しくも弟にアドバイスを求めると、間もなくして『フルダイブだから自分を動かすと思って、自分本体に似た特徴で始めるのが無難だろ。あえて真逆を行く連中もいるけど、姉貴には絶対合わないと思う』と返ってきた。なんかカチンと来たので「そんなことは分かってるんだよヽ(`Д´)ノ」とだけ返しておく。
――それでもちょっとくらいはファンタジーしたっていいじゃない。初めてのフルダイブ型VRなんだから。
悩みに悩んで、妥協するところは妥協して本番勝負、そして前情報を集められるだけ集め頭に叩き込んで臨んだキャラメイクを経て、水蓮の夢――やりたいことを詰め込むと決めたアバター、ミンフェア・ラ・レーヴェが、未知の世界に旅立っていったのだった。